たとえばそこに在るもの
もうどのくらいこうしてるだろう。
誰もいない部屋でただ、一緒にいる。
御幸はスコアブックを見ており沢村は窓の外を見ている。
空を見ているのか、何も見ていないのか。
御幸がページを繰る乾いた音以外は静寂が続く。
時折窓にいる沢村の背中に視線を移す。
各々が違う事をしていて、ただ一緒にいる。
この部屋にあるのは満ち足りた沈黙。
スコアブックを閉じ高い音を鳴らす椅子を回して立ち上がった。
「沢村」
振り向いた瞳はやはり深く澄んだ黒で。
そのまま背後に寄り添い指を絡ませた。
「何見てんの」
「外」
「それは解ってる」
少し笑い沢村の髪に頬を寄せ沢村の見ていた方向に視線を移す。
何もなくただ空とフェンスとグラウンドがあった。
何もない。けれど全てがそこにある。
それを見据える沢村の瞳に映る世界は自分と同じ色だろうか。
何よりも強い色をたたえて無限の可能性と無限の色を映すその瞳。
僅かに委ねもたれ掛かる重みとこの静寂の愛しさに御幸は静かに微笑みそして祈った。
end
2010.6.22
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