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てのひらの太陽に






「なあ、手ェ見して」
「手?」
「そう」

沢村が突然言い出した。珍しく甘えて来ると思ったら、今度は手だ。
御幸の部屋にふらりとやってきて喋ったりゴロゴロしたりしている。
同室者達が他の部屋にいるのを見たから来たと言っていた。

「だから、アンタ一人だろうと思って」

二人になりたいと言っているかのようなその台詞に緩む頬が抑えられなかった。
たまにこうした事をさらりと言う。本人は意識していないのだろう。
御幸の隣で仰向けに寝転んで読んでいた漫画を横に置き催促してきた。

「なあ、手」
「ああホラ。何で手なんだよ」

右手を差し出すと沢村は両手で受け止め指をいじったりひっくり返したりしている。

「デカイな」
「うん」
「俺、アンタの手好きなんだよ」
「そ?」
「大きくて指が長くて何か綺麗で、でも男らしい手だ」
「俺はお前の手好きだけどね」
「やだよ。俺はこういう手になりたい」

御幸は逆に沢村の手を取った。引こうとするのをキュ、と握り制する。

「何かしっくりくるじゃん」
「何がだよ」
「俺より少し小さくて少し柔かくて、ほら。俺の手にぴったりくる」

沢村は笑って左手を御幸に預けたまま起き上がった。

「すっぽり収まる程小さくはなくて、ふわふわに柔らかい訳じゃない、成長過程のお前の手が」
「…成長したら俺も男らしい手になるかな」
「さあ?」

今度は御幸が笑う。
沢村の目が困ったようにさ迷いだした。握られたままの手を意識し始めている。
だんだんと熱を持ち汗ばんでくる手に唇を寄せ、掌に口付けた。

「…っ!そ、ろそろ皆戻るんじゃねぇ!?」

慌てて振りほどいて立ち上がった沢村に目を遣ると真っ赤だった。

(さっきは俺の手を平気で触ってたくせに)

吹き出しそうになるのをこらえる。
機嫌を損ねたらもうこんな風にふらっと来たりしなくなるかも知れない。

「じゃ、帰るから」
「おやすみ」
「…また、来るよ」

アンタが一人の時。小さく付け加えた言葉はかろうじて御幸の耳に届いた。
ドアが閉まる瞬間に見えたのは沢村の真っ赤な耳。

(参ったね、ホント)

追い掛けて部屋に引きずり込んで熱いキスでもしてやろうかと思った。
先程の沢村の熱を残したままの掌を見つめ握り込む。
その熱を逃がさないように。



end

2010 4.15






あきゅろす。
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