[携帯モード] [URL送信]
愛はつづくよどこまでも






「俺が」
「いや俺が」
「だって俺の方が経験あるし」
「でも俺だって男だし」
「それを言うなら俺の方がイケメンだしもっと男だし」
「もっと男って意味わかんねぇんだけど」
「わかんねぇならとりあえず抱かれとけ」
「ふざけんな」



そんなやり取りをかれこれ数日。
紆余曲折あって互いの想いを確認し、キスもしてボチボチさらなる一歩を踏み出そうかと言う時に、バカがバカな事を言い出した。
『俺がアンタを抱くから』
ふざけんな。は、こっちのセリフだ。
堂々巡りの言い合いにももう飽きた。今日、キメないと俺も諸事情でかなり切羽詰まっている。もう今夜あたり沢村の夢でもみて夢精しちまうに違いない。
何で沢村がそんなに“上”にこだわるのかわからないが、こんなんじゃあいつまでたってもアイツを抱けない。
しかしもう、背に腹はかえられないから、不本意だが確実なやり方で決める事にした。

「じゃんけん!?」
「そう、じゃんけん。公平だろ?」
「えー…」
「仕方ねえだろ!決まんねえんだから」

夜、同室者を追い払った部屋に沢村を呼んで、切り出した。
不満タラタラなふくれっ面を人差し指で突ついてなだめる。

「な?」
「…………わかったよ」

内心、ガッツポーズ。何故なら。

「うわあああああ!負けたああああああ!」

アイツは“最初はグー”のあと、必ずパーを出すからだ。倉持も知っていて「ホントあいつパーだよな。ヒャハッ」と、じゃんけんの事か沢村の事かわからないセリフを吐いていた。
今も左手はパーのまま、右手で手首を掴みうずくまって悶えている。
さて、悶えるなら俺の下で悶えてもらおうか。

「沢村……」

少し同情を滲ませた声で、うずくまる沢村の背にそっと手を置く。ゆっくりと俺を見上げた顔は少し哀しげで胸がチクリと痛んだ。
でも無理だ、沢村。これだけは譲れない。
そんな心中など知らないアイツは、小さく頷く俺を見て、目を見開きまた同じように頷いた。

「……そう、そうだな。男に二言はない!よし、来い!御幸!」

俺の好きな強い光の真っ直ぐなその瞳。でも今その強さいらない。
なんか起き上がってパワーポジションの姿勢で両手広げてる。これから何するつもりか理解してるのか不安になるって。
まるで殺気に満ちていて、“近寄ったらヤられる…!”みたいな雰囲気。
でもだいたいわかるよ。こんな時は。
なあ、本当は緊張してるんだろ。
まったく、可愛いいったらありゃしねえよ。
来いと言うので遠慮なくにじり寄る。すると“さあ来い”と広げていた両手を、空手の構えみたいに手刀を形作り俺に向けた。
ホントにその気あんのかな、まだ早えのかな、と考えながらもこっちだってもう待てねえし。
つくづく、よく俺を抱こうと思ったなと感心した。
手を伸ばせば触れる位置でとまり、沢村に向かって手を差し出した。

「おいで」

警戒してる小動物をこれ以上怯えさせない感じで。
小さく唸り、俺の顔と差し出した手を交互に見てこの手を取るか迷ってる。
何か野生に戻ったっぽい。
安全と判断したのか、おずおずと俺の手に自分の手を重ねた。
安全なわけねえだろ。
そのまま手を引っぱって、くるりと自分の下に引き込んだ。

「うわ、」
「捕まえた」

でかい目をさらに見開いて俺を見上げてる。びっくりさせてごめんね。
でもホラ、もう待てないから。
沢村が好きな柔らかい笑顔で見下ろすと、真っ赤な顔で唇を噛み締めてる。その唇を解こうとそっと触れ合わせた。
何度も触れては離れを繰り返すうちに、噛み締めてた唇は柔らかく解かれて俺の唇を受け入れてる。このままずっとキスしてたいけど、今、この流れで進めなければならない。
そんな風にいっこくの猶予もなく突き進もうとしたけど、俺の下の沢村を見るとさっきのキスでもうキャパオーバーしたらしい。そういえば、押し倒した状態のキスなんて初めてか。
そう考えたら何かもう、可愛いやらアホくさいやら。絶対俺を抱いたりなんて、出来ねえだろ。

「お前、ホントに……こんなんで」
Tシャツを引っぺがして転がした。
「わあっ」
「こんなんで」
ちっさくて可愛い胸の突起を指の腹でくるくる弄る。
「あ…っああっ」
「こんなんなクセに」
便利なゴムのハーフパンツを下着ごと引き摺り下ろしてゆるく擦った。
「んあっ…」
「俺をどうこうしようとか思ってたわけ」
「だ、だって…」
「何?」

沢村が言いにくそうに口を開いたり閉じたり、瞳は俺を見上げたり逸らしたり。手を止めて待ってやる。聞き逃したりしないように。

「……だってさ、前にネットで調べたら」
「調べたの」
「わ、わかんねえから…。そしたら誰か女の子の書き込みで『より想いが強い方が抱く側』てのがあって…」

いったいどのサイトで調べたのかとか、女の子の書き込みなら参考にならないんじゃねえのとか、言おうとした事が言葉にならずに消えて行く。
だって、何?『より想いが強い方』って。だからお前が俺を抱くってこだわってんの?お前の想いは俺より強いって、そう思ってんの。
全身から力が抜けて沢村の上にドサリと覆い被さったら、「ぐえ」と色気もなんもない声が下から聞こえた。
でも、力の抜けた全身の一ヶ所だけ、やたらと力が漲ってきた。密着してる沢村も気付いたらしく、また顔を赤くして慌ててる。

「沢村」
「へ?」
「その子の書き込みの通りでも、俺が抱くんで問題ねえよ」
「え」
「な?」
「え、で、でも!マジで俺すげえ強いって!」

必死で訴えてる内容が、俺への想いの強さだって気付いてんのかな。きっとわかってねえな。
もう大概俺の我慢も限界なので、進めることにした。

「沢村、問題ねえから」
「だって、」
「俺がどんだけ強くお前の事想ってるか、わからせてやるから」

沢村が何かを言おうとしてるのか、口を開きかけたけど、わなないてまた閉じた。真っ赤っかになった顔で頷くと「よし、来い」と聞き取るのもやっとな小さな声。
また全身から力が抜けそう。
これ、あれか、骨抜きってやつか。

「可愛すぎてもう……禿げるわ」

軽い、ほんのちょっとした例えのつもりだったのに、沢村が俺に組み敷かれたまま「ハゲ家系……」と呟いてた。
このやろう。だれが代々続く由緒正しいハゲだ。
でも俺はとりあえず幸せで、俺の下にいる沢村を見るともう何だか叫び出したくなるような、プロポーズしちゃいそうな気分だった。
これからずっと永い間連れ添ってお互いハゲちゃって「俺たち色々あったよなァ」「もう肉より魚だね」なんつー噛み合わない会話してオイオイ早すぎんだろ新聞も来ねえよって早朝に起きて手ェ繋いで散歩してたまに見つめ合って微笑んで。妄想は一瞬でそこまでいった。
ああもうたまらん愛してる。一生大事にするからね。だから。

「お前、一生俺を大事にしろ」
「えええ!なにそのいきなりの上から目線!ムカつく!意味わかんねえよアンタ!」
「なんでわかんねえんだよ!」
「わかるわけねェだろ!」
「こんなに愛してるのに!」
「えっ!あ、愛……とか、ばっバッカじゃねぇの……」

途端に沢村が真っ赤になって、裸でいるもんだから胸とか腿まで赤く染まって……うわあ美味しそう。
俺もずっと臨戦状態で痛いほどに張り詰めてるから、とりあえずこれを何とかしよう。

まずは二人一緒に天国を見るのもいい。
なんたって先は永いから、いくらでも。




end







第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!