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シンデレラパロ



今日は城で舞踏会があるらしい。どこの家でも王子様とお近づきになろうと必死だ。
娘のいる家は王子に見初められるよう、息子のいる家では近衛隊に入隊させようと目論む。
沢村の家でも例外ではなく、継母や兄弟が大慌てだ。

「栄純くんも行こうよ。近衛隊に入れれば一生安泰らしいよ」
「俺別に興味ねぇから。家で掃除してた方がいい」
「まったく。君は一生掃除して終わるつもり?」
「だから別にそれでいいって。降谷と春っちは城に行ってくりゃいいじゃん」
「栄純くん…」

家族はしぶしぶ沢村を置いて出掛けた。
出世なんてまったく興味はない。好きな事をして地道に働けば充分だと思っている。
沢村の場合、好きな事とは掃除だった。

(庭も掃除しとこ)

裏庭に行くと頭からすっぽりマントを着た知らない男が立っていた。細い目で笑顔が張り付いている。

「あんた誰だ」
「沢村、お前よく働くから城へ行かせてやるよ」
「興味ねぇ」
「行け」

後ろから効果音が聞こえそうな凄みにたじろいだ。
男が細い杖を降ると沢村の服が正装になった。

「はあ!?」
「さあ行け」
「何で」
「行かないと帰る家がなくなるよ。それからタメ口はやめな」
「あ、はい…」
「馬車用意してるから乗って」
「はい…(何で?)」

馬車が出発した。

「あ、12時になるとその衣装消え…まぁいいか。いい事すると気持ちいいね」

男は笑顔のまま消えた。

腑に落ちない沢村を乗せた馬車が城に着いた。大盛況だ。

「あ、栄純くん!よかった!来たんだね」
「素直じゃないね。来たいんなら始めから一緒に来ればいいのに」
「ちげーよ。何か説明すんのも面倒くせぇ」

高らかなファンファーレが鳴る。

「王子様の登場だね。初めて見るよ」
「どこ行くの?栄純くん」
「あのさ、ホンットに興味ねぇの。帰る時声かけてよ」

沢村は一人バルコニーに出た。
風が気持ちよかった。ここで時間を潰していようと手摺りにもたれ舞踏会の様子を眺める。
しばらくそうしているとここにいる事が実に無駄に思えた。もう暗いから庭の掃除も出来ない。

「あー帰りてぇ」
「何、お前中に入らないの?」
「え?」

気付くと隣に男が立っていた。眼鏡だが眉目秀麗だ。
正装してる上にマントを羽織っている。

(さっきの男の仲間か?)

「皆王子に取り入ろうと必死だぜ?」
「興味ねぇよ」
「何で?」
「家で掃除してたいっつーの。くだらねぇよ」
「はっはっは!お前掃除好きなの?面白ぇ」
「三度の飯の次に好きだ」

眼鏡の男は飯が1番かよ、と腹を抱えて笑った。
ひとしきり笑った後、男は沢村を上から下までマジマジと見た。

「ふぅん…」
「何だよ」
「俺は御幸。お前は?」
「沢村」
「そっか、沢村。散らかってる部屋あるぜ。掃除する?」
「え?」

ウズウズする。満足に掃除しないまま城に来たから魅力的な誘いだ。
時間が迫っているが一部屋くらいなら大丈夫だ。
自分の手にかかればあっという間にピカピカの部屋になる。

「掃除したい」
「了解。来いよ」

男は口端をあげて笑い沢村を促した。
城の内部に入るのも初めてでキョロキョロしてしまう。
この男はここに住んでいるのか、広い城を迷いもせずスタスタと歩く。

(近衛隊の人かな…)

「着いたぜ」

迷路のようにグルグルまわり、ようやく辿り着いたのはやけに大きな部屋。

「え?なんか綺麗だけど…」
「ここじゃねぇよ。次の間のベッドルームだから」
「そうなんだ」
「おいで」
「うん」

腕が鳴る、そう思って入ったらやはり綺麗だった。騙されたのかと不機嫌になる。

「どういう事だよ」
「悪ぃ悪ぃ。ちょっとお前の事気に入っちゃってさ」
「はぁ!?」
「舞踏会にいるお嬢様方よりお前がいいと思っちまったんだわ」
「え、何…アンタまさか王子…」
「沢村、お前自分の住んでる国の王子の名前くらい知っときなさいね」
「は?は?わわわ」

沢村はゆっくり近付いて来た王子に抱きしめられてパニックになった。
突然の事で抵抗も虚しく唇を奪われた。いきなりの激しいキスに思考が追い付かない。

「やめろよっ」
「なぁ沢村、城は広いから掃除しがいがあるぜ」

ここに住めよ、そう言った王子の言葉と同時に12時の鐘が鳴った。

ボンッ!

と何故か有り得ない音と煙が舞う。

「…何だ?」

沢村が王子を見ると王子は腕の中の沢村の体を凝視している。
その瞬間に気付いた。裸だ。

「ななななな!?なんで服がっ!?」
「はっはっは!積極的だなお前!」
「ちがっ…これは」
「いいって。そういうの嫌いじゃないぜ?」

王子は口端をあげてニヤリと笑いもう一度くちづけた。
沢村の声にならない叫びが城に響いた。



後日沢村の家は兄弟が三人とも近衛隊に召し抱えられ近所でエリートと評判になった。
だが三人の内の一人が王子の伴侶に選ばれた事は誰も知らない。



end

2010 3.11





あきゅろす。
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