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悲しくて笑った

初めて会ったときの印象は、可愛い女の子。

その女の子と大会で会って、そして負けて。
変わっていく女の子の音を追うように、自然と耳が彼女の音色を探すようになっていた。

まさか、こんなに好きになるなんて思ってもみなかった。

一生に一度の恋。
そんな言葉を恥ずかしげもなく言い切れるくらいには、オレは君に夢中になってた。

そんな女の子が自分を好きになってくれるなんて、そんな奇跡みたいなこと
元から信じちゃいなかったけれど。
それでも、オレが尊敬するあの先輩の隣で幸せそうに微笑む君の姿を見ることになるなんて
そんなことも思ってもみなかった。


オレが見たこともない、そしてオレには向けられることのない甘やかな微笑み。
君が笑っていると嬉しくなっていたはずなのに、ツキンと胸を刺す痛みにギュッと胸元を握りしめる。

君が笑っていることが嬉しいのに、ツラい。

そう感じることが不思議な気がして、けれど必然で。
そんなことにも、オレが君を好きなんだということを自覚させられてしまうんだ。




「かなでちゃん!」

遠く、彼女が見えて駆け寄る。
気が急いてしまって、動かす足が遅く感じる。早く彼女の側に立ちたくてたまらない。
君に、名前を読んで欲しい。

「ホント、かなでちゃんって可愛いよね!
好きだなぁ、かなでちゃんのそういうトコ」

そう言って笑えば、顔をほのかに赤く染めた君は「いっつも冗談ばっかり」とむくれて顔を背けるんだ。

そんな可愛い変化をオレが与えられたことが嬉しい。
そして冗談にしたのは自分なのに、伝わらない想いに安心と切なさ、相反する気持ちを覚えていた。


好き、大好き。
本当に好きだよ。

そう伝えることは簡単だ。
けれど応えることのできない想いに、優しい君が気に病むだろうことは火を見るよりも明らかで。
伝えることが自己満足にしかならないのなら、君を苦しめることにしかならないのなら
きっと、この胸の痛みも我慢できる。
君には、いつも笑っていてほしいから。

好きだ、その気持ちも冗談に受け取られるようにして、言葉にのせて吐き出す。
オレ、あんまり我慢することに慣れてないから。
湧きいでるこの気持ちを吐き出すことでガス抜きしないと、自分でもどうなるかわからないから。
だから先輩、ちゃんと我慢するからこれだけは許してください。


でも時々、不安になるんだ。

懸命に気持ちを押し殺して、君の前で笑ってるけどこの笑顔は歪んでないかって。
人の痛みに敏感な君だからこそ、いつか気付かれるんじゃないかって不安になる。

だから、君がオレに向けてくれる笑顔がいつもと変わりないことに
自分の笑みが崩れていないことを確認してホッとするんだ。

いつか、この胸の痛みが馴染んで、先輩と君が並んで微笑みあっていても
淋しさを覚えることがあっても、痛みを感じることがなくなったとき。
失恋という青春の思い出の1ページとして、オレの一部に消化されたとき。
君を好きになったことを懐かしむことができるようになったとき。

先輩の隣で微笑んでいる君と、本当の笑顔で笑い合って。
そして心から、君たちのことを祝福するから。

今はまだシクシクと痛みを訴える心に、そんな気持ちになることが信じられないくらいだけれど。
そう、どこかで願っているのも本当のことだから。

だからもし、オレの浮かべる笑みが壊れかけていたとしても
どうか…どうか、気付かないフリをしていてください。
まだ胸は痛むけれど、君を好きになれて本当に良かった。

きっと…絶対に、幸せになってね。



追伸:
もし先輩に泣かされるようなことがあったらいつでもおいで。
胸くらいは貸してあげられると思うから。

きっと、そんな日はこないだろうけどね。そうは思うけど、少しくらいは格好つけさせて。
いつでも格好つけたがり。こういうとこ、男はメンドクサイって言われるのかもしれないね。










→アトガキ

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あきゅろす。
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