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ヒビが入った

「おう、坂本」

声を掛けられて振り返れば、そこには自分がこの学校で最も同情する人物だった。

「なに、南くん」

愛想がないと散々言われている私でも、彼には優しくすることに決めている。

言われることは既にわかっているので、面倒ではあったが
くしくもその面倒と関わりが深い自覚があったので、大人しく応じておいた。

「千石を見なかったか?」

ああ、やっぱり。
一部を除いて異様にキャラの濃い男子テニス部。部長なばかりに苦労を背負い込むようになった人。

本当にごめんなさい。
心の中で謝っておいて、しかし返答は決まっていた。

「さぁ、今日は見てないわ。
どうせどこかで女の子と話してるんじゃない?」

「…そうか、至急連絡を取りたいんだがなぁ」

「いっそ首輪に縄でも付けておけば?
それならいつでも捕まるじゃない」

「…坂本。お前、それ本気で言ってるだろう?」

「ええ、当たり前でしょう」

何を今更と言わんばかりに答えてやれば、南くんの口元がヒクリと引きつった。
私とあいつは付き合いも長く、わざわざ遠慮するような間柄でもない。
ひと思いにやってしまえばいいのだ。私が許す。

しかし南くんは深い溜め息をついたあと、迷うように口を開いた。

「すまん、坂本。お前にこんなことを頼むのは筋違いだとわかってはいるんだが…」

あまりにも言いにくそうにするので首を傾げて続きを促してやれば、南くんはその頼みとやらを口にした。

なんだ、そんなこと。
あまりにも南くんの恐縮した態度に何を言われるかと身構えたが、用件を聞けば肩の力が抜けた。

他の人間の頼みならまず断るだろうが(だって面倒だし)
先程の通り、南くんには優しくすることに決めている。二つ返事で了承した。

安心したのか、ホッと息をついた南くんに
用件は済んだだろうと、挨拶を残してその場を後にする。


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あきゅろす。
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