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甘いわだかまりがひとつ

卒業アルバムは思い出に残る物にしようと、格式張ったものではない
各学年の個性が見える物を制作するのが、我が校の伝統であるらしい。

3年生だけに設立される卒業アルバム制作委員。
1度目の招集は3年生になったばかりの頃。
制作に向けて卒業アルバムに使えそうな写真を、各クラスごとに集めるようにしろとのことだった。

そして12月。今学期の終業式も間近に迫る今日。
2度目の招集があり、各クラスの代表がそれぞれのクラスで集めた写真を持ち寄って集まっていた。




「じゃあまず、持ち寄った写真のチェックをしようか。
部活とかイベントとか、クラス単位でそれぞれ分類。アルバムには載せられないような写真も外していって。
自分のクラスのだとチェックが甘くなるかもしれないから、隣の人と写真を交換してね」

そんな委員長の指示に、隣にいた6組の不二くんと写真を交換する。

「ごめん、かなり量が多いんだけど…」

「ううん、大丈夫だよ」

確かに受け取った6組の写真は、他のクラスよりずっと多かった。
でも1枚2枚と写真をチェックするうちに、その量にも納得する。

6組には菊丸くんというムードメーカーがいるからか、どの写真も何人かで集まって撮った集合写真だった。
どの写真もみんな楽しそうで、クラス全体で仲が良いんだということがどの写真からも伝わってくる。

見ているこっちも楽しくなってきて、いつの間にか笑みが浮かんでいた。



そうして写真を分類していくうちに、1枚、雰囲気の違う写真に手が止まる。

それは女子が1人、中央に写っているもので。
今まで集合写真が多かったぶん、たったそれだけの写真の存在はイレギュラーに感じてしまった。

そしてそれ以上に、

(…これ、私?)

そこに写っているのは、間違いなく私だったのだ。

おそらく場所は美術室。
1人、真剣な表情でキャンバスに向かい合っている。
窓枠が写っているから、外から撮ったんだろうか。

何故6組で集めた写真の中に、私が写っている物があるのだろう。
しかもこの写真に見覚えがない。ということは私のクラスの物が紛れたわけでもないのだ。
一体いつ、誰が撮ったものなのか。

疑問ばかりが渦巻く私の頭に、フッとひらめきが走った。

集めた写真には、アルバムに使わなかったときに返却できるように
裏に、提供者のクラスと名前を書くことになっている。
それを思い出した私は、逸る気持ちを抑えてゆっくりと写真を裏返した。


『6組、不二周助』

書き付けてある名前に目を見張る。

とっさに隣に顔を向ければ
顔を上げた不二くんとちょうど目が合って、ニコリと笑いかけられた。

「…ああ。その写真、綺麗に撮れてると思わない?」

私の手の中を見て、そう言って笑う不二くんの様子に変わったところはない。
ぎこちないながらも頷くしかない私に、不二くんは笑みを深めて更に続けた。

「写真が好きで、気に入ったものをいろいろ撮ったりするんだ」

「そ、そうなんだ…」

不二くんの口から飛び出す意味深な言葉。
心に引っかかりを覚えながらも、それについて確認する余裕なんてなかった。
ジッと見つめてくる瞳に身の置き所がなくて、返事をしながらもスッと視線を下ろす。

自意識過剰だ。
もしくは、からかわれているだけなんだ。

そう必死に言い聞かせているのに、顔に熱が集まってきてどうにもならない。
不二くんの隣に座っていることが異様に恥ずかしくなって。
それに居心地が悪い思いをしているのに、隣にいることが嫌じゃない。むしろ嬉しいとすら思ってしまっている。
写真をチェックする合間にさり気なく向けられる視線に、敏感に反応してしまう。

(写真が好きだって言ってたじゃない。
たまたま…そう、たまたま綺麗に撮れたからお気に入りの写真だってだけだよ)

そう必死に自分に言い聞かせるのだけれど
甘いわだかまりは解消されることなく、胸にくすぶり続けたのだった。










→アトガキ

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