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その指で唇で





触れてみたいと、いつも思っていた。
激しい練習をこなしたあとの髪は、汗と砂埃にまみれてごわごわとした手触りなのは知っている。手櫛すらも通らない。皆同じだ。
しかし、風呂上がりにはその黒髪は艶を持ち、意外なほど柔らかく風になびいている。それを見るといつも、胸がぎゅうと痛くなり、わけのわからない焦燥にかられた。
その感情に名前をつけたことは、なかった。
ただ、触れたいとだけ。




なあ、知っているか?沢村。
どうしてだか、今だに触れることが出来ないんだ。
こうしてお前と抱き合うようになっても。お前の、その髪に。
すれ違いざまに頭を撫でたり、ポンと手を置いたり、そんなことじゃなくて。想いのままに梳いてその手触りを楽しんだり、その短い髪を指に絡めたり、愛撫のようにくちづけたり。そんなふうに。

「……ん、う…っ」

自分でもしつこいと思う長いキスに、沢村が小さく声をあげて重なり合う胸と胸の間に手を入れて軽く押して来る。
でも止まらない。もうちょっと、もうちょっとだけ、そう思いながら沢村のくちの中を何度も犯す。
舌を痛いほど吸い上げておれの舌を擦り付ける。歯の裏側の滑らかな舌触りを楽しんで、上顎の窪みをくすぐってやると、んん、と声を漏らした。
甘く感じる、無味のはずの咥内からようやく舌を抜いた。思い直してもう一度だけ唇を触れ合わせ舌を絡めて、ちゅ、と音を鳴らすキスをして離れる。
見下ろすと目を閉じた沢村は、その眦を赤く染め、荒い息遣いを整えようと浅い呼吸を繰り返していた。
押し返そうとしていた手をどかし、また胸と胸を重ねるとその動きで忙しない呼吸をダイレクトに感じる。
おれのキスで、こんなふうに。
急激に、たまらない愛しさがこみ上げた。もっと、もっと感じさせてとろとろに蕩けさせたい。
頬にくちづけながら下肢へと手をのばすと、すでに勃ち上がっているそれにゆっくりと指を滑らせる。

「なあおまえ、キスだけでこんなんなって……ほら」
「あ、あ……」

おれが触るとぴくりと震えて、先端が雫で濡れ始めた。素直な身体。
指先で溢れる雫を塗り広げるように撫でると、ああ、と吐息のような喘ぎを漏らす。
今日は、どうやってイかせようか。舐めて吸っておれの口の中でイかせるか、指を挿れて気持ちいいところを擦りながら扱いてやるか。
ああ、でもやっぱり気持ちいいところはおれのでたくさん突いてやりたい。
ゾクゾクする。
沢村の身体中、おれの触れてないところなんてなくて、どこもかしこもきっと本人よりも知っている。
なのに、風呂上がりのその髪の手触りだけは今でも知らない。
ただ、触れればいい。優しく梳いて掻き上げて、嫌がりはしないだろう。
でも。
ゆるゆると撫でるだけのおれの指にさすがに焦れたのか、沢村がうっすらと目を開けておれを見た。水の膜が張った瞳でもの言いたげに。
豆球のオレンジがかった灯りに、潤んだ瞳が揺らめいて見える。
焦らして泣かせたような錯覚に罪悪感を覚えながら、反してもっともっと泣かせたくなって身体をずらし手にした沢村のものをゆっくりと舐め上げた。
同室者は別の部屋に泊まりに行き、朝まで帰らない。時間はある。
二段ベッドのすぐ横で沢村を組み敷いて、服を剥ぎ取って脚を開かせている。身につけているのは互いに下着替わりのTシャツだけ。
それも捲り上げて今日はまだ弄ってやってないのに、つんと尖る突起を眺めた。
舌を滑らせながら上がる口角が抑えられない。何度も舐めて括れの部分に舌を這わせ、先端のぷくりと溢れる雫を舌を挿し込むように舐め取った。
ああ、とまた沢村の切ないような吐息が漏れ、次に訪れるはずの快感を待っているのが、固く閉じた瞼の、震える睫毛でわかる。
隠せてるつもりの、その期待が滲み出てんの気付いてないだろ? 可愛くてたまんねえよ。
いきなり全部を咥え込んだ。声にならない声をあげて跳ねた身体に合わせて、おれの口の中でびくついたそれをわざと濡れた音をたててしゃぶってやる。美味そうに。
羞恥と快楽でどうしようもなくなった沢村に、羞恥を上回る快楽を与えてやりたい。
背を浮かせて仰け反る沢村の表情は窺えないが、晒されている喉に吸い付いて、おれのものだという証をいくつも刻んでやりたい衝動にかられた。

そう、全部をおれのものに。

頭ごと上下に動かして吸い上げながら舌を絡めると、快楽を逃すように頭を振る沢村の髪がパサパサと床をたたいた。
それを眺めながら、愛撫の動きは止めずに蜜を零し続けるそこを舌でぐりぐりと刺激してやる。

「う、あ、イく、出ちまう……離し……っ」

離すわけがない。沢村の内腿が強張り力が入る。放出のその瞬間まで激しい愛撫はやめてやらない。
小さな叫びとともに達した沢村から吐き出されていくそれを、喉の奥に流し込みながら音をたてて嚥下した
。最後の一滴までおれのものだと、搾り取るように指で扱きながら吸い付くと、荒い息遣いでいやだ、と囁いて身を捩る。

「嫌だって、おまえ、おんなじなのに」
「……なに、が……」
「おれがイく時、おまえん中、うねって絡みついて、最後の一滴まで搾り取ろうとする」

ベッドの方に背けた顔が、カッと赤く染まる。そんな反応を楽しみながらジェルの入ったチューブを机から取り、左手に出して馴染ませた。
沢村の脚をさらに開かせてその奥を濡れた指で撫でると、びくりと強張る肌に空いた右手を滑らせて宥める。
腹から胸へ、二度ほどゆっくりと手のひらを滑らせると、薬指に突起が触れた。その固く勃ち上がった感触に、薬指がじんと痺れる。
撫でて、押して、柔らかくなったそこへ中指をゆっくりと挿れていく。少し動かしながら馴染ませるように。
右手の人差し指の腹で突起を転がすように、そして親指を添えて捏ねるように摘まむと沢村の吐息に、はあ、と艶のある声が混じる。
これ、好きだもんな。
左手の方は一旦抜いて、二本にしてまた挿れた。解すように動かしながら、時折前立腺を掠めていく。

「……っあ!」

不意にくる強烈な快楽の兆しに、その度に声をあげて翻弄される沢村が可愛くてたまらない。
美味そうに尖る、もう片方の突起に唇を寄せ舌を這わせてしゃぶりついた。

「ん、あ、あァ……」

三本目を挿れて、そこを突いたり指を広げたりする頃には、沢村はもうとろとろでおれも早く沢村のナカを味わいたくて仕方なかった。
おれのはもう沢村の媚態のせいでガチガチにそそり勃っていて、先走りもダラダラと溢れてきている。早々に下も脱いでおいてよかった。
でも、動くたびに沢村の腿におれのがあたり、その跡が濡れて光っている。その卑猥な光景にくらりとしながらも、身体中に擦り付けて濡らしてやりたい凶暴な気分にもなった。

「……沢村、挿れるよ」
「あ……」

指を抜いた時の沢村の小さな喘ぎに名残惜しさを見出して、挿れる前から興奮で息が荒くなる。
ず、ず、と狭い肉を割り開いて挿入していく。たまんねえ。腰を振りたくりたくなるのをぐっと堪えて、根元までゆっくりと。

「はあ……きもちいい」
「は、はァ、あ」

沢村が落ちついたのを見計らって、少し抜いてまたゆっくりと突き挿れるのを何度か繰り返した。
抜く時に引き留めるように絡みついて、挿れる時にもっと奥へ飲み込もうとする、そのナカのうねりに理性が弾け飛びそうだ。
沢村を見下ろすと蕩けた顔で、焦点のぼやけた濡れた瞳で、少し開いて美味そうな舌を覗かせた唇で、なァ、もっと、と吐息のように囁いた。
全身にぶわりと鳥肌が立ち、せり上がる射精感を歯を食いしばって耐える。
ふうふうと深呼吸を繰り返してやり過ごした。
ふざけんな、マジで。イっちまうかと思ったじゃねえか。こんな一瞬でみっともねえ。
八つ当たり気味なことを思いながら、沢村の要望に応えるべく膝裏を手に引っ掛けて、その柔らかい身体を胸につくほど折り曲げた。
深く身を沈めると、うぁ、と声が漏れている。でも、もう待ったなし、もうダメだ、我慢できねえ。
最初から最後まで、ずっとそこを狙って突いてやる。泣いたってやめてやらない。泣くほどイイって、そう受け取るから。




◇◇◇





「沢村……大丈夫か」
「……あ……?」
「同時にイったあと、おまえ少しトんでた。悪い」
「……ああ、いや、おれも……」

あのあと、容赦無く前立腺をおれので突いて、沢村を揺さぶり続けた。
声も出ないほどに感じてる沢村を眺めながら、おれもこれ以上ないかってくらい気持ちヨクて、止められやしなかった。
トんだのも、ほんの一瞬でまだ繋がったまま。
ようやく戻ってきた沢村がひとつ息を吐いて、それによってナカが刺激を受けたのか、ん、と鼻にかかった声が出た。
そしておれを見上げて、ふ、と笑い手を伸ばして来る。

「なに?」
「……あんたの髪、豆球の灯りで、なんか綺麗に見える」

背にした電気の灯りに髪が照らされているのか、沢村が梳くように触れてくる。

「そう?」
「うん」

なおも触れながら、ふふ、と笑う。

「この髪も、おれの」

瞬間、何かが脳天から突き抜けたように、ぶわりと全身の毛が逆立つような感覚。

「なあ、沢村、待って」
「え?」

なあ、おれはおまえのものなの。全部、髪すらもおまえのものなの。おまえのものって、おまえは思ってくれてんの。
おれも、そうしていいの。

「御幸先輩……?」
「……おまえの髪も、おれの……?」

沢村が、笑う。

「そうしたいって思うなら、そうなんじゃねえの」

おれは少し泣きそうで、おまえ、そんなにまるごと全部おれのもんにしちまったら、バカ、もう離してやれねえのに、せっかく取っておいたのに、そんなふうなことをらしくもなく取り乱して呟いていた。
沢村は少し怒ったようにおれの髪を引っ張って、いつか離す気なんスか、と少し低い声で言う。
髪すらも余すところなく、全部おれのもんにしていいのなら、離さなくていいのなら。そんなの。

「離すかバカ。だったらもう遠慮なんかしねえっつの」
「遠慮とか、似合わねえっつの」

もう、なんだか色々たまらなくなって笑ってる沢村の唇に食らいついた。
もったいなくて、目も閉じられない。
覆い被さった肘から下を床につけて、沢村を囲うように、逃がさないように。
そして舌を絡め取って深くくちづけたまま、そっと沢村の髪に触れた。一瞬だけ躊躇した指をのばし、絡める。
やはり思ったよりも柔らかくて、先ほどの名残か、少し汗で湿っていた。
掬うように手のひらに乗せて愛しむように親指で何度も何度も撫でる。焦がれたその髪は、驚くほどこの手に馴染んだ。まるで、初めからおれのものだったかのように。
いつの間にか目を開けていた沢村が、悪戯っ子のような顔で見上げている。
互いに目だけで笑んで、唇は解かないで。
沢村もおれの髪に手を伸ばし、柔らかく梳いてくる。

もうぜんぶ、全部がおれのもの。

途端に、ナカに挿入したままだったおれの変化を、もろに感じ取った沢村の目が見開かれた。
まあまあ、と宥めるように髪を梳くと諦めたように目を閉じる。
愛しくて、どうしようもない。

おれの髪に触れる指の心地よさと、おれの指に触れる髪の心地よさと。
もうそれだけで、何だって出来ると世界に向かって高らかに笑ってやろう。





end






今日1月16日にお誕生日を迎えられた、鴨ねぎさんにささげますv
リクエストは御沢エロ(笑 と、髪を撫でながらキス(みたいな感じ)です^^
お題に沿えてるかな…。
鴨ねぎさんには本当にお世話になっていて、それと潮さん区壁さん、このお三方なくして私のダイヤ充はありえないほどです。
お誕生日おめでとうございますvこれからも仲良くしてくださいv大好き!!





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