優しいヒト
1
「はい、いっぱい食べてね」
そうして目の前に差し出されたご馳走に飛びつく。
空腹に夢中になってむしゃぶりつけば、頭上でクスクスと楽しげな笑い声。
「ほら、そんなに慌てなくてもたくさんあるから」
すごく嬉しそうなお姉さんの声に顔を上げる。
ニコニコ笑って見つめてくるお姉さんの様子に首を傾げれば、手を伸ばしてボクの頭を撫でてきた。
少しくすぐったくて首をすくめる。
でも心地良くて、目を細めて手のひらの感触を楽しんだ。
「ほら、まだあるよ」
そう言ってお姉さんがひとつまみ差し出してきたご飯に、パクリと食いついて食事を再開した。
その間も、お姉さんの優しい視線を感じることが出来る。
「神子殿、そろそろ…」
お姉さんの後ろに控えていた男が、遠慮がちに声を掛けてきた。
口の中にいっぱいに含み、もぐもぐと口を動かしつつお姉さんたちの様子を眺める。
お姉さんは龍神の神子ってヒトなんだって。
怨霊ってコワイのを退治してくれて、ゴキョーの力っていうのを集めているんだって。
京のあちこちを回っているらしく、友達がいろんなところで見かけたと教えてくれる。
その忙しい合間を縫って遊びに来ては、こうしてご馳走を食べさせてくれるんだ。
「ごめんね、そろそろ行かなきゃ」
お姉さんがくれたご飯を粗方食べ終わった頃、そう言ってお姉さんは腰を浮かせた。
ボクがご馳走のお礼に花を差し出すと、嬉しそうに笑って受け取ってくれる。
「ありがとう。
また来るね、ウサギさん」
再び頭を撫でられて、ボクは手のひらに擦りつく。
去っていく後ろ姿が見えなくなるまで見送って、ボクは巣穴に潜り込んだ。
→アトガキ
[次へ#]
無料HPエムペ!