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Introduction



鬱陶しかった梅雨がようやく明けて、空の青が濃くなりそして高くなった。
雨に左右されていた練習も空の下で思い切り出来る。やはり外で身体を動かすと気持ちがいいのか、部員の士気が高まるように思えた。
晴れた空には白球とそれを捕らえるバットが出す快音がよく似合う。
夏が近い。それだけで気分がアガる。
沢村は顎を伝う汗を手の甲で拭った。
離れた所で降谷と御幸が投球練習をしている。少し前なら自分の球も受けろと御幸に突っ掛かっていた。
今、ひたすらにメニューをこなしているのは目指している場所に立つ為。
その為なら何だってやってやる、沢村はまたこめかみから流れる汗を手の甲で拭った。
こんな大事な時に、きっと邪魔なんだろうと解ってる。

御幸に対してこんな感情を、抱く事は。

人が人を好きになるのなんて、案外単純で、思ったより簡単で。
笑いかけてくれたのが嬉しかったとか、思いがけず優しくされたとか、そんな事で簡単に好きになるんだろうと。
今となっては理解している。

「栄純くん、何か凄い頑張ってるみたいだけど。根詰めないようにね。休憩入ってるの気付いてる?」
「……春っち……サンキュ、気付かなかった」

突如掛けられた声に我に返った。言われてみれば、先程まで響いていた快音も威勢のいい声もない。
タオルで汗を拭き水分を補給する、意識しなくても慣れた体が勝手に動く。
帽子を取って蒸れた頭にもタオルを被せて乱雑に擦る。
気温が高いから、頭の中まで蒸れて思考が淀んでいるのだろうと水道まで走って行き、蛇口の下に頭を突っ込んで思い切り捻った。
勢いよく出た水が熱くなった頭を冷やしていく。テレビで見かけるサーモグラフィーで、赤やオレンジの体がどんどん青くなっていく様を想像して可笑しくなった。

「……っあー、気持ちいい!」

わざと声を出して全てが流れた振りをする。それでも幾
分かはマシな気分だった。
蛇口のコンクリートに掛けておいたタオルを取ろうと下を向いたまま手で探る。
ポタポタと髪から伝い落ちる水滴を早いところ拭きたいのに、目的の場所にはコンクリートの感触しか無く反対側に落ちたのかと顔を上げようとした。

「………わっ! なに……」

その瞬間、いきなり頭からタオルを被せられ自分以上の乱雑な手つきでゴシゴシと拭われた。
慌てて逃れようとすると手の主が楽しげな声を発した。

「気持ちよさそうな事してるじゃねえか、沢村」
「御幸……っ?」

視界をタオルで塞がれたままその名を呼ぶと手は止まらないまま、おう、と返事が返ってくる。

「やめろって……!」
「んー?お前じゃちゃんと拭かねえだろー。コラ大人しくしろ」
「う、わ!」
「ったく、世話が焼ける」

勝手に焼いておいて何を言うか、とは言えなかった。結局は心地好いこの手を払えない。
(こういう事をするから、勘違いしそうになるんだ…)
自分が、特別なんじゃないかと。







この想いの始まりは最悪だった。
沢村が青道野球部に入部して幾度か味わった、抜け出せない暗闇でがむしゃらに走ってるような気分の時。
練習の仕方も目茶苦茶、意味のない頑張りで端から見ても鬱陶しかっただろうと今では思う。
それを見兼ねた御幸に苦言を呈されたが、沢村はものの見事に突っぱねた。何も知らないくせに、と本気で思った。

「目を覚ませっつってんだよ」
「うるせえな、アンタなんかに俺の何が解るってんだよ!」
「何も。体壊そうとしてる奴の事なんざ何も解んねえな。大体人それぞれ想いも事情も抱えてんのは当然だろ。甘えてんじゃねえよ」
「……っ!」
「『どうせ俺の事なんて誰も解ってくれない』とか、浸ってるガキみてえな台詞言うつもり? 恥ずかし過ぎない?」

カッと頭と顔に血が上り、返す言葉もない程恥ずかしかった。言われて初めて気付いた事が。

「どんな覚悟でここに来た訳? 意味、解るよな」

今なら解る。御幸は気遣うと同時に気付かせてくれた。
でも、その時はやり場のない怒りと恥ずかしさで、俯いた顔を上げる事も、爪が食い込む程に握り締めた拳を解く事も出来なかった。


その後は気まずくてあまり近付けなくなり、礼も言えないまま。出来る事といえばただひたすら、成長するために前へ走り続ける事だった。
そんな時、突然御幸が話し掛けられた。

「最近、頑張ってんじゃん」

沢村の髪をくしゃりと撫でて、いつものシニカルな笑みではなく柔らかい、笑顔で。

「……ったりめーだろ、エースになる男だぜ、俺は」

ドクリと跳ねたあと速くなる鼓動に、そんな憎まれ口を叩くのが精一杯だった。
嫌われたと思ってた。呆れられたと。なのに見ていてくれた。頑張ってると、認めてくれた。
嬉しくて嬉しくて、その日はタイヤを二個引いて叫びながら走った。

その日、もしかしたら叱られたあの日、沢村の恋が始まった。








「金丸、何そのプリントの束」

昼休み、先生の手伝いに呼ばれた金丸が何やら紙の束を持って帰って来た。

「あー、先生がコピー失敗した紙。二十枚位だから捨てといてってさ。ヤバい内容じゃないしゴミ箱でいいらしい」
「ふーん」

沢村が覗き込むと、確かに資料をコピーしようとしたのか半分程活字が写っているだけだった。
紙を見ると、折りたくなる。

「なあ、一枚くれよ」
「何で」
「俺の折り方の紙飛行機すげえ飛ぶぜ。見せてやる」
「紙飛行機?ガキかよ。……でも、紙飛行機なら俺のが飛ぶと思うけどな」
「嘘つけ」
「嘘じゃねえし!」
「じゃ、飛ばしっこしようぜ」

黒板の横の時計に目をやれば昼休みが終わるまでは、まだ余裕がある。
沢村も金丸も、互いの折り方を見せないように、騒がしい教室の中でおのおの背中を向けた机でこっそりと折っていた。

「何やってんの、栄純くん達」
「お、春っち! 金丸と紙飛行機作って、どっちが飛ぶかバトル! 春っちと降谷もやる?」
「紙飛行機?……俺達もやる?」

春市が窺うように、一緒に来た降谷を見上げると瞳に闘志がメラメラと燃えていた。
結局この二人も見られないようにこっそりと折っている。

「出来た?」

沢村の問いに全員が頷く。皆が思い思いの自作の紙飛行機を手に立っていた。
何となく、他の人が作った紙飛行機が気になりチラチラとそれぞれ手元に視線をうつしている。
堂々と覗き込むのは沢村一人だった。

「なんか降谷の変! 四角っぽい! そんなんで飛ぶのかよ。あ、でも翼のとこキュッと上に折ってんのはいいな」
「四角くくても僕のが一番飛ぶから」
「形も重要だぜ? 見ろよ俺の。飛びそうだろ?」
「そう?」
「…っんだよ! このコンコルドみたいな美しいフィルムが見えねえの?」
「フォルムだしね」
「うっせ!」

自然と黒板に向かって、教室の一番後ろに横一列に並び、紙飛行機を構える。

「行くぞ、……せーのっ!」

一斉に手を離しそれぞれが飛び立った。
律儀に避けたクラスメイトが見守る中、四機の紙飛行機が教室内を悠然と飛ぶ。
金丸の紙飛行機は左に逸れて窓に当たり、降谷のは右に逸れてドアに当たりそれぞれ墜ちた。
沢村と春市の紙飛行機は真っ直ぐ飛び、黒板に当たった。

「……これってどういう事?」
「……うーん。誰の勝ちだろうな?」
「えー、真っ直ぐ飛んだ俺じゃねえ?」
「栄純くん、それ言うなら俺だってそうだよ?」

それぞれ自分の紙飛行機を拾いながら首を傾げる。金丸と降谷は早速、曲がらないよう翼の調整中だ。

「結局さ、誰も途中で墜ちてないよな」
「うん。皆どこかにぶつかって墜ちたよね」
「よし!時間あるし今から中庭行くぞ!」
「外で勝負……」
「皆わからなくならないように名前書こうぜ」
「そうだな。降谷は四角いから名前いらねえよ」
「ウルサイ」

皆が翼に名前を書いている。自分の紙飛行機が晴れた空の中を突き進んでいく様を想像すると、それだけで気分がよかった。
飛ばしたい。誰よりも遠くへ。
沢村はふと思い立ち、紙飛行機をバラして中の見えないところに小さく『すきだ』とひらがなで書いた。
子供の頃に好きだった、くだらない些細なおまじないのように。横断歩道を白ラインだけ踏むとか、自転車に乗ってて一度も足をつかないで着けば叶うとか、そんな程度の。
もしもこの紙飛行機が誰よりも遠くへ飛んでいったら。
(想いが叶う、とか。想いを告げる、とか?)
悪戯を仕掛けた小さな子供のように笑う。
待ち遠しかった。早く、飛ばしたい。

「行こうぜ!」

連れ立って歩く廊下で、途中東条にも出くわして巻き込んだ。本人はいたく乗り気だったが。
辿り着いた中庭は人影も疎らでなおさら好都合だった。多少の植え込みと石のベンチがいくつかあり、一見寛げそうだがその実、コの字に建っている校舎に囲まれどこからでも見えてしまうのが不人気の理由だ。
遅れて合流した東条がせっせとベンチで紙飛行機を作成している。

「お待たせ、出来たよ」

東条の声がして、見ると紙飛行機を手に自信ありげな顔で笑っていた。ここにいる全員と同じ、自分が勝つと信じて止まない顔だ。

「よし、並ぼうぜ」

先程の教室と同じように横一列に並び、そして全員が紙
飛行機を構える。

「行くぞ! ……っせーの!」

晴れた空の下、飛び立ったいくつもの白い紙飛行機が、交差したり掠めたりしながら舞う。
綺麗だった。

誰よりも遠くへ。どうか、
 
次々と墜ちていく紙飛行機、落胆の声や歓喜の声。沢村の紙飛行機は真っ直ぐ、水平に飛んでいる。幼い頃であれば確実について走っているところだ。
最後まで飛んでいたものの風にあおられて失速していく。そのあとはもう、重力に逆らわずに地面のタイルに吸い
込まれて行った。

「沢村のすげえ! あれの折り方教えろよ」
「全員沢村のやり方で折ってリベンジするか」

好き勝手な事を言う仲間達に目もくれず、わざとゆっくりと紙飛行機に近付いた。
願い通り、誰よりも遠くへ飛んでくれた。
拾い上げようとした沢村の手を止めたのは横からの突然の声。

「お前らガキみてえな事してんな」
「御幸先輩!」
「『誰の紙飛行機がいちばん飛ぶか選手権』ですよ」
「へえ、んで沢村が優勝?」

最後の言葉は沢村に向けられた。はあ、と曖昧な返事を返して紙飛行機を拾おうと再び手を伸ばす。

「お、これがそうか。折り方見せろよ」
「……あっ!」

御幸の手が伸ばされたと同時に小さく叫び、慌てて奪い取った。

「これは……、今新しいの折って見本にして皆にも見せるんで、そっち見て欲しいっていうか」
「何でソレは駄目なの?」
「えーと、次またこれ飛ばすんで……」
「ああ、形崩したくないか」
「っス」

御幸も納得し、二人で皆がいるベンチに戻る。沢村の見本を見ながら折るものの、それぞれがより飛ばそうと勝手なアレンジを加えていき、結局二回目も沢村の優勝だった。
最後まで飛んで接戦だったのは意外にも御幸で、どうやら沢村の折り方そのままで勝負に臨んでいたらしい。

「だって、沢村のが一番飛ぶんだろ? アレンジしたらもう違う形じゃねえか」
「でも同じだったら勝てないじゃないですか!」
「バッカ! 俺の見ろよ! 最後までいいセンいっただろうが」
「でも結局負けてる。」
「うるせえな!」

心臓の音が自分の耳のそばで聞こえる。顔は赤くなってないだろうか。沢村は俯いたまま胸の辺りのシャツを握った。
こんな、紙飛行機ごときで嬉しくてたまらない。
生まれて初めて、あの小さなおまじないを実践してみようかとすら思えた。
(………想いを、告げる……?)
告げたとしても、その先の想像が難しい。
ほぼ断られるとして、その後は今までのように接してくれるのか、自分は今まで通りに接する事が出来るのか。
告白によって、これまで築いた関係が崩れてしまうとしたら。果たしてその告白に意味はあるのだろうか。
昼休みも残り少ないと、中庭からぞろぞろと校舎に向かう。春市や降谷と並んで歩く御幸の後ろ姿を見ていた。
御幸の少し跳ねた髪が好きだ。光に透けると綺麗な甘い茶色も似合ってると思う。

あの髪に、触ってみたい。

「沢村?」
「……っは、」
「聞いてた? また午後練でな」
「あ、ハイ」
「優勝と防衛おめでとう。次は負かしてやるから」

御幸は楽しそうに笑いながら手をひらひらと振って階段を上って行った。

「御幸先輩、よっぽど勝ちたいんだね。栄純くんの紙飛行機持ってっちゃったよ」
「…………は?」
「優勝した方の。二回戦が終わって騒いでるとき『もーらい』とか言ってた」
「嘘、だろ……まじかよ……だって、」

だってあれには『すきだ』と。
慌てて手を見れば、沢村が持っているのは見本として作った方ひとつだけで。
(じゃあ、本当に……っ)
踵を返して追い掛けようとしたら予鈴が鳴ってしまい、急ごうと声をかけられ、諦めて教室に向かった。
誰が、というのを書いていないし、いくらでも誤魔化せると必死に自分に言い聞かせながら。






上の空で午後の授業を終え、放課後の練習が始まる。
走っても投げても、何をやっても意識はすべて御幸に向かっていた。
見られたのか、そうでないのかを少しでも探ろうとするものの、何一つ読み取れやしない。
そのまま時間だけが過ぎていった。よく晴れた青い空の真下で気持ちのいい汗を流し、全て気のせいだったと思ってしまう程に。

「沢村」
「……っは、ハイ」

だから、練習ももう終わりと言う時に掛けられた声に、返事が裏返ってしまったのは仕方ないと思った。

「今日このあと、少し時間取れるか?」
「あ、大丈夫っス」
「じゃあ部室で、着替えたらそのまま残ってて」
「ハイ」

伝えるとさっさと去っていく御幸の後ろ姿をまた、帽子からはみ出て跳ねた後ろ髪を見ていた。
片付けを済ませ、部員も疎らになった部室で着替える。
考えてもみれば、紙飛行機の文字を見られたからと言って御幸がそれに興味を持つ事はないだろうと思う。大体誰が好きなのかと、からかうつもりなら今この場でもいいわけで。
そう考えると沢村の気分もいくらかマシになった。すっかり停止していた着替えを再開する。
沢村以外誰もいなくなった部室で一人残っていると、先に着替えて帰った筈の御幸が戻ってきた。

「お疲れ、悪いな」
「いえ、お疲れっした」

そのまま御幸の次の言葉を待つ。御幸は制服のズボンの
後ろポケットを探り、沢村の紙飛行機を取り出した。
(うわ……『もっと飛ぶ折り方教えろ』とかじゃあねえよな)

「まあ、単刀直入に聞くけどよ」

カサカサと乾いた音をたてながら、御幸が紙飛行機を開く。翼の部分をさらにめくり一番見られたくなかった部分を指さした。

「悪いけど見ちまった。これさ、誰のこと?」
「……あ、の……」
「『すきだ』ってさ。この下手くそなのお前の字だよな? もしかしてこの紙飛行機、誰かに渡すつもりだった?」

若干、尋問めいている。その件かも知れないとは思ったが、からかわれると思っていた沢村としては予想外の御幸の態度に戸惑う。
返答が遅れていると、促された。

「なあ、聞いてんじゃん」
「あ、いやあの……。渡すとかじゃなくて、おまじないみたいな……その……一番飛んだら、みたいな……」
「……へえ。随分と可愛い事すんね。そんな好きなの?」
「…………」

当の本人に聞かれて、どう返事したらいいのかと思う。

「そんなに好きだよ、アンタがね」そうあっさり言ってしまえばラクになるのかも知れない。

「俺には教えられない?」
「…………て言うか、何で」
「ん?」
「何で、知りたいのか解んねえっつうか……」
「は、知りたいに決まってんだろ。好きな奴の好きな相手、だぜ? 気にするだろ普通」
「…………え?」

頭の中が真っ白になった。情報処理が追い付かない。今御幸が何と言ったのか、頭の中で反芻しようとしても出てこない。

「あー……クソ、こんなカッコ悪い形で告白しちまったー」
「…………は、」
「でも沢村が悪いんだぜ?紙飛行機に告白とか可愛い事するからさ。動揺しちまうだろうが」
「…………いや、何で……」
「なあ、いい加減教えろよ。誰が好きなんだよ」

言ってもいいのだろうかと躊躇する。冗談でしたと後で言われて笑えるような、簡単な恋心じゃない。
紙飛行機にあんなおまじないをして、密かに願う程に。

「……御幸先輩が、好きだ」

御幸が見た事ない程目を見開いて、若干口も開けてしまっている。
こういう顔をしても崩れないなんて整った顔は得だな、と関係ないことを思うのは現実味が無いからだろうか。

「……………………あ、嘘」
「……嘘じゃねっス」
「まじで、俺?」
「まじで、アンタで」

何だこの恥ずかしい空気は。照れ隠しにそう思いつつも赤くなったと、自分でも解るほど熱い顔をフイと背けた。

「うっそ、両想いって奴? まじで? え、もしかして照れてんの? 可愛いなお前!」
「…………嘘って、こっちの台詞だって」
「俺の台詞だろ、まじで! どんだけ好きだと思ってんの。明らかにお前ばっか気にかけたり、中庭に姿見かけて二分で到着したり、優勝した紙飛行機パクる程好きだっつの!」
「…………」

じゃあ叱られたあの時も、気にかけてくれていたのかと胸がじんわりと熱くなった。
たまたま中庭に来たんじゃなくて、勝ちたいからじゃなくて、からかうためじゃなくて。
全部、沢村が好きだから、と。

「はー……部室暑くねえ?」
「あー、一気に室内温度が上がった気がする」
「はっは! 確かに! すげえハイテンションだし! もう一回練習メニューこなせそうな気さえするわ、俺」
「俺も」

不意に御幸が真剣な瞳で見つめてきた。

「なあ、陳腐な台詞しかないけど、付き合おうぜ、俺達」

沢村も真剣な瞳で見つめ返して、頷く。

「……っあー、よかった! まじで!」
「うん」
「何か、体中に力が湧いてくる感じ。すげえな、こういうの」
「わかる気がする。今なら何でも出来ちまいそうな……」
「そーそー!」

御幸が心底嬉しそうに笑う。こんな笑い方も出来るんだと、早速の新発見に沢村も自然と笑顔になる。
想い、想われる事がこんなに力にもなるんだと知った。

「これから始まるお前との時間が、すげえ楽しみ」

また初めて見る、蕩けるような笑顔。溢れてくる、想い。
これから始まる全ての事が待ち遠しい。手始めに髪を触らせてもらおうかと思う。


夏が、はじまる。




end



2012.6.24発行コピー本「Lyric Poetry」より再掲







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