青春してみようか 1 その日は、夏休みも残り数日となった日だった。 アンサンブルコンクールも終わり、やっと夏休みらしい休みを満喫する残り少ない日々。 宿題なんてとっくに終えていて、とくにしなければならないこともない。 今回のコンクールで、1人の少女の影響でそれぞれ内面的に成長を遂げたメンバーたち。 繋がりが薄かったはずの天音のアンサンブルメンバーたちは、今では 練習でもないのに自然と集まって、共に過ごす時間を設けるようになった。 そんな、行使する彼らがほとんど無意識に行動を共にして2日。 練習を終え、家に帰ることもせずに本を読み始めた英里子。 やはり同じように帰らなかった天宮と七海が、一緒になって盛り上がるという 今までだったら考えもしなかった光景を目の端にとらえつつも、特に関心を払うことなくページを繰り続けていた。 「これはスゴいね…。 朝倉、君も飲んでみなよ」 そう言って、不意に差し出されたカップを英里子は素直に受け取った。 カップの中には鮮やかなオレンジ色の飲み物。 くん、と匂いを嗅いでみれば、甘ったるい匂いがする。 恐る恐るストローをくわえれば、途端に口に流れ込んでくる甘い液体。 想像以上の甘さに、瞬時に英里子の眉根に皺が寄った。 「何これ?」 唇を離し、顔から離してしげしげと観察する視線を向ける。 確認するように天宮に視線を向ければ、ふふ、と穏やかに笑っていた。 これは先程天宮が飲んでいた代物だったはず。 天宮も甘い物は嫌いではないけれど、わざわざ好んで口にするほどではない。 その天宮が、どうしてこんな物を飲んでいるんだろう。 口にはこびる甘さに、口直しにお茶を飲みながら天宮に視線を移せば 先程から天宮の隣にいた七海が、何故か恐縮しながら様子をうかがっていて、英里子は首を傾げた。 「それ、七海の好物なんだって。 美味しいからって勧められて飲んでみたけど、すごい味だろう?」 そんな天宮の言葉に、七海の様子の原因を知って納得する。 「まぁ、ね。甘い物は嫌いじゃないし食べることもあるけど、これは一くち飲めば十分かな」 そう言いながら、カップと七海を交互に見た。 人の味覚に差はあれど、ここまで違うとなれば興味深いような気がしたのだ。 とはいえ、きっとこのジュースは七海のものなのだろう。 天宮に勧められたとはいえ、勝手に飲んでしまったことに悪いと思った英里子は おどおどとこちらを見上げる七海の頭を撫でてやった。すると何故か、今度はわたわたと慌て始めてしまう。 英里子は無表情のままながらも、面白いからという理由で、このまま頭を撫で続けることにした。 そんな2人の様子を面白そうに見ていた天宮が、フッと閃いたと言わんばかりの表情を見せた。 幼馴染だからなのか、その顔を見た瞬間、英里子の頭にも閃くものがある。 何故だか、そのときの天宮と考えていることは同じだという確信があって 2人、顔を突き合わせてニヤリと笑った。 「これ、冥加に飲ませてみたらどうなるだろう」 ああ、やっぱり。 にんまりと笑みを浮かべた英里子は、天宮の提案に大きく頷いてみせた。 [次へ#] |