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グライダー







「なあ、御幸ー」
「……んー?」
「すげー暖かいよな、今日」
「……ん?んー」
「ぼちぼち春って感じしねぇ?」
「……んー」
「いい天気だしさ、散歩行かねぇ?」
「……んー」
「あのさぁ、何だそれ!?日曜日のお父さんかよ!?」

御幸がパソコンからようやく沢村に顔を向けた。

「じゃあお前は日曜日の小学生だな」
「ぬうぅ…!大体アンタせっかくのオフに朝からずっとそれじゃんか」
「データの分析も大事な仕事ですー」
「やってろ!俺は散歩に行ってくる!」

そう言い残し沢村は部屋から出て行った。ようやく静かになった部屋で御幸はまたパソコンに向き直る。

(超はかどりそうなんですけど)

苦笑してさっさと終わらせる為に急ぐ。その後はどこぞをほっつき歩いている沢村を捕獲して残りの時間を満喫しなければ。
大人しく待ってればいいものをまったくじっとしている事の出来ない奴だ。
集中しようとしても気付くと沢村が頭の中を占領している。今度は自分に苦笑した。
いたら邪魔され、いなければ気になって結局は進まない。こうしている間にも一緒にいれる時間は減って行く。

(集中集中!)



もうすぐ昼というところでようやく終了した。
立ち上がり伸びをする。予定より少し時間がかかってしまった。

(よし。捜しに行くか)

マンションを出て沢村が気に入っている散歩コースを辿ってみる。
平日の昼間に散歩をする若い男は目立つ筈だ。沢村は今日御幸といる為に大学を休んでくれたのだった。
悪いとは思ったが今日を逃すとまたいつ一緒にいれるかわからない。夜ならまだしも、昼から一緒にいれるのは貴重だ。
なのに仕事を持ち込んでしまった。少々の罪悪感で自然と足が速くなる。
沢村の言うようにいい天気で暖かい。コートを着て来ないで正解だ。

散歩コースの中程にある小さな公園を通りかかって足をとめた。

(……いた)

その公園は鉄棒と広場しかなく、昼はいつも人がいない。
小さな子を連れた母親達はこの先のブランコや砂場、滑り台といった遊具の揃った公園を好む。
この公園が賑わうのは小学生が下校したあと、ドッヂボールやサッカーをしに来る時だ。
そこの鉄棒で沢村が遊んでいる。逆上がりをしてみたり懸垂をしてみたり。何でああも楽しそうなのか。
四段階ある高さの鉄棒をフルに利用している。

一番高い鉄棒にブラブラとぶら下がっていた沢村が伸び上がり両手の横にそれぞれ足を置いて後ろに大きく振った。
そして、跳んだ。

(……グライダー)

大きく跳んで着地も決めた沢村が両手を広げポーズをし、満足気に笑っている。

青い空と白い雲と沢村のグライダー。
あまりにも似合っていて、その風景に混ざりたくなった。

「よお、ガキ」
「御幸!いつ来たんだよ?」
「ついさっき」
「終わったのか?つーかガキって何だよ!」
「ガキだろ。あんなの躊躇せずにやりやがって」

大人になればなる程子供の頃に出来てた事が出来なくなる。
ブランコを思い切り漕いでジャンプ、柵を飛び越えたらオッケーとか。
あの木に登り、塀に飛び移ったらヒーローとか。

まるで子供のように躊躇せずにやる沢村が少し羨ましくなった。
御幸も一番高い鉄棒にぶら下がる。

「やる気かよ。アンタはマズイだろ!怪我とかしたら今シーズンシャレになんねーよ」
「そんなヘマしねーよ。俺が勝ったらお前からのキス百回な」
「は!?何だそれ?どっちがガキだよ!」

御幸は笑って足を乗せ勢いよく後ろに振った。

沢村より、さらに向こうへ。




end

2010 3.1〜3.31




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