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凍りついた吐息さえ






部屋に行って好きだと伝えて、まず唇を奪った。

感情が顔に出ないと定評があるせいで予想すらしていなかったのか、驚いた表情のままで俺のキスを受けている姿が可愛くて目を閉じるのを忘れた。
抵抗されなかったから、開いた唇から舌を差し込んであの人の舌に触れた。その温かさと柔らかさに眩暈がして夢中で絡ませた。
逃げられなかったから、そのまま押し倒してシャツを捲くし上げて触れた。こんな激情が自分の中にあったのかと半ば呆れながらも夢中で抱いた。



そしてそれからもキスをしたり、部屋に行ったり呼んだりを重ねた。
なぜ逃げもせず受け入れてるのか何もわからない。
なぜ抵抗しないんだろうとか、俺の事をどう想ってるんだろうとか、らしくなく燻っている。



この人と二人になると簡単に熱くなる。触れた指先から脳髄までが一瞬で沸騰する。
でも、もしその問いをぶつけたとしても、その返事が望んではいないものだったら。拒絶されたら。
そう思うだけで身体は一気に氷点下まで冷たくなっていく。
睫毛さえも吐息さえも凍りつくような真っ白い世界に放り出されたらこんな気持ちになるのだろうか。

自分勝手なのはわかっている。その身体を奪っておいて、本当は気持ちを欲しがっている。
駆け引きなんか出来ないから、知りたいなら聞くしかない。欲しいなら手に入れるしかない。

「好きです」
「知ってる」
「好きなんです」
「前に一度聞いた」

シーツに両手を縫いつけて覆い被さっても、初めてキスした時のような動揺は見られない。
違う、動揺して欲しい訳じゃない。それに付随する感情が見たいのだ。

「ねえ、沢村先輩」
「ん」

キスを待っているようにも拒絶しているようにも見える、黒くて強い瞳が真っ直ぐに俺を捉える。
そういえば、この真っ直ぐな瞳はこうなる前も後も何も変わらないのだと気付いて指先が凍りつく。熱いはずのこの人の手に触れているのに。届いては、いないのかと。

「俺の事、俺とこうしてる事、どう思ってるんですか」
「お前、光舟、そういうの欲しいタイプだったのか」
「言葉の事を言ってるなら、欲しいです。……欲しく、なりました」

残暑が続く暑い夜に凍りつく息を吐き出して、熱い手首を氷点下の指先で押さえ込む。
気を抜くと思わず逸らしてしまいそうになる強い眼差しを、それでも受け止めていた。
逸らしたらこの人の隣にいることすら出来ない気がして。

「あのさ、光舟」
「……はい」
「お前とこうしてる事が答えだとは思わねえの?」
「……こう、」
「俺だって、嫌なら抵抗すんだろ」
「……抵抗…」
「おう。殴るなり蹴るなりしてさあ」

間抜けなおうむ返しで理解していく。目の奥が熱くなった。俺は、赦されていたのか。こうしてこの人に、触れることを。
見下ろせば、真っ直ぐに射抜いてくる黒く強い瞳がふわりと柔らかくなった。

「でもさ、ちょっと意地悪してた」
「……何…」
「だってお前、あれから何も言わないんだもんよ。俺だけが言うなんてさ」

拗ねちまうだろ、そう呟いた吐息ごと抱き締めた。愛しくてどうにかなりそうな衝動を抑えるようにきつく、きつく。

「沢村先輩、好きです。俺のものになってください」
「遅えよバカ。自分のもんにしてから言ってんじゃねえ」

吐息さえも凍りついていた。凍りついた全てはまた、この人の吐息一つで融解していく。
その融解熱を取り込んで熱くなった身体を言い訳にしてキスをした。





end


2012.10.9 日記より



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