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その名前





どうしても言葉に出来ない、伝い尽くせない想いがある。
それは例えば、風を受けて靡いた髪からあらわになった前を見据える強い瞳を見た時だとか、無防備に晒される寝顔を眺めていたくて眠るのがもったいない時だとか。
そんな時の、胸がギュッと絞られるような切なさにも似た、でも決して不快ではない想いには当てはめる言葉がない。
愛しいとか好きとか抱き締めたいとか離したくないとか、どれも違うようでまたその全てでもあるような。

今もまた。
隣にある伏せた睫毛を眺めながら、ゆったりとした規則正しい呼吸に自分のそれを合わせる。
音のない静かな夜に、重なり合ってひとつになる安らかな呼気。世界に存在するただひとつの確かなもののように。
頬に寄せた唇を眠りを妨げぬよう一瞬だけそっと触れさせた。
言葉に出来ない全ての想いが溢れ出す時、唇から零れる呟きはいつも。

「沢村……」

その 名前。



end


2013.1.30 日記より


あきゅろす。
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