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雨音のLove Song






「聞こえる?」

まどろみはじめた時に不意に聞こえた声に引き戻された。ふわふわと浮遊していた意識が急に体に落ちて重くなる。

「ああ……何?」
「雨の音、降ってきたみたいだぜ」
「ホント……ってそんな事で起こしたのかよ…」
「まだ寝てないかなーと思って」
「嘘つけ……」

開けているにはあまりにも重い瞼が自然と下がって来る。御幸のよいしょ、と言う声と抱き直された振動で意識が少し覚醒した。
見るとベッドヘッドに枕を重ねて凭れている御幸の胸に抱きかかえられている。

(ああ、あのまま寝ちまったのか)

情事後に抱き締められていた。そのままずっと御幸に抱えられていた事になる。そう長い時間ではない筈だか頬が熱くなった。

(あ、ヨダレ…)

御幸のしなやかに鍛えられた胸筋が少し濡れて光っている。チラリと見上げると御幸と目が合った。

「ヨダレだろ?知ってる」
「悪りぃな。へへっ」

ベッドサイドからティッシュを取って軽く拭き取り横に並ぶ。

「お前、ホント変わらねぇな。高校ん時からお前が寝た所は池が出来てたよな」
「うるせっ」
「ティッシュじゃなくて舐め取ってもいいんだぜ?」
「はあ!?バカそんな事したら…」
「したら…何?」

意地悪そうな笑みで先を促して来る。口に出すのが恥ずかしいとかじゃない。
高校生の頃からこうして数え切れない程の触れ合う夜を過ごしても照れてしまう、その事実の方が恥ずかしい。
御幸も全てを見透かしてるからこその笑みなのだろうと思う。

「もう一回、って俺が言い出してお前も断れずに始まっちまうから?」
「ちげーよ!ヨダレ舐めるとか気持ち悪りぃし!」
「そう?俺はお前のなら平気」
「……もう黙ってくんねぇかな」

御幸独特の笑い声が雨の音と重なる。雨が少し強くなった。

「沢村、目ェ覚めた?」
「何か眠気がとんだ」
「少し、話そうか」
「ん?…ああ、いいよ」

雨の音を聞きながら伸びをし重ねた枕にまた寄り掛かり沈んだ。

「雨、酷くなったな。このまま梅雨に入んのかなー」
「かもね」
「何かこの季節モヤモヤしてた事が多い気がする」
「例えば?」
「朝走れねーな、とか外で練習出来ねーな、とか」
「はっはっは!それ野球小僧全員の意見だろ」
「でも実はアンタの顔見るとモヤモヤが消えてたよ」
「………俺の顔って除湿器効果?」
「多分ね」

二人して笑った。一瞬沈黙した御幸が唇の端を上げるあの笑顔で言う。

「俺は、声」
「声?」
「お前の声でモヤモヤが消えてた」
「へぇ、俺は声が除湿器効果ね」

俺だってアンタの声好きだけどね、と小さく呟くと御幸は呆れたように「そこで競うな」と頭を小突いた。
先程少し話そうと言った御幸の意図を思う。沢村は少し御幸の方に頭を傾けた。

「大丈夫」
「何が」
「いつもどんな時も、アンタの事は俺が解る」

御幸は静かに瞳を閉じて微笑み肩を抱き寄せた。

「お前の事は俺が解るし」
「競うなっつったのアンタだろ」
「はっは!負けず嫌いなもんで」
「知ってる。どれだけの季節をアンタと過ごしたと思ってんだ」

御幸がふと覗き込むように視線を合わせて来た。真剣な瞳の色に一瞬怯む。

「お前が望むならこれから先の季節を全部お前と過ごす」
「…………別にそんな事は望んじゃいねぇ。…でも、」

いつもの悪戯な色を瞳に宿す。

「アンタの好きにすればいい」
「……じゃ、決まりだな」

笑いながら唇を触れ合わせた。雨の音が聞こえる。
穏やかにすら感じる部屋の空気に沢村はまた瞼が重くなって来た。
御幸が何かを話している。ゆったりとした口調で歌うように。

もう聞き取れない。けれどひどく心地良い。
それはまるで雨の音を主旋律にした愛の歌でも聴いているようで。

静かに全てに溶け込んだ。




end

2010.6.8〜7.20






あきゅろす。
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