It never rains but it pours. 「どうぞ」 ………。 うん。まあなんとなくそんな気はしてた。 嫌な予感ほどよく当たるもんだってじっちゃんも昔から言ってた。 大丈夫だ動揺すんな。想定内だ想定内。 「一週間ぶりだね、沢村くん」 長机の上で手を組み、藍鼠のスーツを隙なく着こなしたイケメンがキラキラしい笑顔で俺を迎えた。 またあんたかよ。 目の前のイケメン――御幸さんに会ったのはちょうど一週間前、第一志望の会社の面接でのことだ。 一目見たら忘れられないレベルのイケメン面接官は、実はちょっと類を見ないレベルの変態だった。 あの時は椅子に座る暇もなく全身を触られくんくんと匂いを嗅がれ、…そこから先されたことはとても俺の口からは言えねえ。変態だ変態。 その晩、次の面接の案内が来たのはなんの冗談かと思ったけど。 気持ちも新たに臨んだ三次面接がまたこいつってのはどういうことですか神様。 「他に面接官の人っていないんすか?」 「いや、結構な人数いるはずだけど?今日だけでもいくつか部屋があったろ?」 確かに廊下には待機学生のための椅子が各々の会議室のドアの前に用意されていた。ざっと見ただけで5つはあった気がする。 「ちなみに学生を割り振るのは人事部ね」 「…じゃあなんで俺、毎回御幸さんなんでしょうか」 「ほんとすごい偶然だよね。いや、運命かな?」 柔らかい笑顔で椅子を勧めてくるイケメンのその爽やかさを信じてはいけない、ということを俺はもう知っている。 つまり今の台詞も非常に疑わしい。どんな手を使いやがった。 と思ったのが顔に出たのか、ふ、と苦笑した御幸さんが優雅に長い足を組んだ。 くそ、動作の一つ一つが無駄に絵になる男だな。 「まあ基本的に女の子は他に回してもらってるけどね、色々めんどくさいから」 「めんどくさい?」 「俺に見惚れちゃってうまく喋れなかったり、こっそりメアド聞いてきたりするし?」 「…なんすかそれ」 「ねえ?就活をなんだと思ってんだか」 あんたがな。 とつっこみたいのを膝の上の拳を握りしめてこらえる。 こいつは面接官、変態でも一応志望会社の面接官だ。 けど、そのまま無言でニコニコとただ俺を眺めるだけの御幸さんの視線にいたたまれなくなって、先に口を開いたのは俺のほうだった。 「…あの、聞かねぇんすか?志望動機とかそういうの」 「ん?だってそんなのエントリーの時に散々書かされてるだろ?それにそういう型通りの質問したって何も見えてこねぇし」 「でもそれじゃあ俺、何をしに来てんだかわからないっす」 「んー、そうだな。じゃあ沢村くん、好きな食べ物は?」 「へ?ハ、ハンバーグ?」 「ここから10分ほどのとこに美味しい洋食屋があるよ。今度連れてってあげよう」 「はあ、どうも…?」 「じゃあ好みのタイプは?あ、女の子じゃなくて男ね」 「ええと、好みは…じゃなくて!」 俺が聞いて欲しいのはそういうことじゃなくて! てか好みの男のタイプって何だ、普通ねえよそんなもん! 「あの、この際ですからはっきり申し上げますが」 「うん?」 「俺、ゲイじゃないんで。そういう冗談はちょっと」 「奇遇だね、俺もだよ」 「なら!」 「…でも」 人生で初めて体験するイケメンの流し目の破壊力たるや。 一瞬で空気の色さえ変えてみせて、カタンと小さな音を立てて御幸さんが席を立った。 「君は別かな?」 長机を回り込んでゆっくり近づいてくる。その間に立ち上がって部屋を出れば十分に逃げられる、そんな優雅な足取りで。 「なんで逃げねえんだ」なんていう奴は、一度この人とこの距離で対峙してみればいい。 動けねぇんだよマジで。 「うん、今日もすべすべ」 座ったままの俺の正面にしゃがんで、掬い上げるように両手で俺の頬を包み、満足げに目を細める。 そのまま柔らかく抱きしめられて、ふわりと包まれる香水はこの前と同じだ。 何かを確かめるように、刻み込むように俺に触れてくる大きな手。 「あ、あああああの!」 「ん?」 「こういうの、この会社の方針かなんかなんですか!?積極的にスキンシップを図ろう、みたいな」 「沢村くん面白いこと考えるよね。俺ならちょっと嫌かなそんな会社」 俺だって嫌です。 「じゃあなんで!」 「…知りたい?」 低く滑らかな囁きにぞわりと鳥肌が立った。腕の力が強くなった瞬間、首筋にチリリと小さな熱が刺さった。 同時に一際濃厚になった香りにクラクラして思わず目を閉じる。 知りたくねえ。知らない方がいい。絶対そんな気がするのに、なのに。 (…知り、たい) 口からその一言が滑り出そうになったところで急に腕の戒めが解かれた。 目を開ければ少し困った顔の御幸さんが「時間切れだ」と自分の高価そうな腕時計を指差す。 「…あ、」 「ほんと束の間の逢瀬だよねぇ」 ため息をつきながら立ち上がったイケメンが、どさくさまぎれにこめかみにキスを落として俺の手を取る。もう苦情を言う元気も残ってねえ。 引っ張られて立ち上がった体は足元がなんとなくおぼつかない。この間と同じ、まるで酔っぱらったみたいだ。 「大丈夫?」と腰に回る手をペチリと払いのける。せめてもの抵抗に思いっきり睨んでやったら「可愛すぎるからやめて」といい笑顔で返された。 ダメだ、勝てる気がしねえ…! 「知りたかったらまたおいで。それが消える前に」 そろりと長い指が俺のうなじをなぞる。意味を聞き返す前に心底楽しそうな笑顔に退出をうながされ、結局何も言えないままその場を後にした。 …面接って、就活ってなんだっけ。 暮れかけた空を見上げてそう聞いて見たくなったのは決して俺のせいじゃない。 だよな? その晩、一緒に飯を食いに行った友達に「虫刺されか?」と指摘された首筋の紅い痕に卒倒しそうになったのは言うまでもない。 あのセクハラ眼鏡、次に会ったら絶対殴る。 いやそれよりもまず。 次こそ、次こそまともな面接が受けられますように…! その願いが叶わなかったことを知ったのはそれからわずか4日後。 今日と同じ部屋のドアを開けた瞬間だった。 It never rains but it pours. (二度あることは三度ある) 「ようこそ、沢村くん」 「おかしいだろ!絶対!」 「lluvia」まるり様より頂きましたv まるりさんも何と!私めの誕生日に書いて下さったのです…!!! 私はまるりさんのサイトのお話は全部大好きですが、こちらの面接官×学生のお話の続きがどうしても!! 読みたくてたまらなくてですね、リクエストさせていただきましたv ……もう何でしょうか、あの御幸のエロイケメン面接官っぷりは><カッコイイ…!!! そして戸惑いながらも必死に自分を保とうとする沢村のカッコ可愛さ!! 求めていた、それ以上の萌え転がる二人でしたvああ…もう続きが読みたいですねv まるりさん本当にありがとうございました!!いつもいつもサイトで幸せを頂いてますv どうかこれからも宜しくお願い致します!!大好きですv |