倒錯的な愛撫 2>>最後の仕上げ 「ティエリア、こっち向いて」 しばらくして立ち直った様子のエリン。 最後の仕上げをするとの言葉に、ティエリアも大人しく従う。 「軽く口を開いて…そう」 先程までのふざけた調子が嘘のように、間近にある真剣な表情。 エリンの手によって、最後の仕上げ、ティエリアの唇が赤く色づいていく。 ただ唇に色を乗せただけなのに、花が咲き誇ったかのように華やぎが増した。 「よし、パーフェクト!」 すべての用意は整って、ドレスが汚れないように掛けていたケープを取れば、そこにはこれ以上ない自分の作品が出来上がっている。 その様を見つめて、エリンは満足そうににんまりと笑った。 「2人とも、そろそろ出発しなきゃ」 2人を見送るために、部屋の出口へとパタパタと駆けていく。 途中で、先に用意していたティエリア用のバッグを拾い上げる。 「行ってくる」 「うん、気をつけてね」 まずは出口近くにいた刹那。 フッと笑みを浮かべて声を掛けていく、その後ろ姿を見送る。 そしてティエリアが近付いてきたところで、「彼女」のために用意したコートとバッグを差し出した。 「ティエリアも、気をつけて」 「ああ…」 荷物を受け取って、部屋を後にすればいいだけ。 そうすれば、2人はそのままパーティー会場へと向かい、エリンはこの部屋を引き払って先に母艦に戻る手筈になっている。 なのに、ティエリアはエリンの目の前でピタリと立ち止まった。 「ティエリア?」 エリンが不思議そうに名を呼んだ瞬間、頬を掠めたもの。 「…また、後で」 ティエリアは直ぐに部屋を出て行ってしまった。 部屋に1人残されたエリンは呆然と立ち尽くす。 「…早く戻らなきゃ」 しばらくして我に返ったエリンは、母艦に戻らなければという一念を持って、ふらふらとした足取りで歩き出した。 とりあえず片付けをしないと。 どこかぼんやりと散漫した意識のまま、出しっぱなしにされていたメイク道具を片付けていく。 そのさなか、フッと視線を上げたエリンは、目にしたモノに再びピシリと固まってしまった。 彼女の視線の先、鏡の中には固まるエリンがいる。 そしてその頬には、うっすらと残る口紅のアト。 ゆっくりと腕を持ち上げたエリンは、恐る恐る頬に指を這わせ、確かめるように口紅の痕をなぞっていった。 「…っつ!」 一瞬の隙に近付いた顔。 頬に残る柔らかな感触。 それらの瞬間が一気に回想されて、言葉に詰まる。 鏡に映るエリンの顔は、その頬に残る口紅にも負けないくらい、真っ赤に染め上げられた。 それなのに頬に残る口紅の赤は、周囲に埋没することなく浮き上がって見えたのだという。 →アトガキ [*前へ][次へ#] |