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春の夜、桜の下で。






藍色の闇の中に浮かぶ白い花弁の集合体。ひとつひとつを見るなら淡い桃色で、柔らかな花びらで。
しかし今は、黒々とした幹と白い花弁、そして夜の闇とのコントラストは胸がざわつくような美しさを魅せる。
ただの春の夜が、匂い立つような妖艶さに彩られていた。

「すげえ。こういうの幻想的って言うのかな」
「そうですね、夜桜は幻想的です」
「また昼とは違う綺麗さだよな」
「ええ」

光舟を誘って、グラウンドの周りに咲いている桜を見に来ていた。
明日の予報は雨で、きっと散ってしまうからその前に堪能しようと。
昼間は暑いくらいで、練習中もすでに水分補給に気をつけているほどだ。でも夜の空気はひんやりとしていて、まだ少し肌寒い。
半袖の上に薄手のシャツを一枚引っ掛けただけの沢村にたいして、光舟は長袖Tシャツの上に少し厚手のパーカーを羽織っている。

「沢村先輩、寒くないですか」
「へーき」

そう言わないと、光舟が自分のパーカーを脱いで沢村に着せてくるのを知っている。
もう少し寒いと、勝手に脱いで勝手に被せてくるだろう。今も、パーカーのファスナーに手がかかっていた。
いつも無表情で何も興味のないような顔をして、その実、沢村にたいしては一挙手一投足に気を配っているかのような態度もみせる。
あっさり冷たく突き放したりもするくせに。わけがわからない。
だから。

(だから、わけのわからないままコイツと付き合うハメになったりするんだ)

富士山を代表とする山などは遠くから見た方が綺麗だけど、桜は遠くから眺めようが真下から眺めようが、どちらでも綺麗だと思う。
時折夜風が桜を撫でて、淡い花弁がひらひらと闇に舞う。
沢村は満開の並木の中でも大きく枝が張っている桜の下に立った。
見上げると、闇に浮かぶ白い花弁が淡く溶け出しそうで。その淡い花弁と正反対の色の幹に吸い寄せられてしまいそうな気分になる。
さらに近付いて、濃い色の幹にそっと手を触れた。
ざあ、と春の強い風が吹き付けて、たくさんの花弁を取り込みながら沢村の周りを舞う。瞳を閉じて、風をやり過ごそうとした。

「沢村先輩っ」

突然、光舟が背後から抱きしめてきた。両手を巻きつけて拘束するように、きつく。
少し焦燥を感じるような声に聞こえたのは気のせいだろうか。

「なに、どうした」
「……いえ、別に」
「別にって感じじゃねえけど」
「……少し恐かっただけです」
「恐い?お前が?」

無理やり首を捻って振り向いて、光舟を見ようとした。首筋に顔を埋めていて、柔らかな髪の毛しか見えない。

「夜桜の下の沢村先輩が、見たことないような表情で……」
「そうだったか?」
「風が、花びらを巻き込んで渦を巻いて、沢村先輩を隠すように」
「ああ、風、凄かったな」

(それで、恐くなっちまったって?可愛いとこあんじゃねえか)

沢村は、まるで小さい子をあやすような気分になって、唯一自由になる右手を持ち上げて肩に乗る頭を撫でる。
柔らかな手触りを楽しむように何度かくしゃりと掻き混ぜた。

「何が心配なのか知らねえけど、大丈夫だって」
「……そう、大丈夫。わかってます沢村先輩は俺のだって」
「え?」
「でも、まるで俺から沢村先輩を隠すように……」
「何が?」
「こんな、桜にまで嫉妬して独占欲剥き出しの自分が少し、恐くなって」
「アレ?恐いのそっち?」

それは俺も少し恐いかな、そう言おうとした唇は、顎を掴んで無理やり振り向かせた光舟のそれに塞がれた。
無理な体勢で最初から開いた唇に舌が差し込まれる。無意識に逃げる舌を捕らえて絡ませて、頬の裏側や舌の裏側の筋まで舐めて、また絡ませる。
強く舌を吸われ、光舟の口内に導かれて舌先を擦り合わせるとまた強く吸われた。
こんな、激しいキスをするようには見えないのに。
がくりと膝が落ちそうになるのを、光舟の腕が支えて、耳元で囁かれた。

「沢村先輩が俺のものだって、確かめさせて」
「え……っ、ここで」
「そう、ここで。部屋に帰るまでなんて待てない」
「いや、ちょっと待……んんっ」

光舟の手が下肢に伸びて、キスの余韻で少し兆していた沢村のものをズボンの上から擦り上げた。
背を丸めて逃れようとするのを防ぐように、もう片方の手がシャツの裾から入り込み、起き上がらせながら突起に触れる。
指の腹で転がすように弄ると、すぐにぷくりと勃ち上がるそれに光舟の頬が緩む。
摘まむように捏ねて、時折押しつぶして休まずに愛撫を続けていく。
もう片方の手は器用に沢村のズボンの前を寛げて、直接握り込み擦り上げた。
すでに先走りが溢れているのが、濡れた音で沢村にもわかり、羞恥で顔が熱くなる。

「は……」
「沢村先輩、気持ちいい?声、我慢しないでいいですよ」
「……ひとが…っ」
「来るわけない。こんな時間にグラウンドの端っこに」
「……くっ」
「ねえ、声、聞かせてください……」

ぷくりと固く勃った突起を強めに指の腹で捏ねて、雫を溢れさせている先端を指でグリグリと刺激しながら扱く。
後ろにもたれ掛かるように仰け反ったその首筋に、光舟はゆっくりと舌を這わせて吸い付いた。

「あっ、あぁ!あぁっ」

ちゅ、ちゅ、と音をならしながら吸い付いて首筋を移動する。
耐えられないと言うように首を振り、身を捩って逃げようとするのを許さずに押さえつけながら続けた。

「こ、光舟…っやめ、も、イく、出ちまう」
「いいですよ、このままイってください…ほら」

他への愛撫はそのまま、括れをこするように、沢村の好きなやり方で追い上げる。
すると、小さく叫び声をあげてビクビクと震えながら光舟の手に吐き出した。

「はぁ、は…っ」

荒い息遣いを整えようと、必死で酸素を取り込みながら沢村が桜の幹に縋り付いている。
それを引き剥がして、くるりと反転させて背を幹に押し付けた。すべて、片手で。
その原因の、使えない方の手を沢村が見咎めて「拭けよ」と嫌そうに言う。
沢村のものを受け止めた右手をゆっくりと上げて、舌を這わせようとした。
目の前でそんなの、勘弁してほしいと慌てて止める。

「ちょ、やめろよ!汚えだろっ」
「沢村先輩のは全然汚くなんかない。普段から俺、舐めてるし飲ん」
「わーーー!!」
「……うるさいです」
「お前がとんでもねえこと言うから!」
「普通ですけど」

沢村ががっくりと脱力した隙に、ズボンと下着をおろし片足を抱え上げ、沢村のもので濡れた手でそこを撫でた。

「あ!」

びくりと跳ねたからだを抑えて、そこを指で押しながら柔らかくなるのを待つ。
ほころんだところでまずは一本、差し込んだ。ゆっくりと掻き回す。
締め付けてくる肉に、光舟の息が荒くなる。ナカを擦ると沢村の熱い吐息に声が混じる。

「ああ……」

指を抜き出して、もう一本添えて再び捻じ込んだ。二本でナカを掻き回すと、もう沢村の声も抑えられなくなってきたようだ。
そこはもう収縮をはじめて光舟の指をもっと飲み込もうとしていた。
もう充分かと沢村の顔を見ると、熱く上気した頬と潤んだ瞳、半開きの唇からは熟れた色の舌が覗いている。
唇がゆっくりと、音もなく「こうしゅう」と、形作るのを降り注ぐ花びらの向こうに見た。
その瞬間、理性が吹き飛んだ。
性急に指を引き抜いて、片手でベルトを外し寛げると、熱く滾ったものを押し当て一気に貫いた。

「あああぁっ!」
「ああ…沢村先輩、もっと、もっと奥に入らせてください……」
「あ、あぁ、あっ」
「は……凄い…気持ちいい」
「あぁ、光舟…っ」

名前を呼んだら、ナカでドクリと大きくなった。
それにびっくりして瞳を開けると、珍しく余裕などない、雄臭い顔をした光舟と目が合う。
するとすぐに顔を寄せて唇が塞がれた。
めちゃくちゃに舌を絡ませあって、互いに腰を揺すって快感を追い求める。
その振動か、風か、花びらが次々に降り注ぐ。綺麗だと思う余裕もない。
ただ、互いを貪るように抱き合っていた。こんな一回じゃ、きっとおさまらない。
だって、こんなに求めているのに気づいてしまった。


初めて、好きだと言えるかも知れない。
この春の夜、桜の下で。





end






あきゅろす。
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