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全ての事由に存在する理由





俺には、後輩みたいな犬がいる。
違うわ。犬みたいな後輩だ。
いいパシリで、いいサンドバッグで、総じていいオモチャ。いつもからかって遊んで、暇潰しには持って来いで。

そんなオモチャに今、キスしてる。

俺達以外誰もいない俺達の部屋で、あいつを壁に押さえ付けて動きを封じて。
指が食い込むほど顎を掴んで唇を重ねる。角度を変えて、何度も何度も。
ぎゅっと固く目を閉じて何を考えてる?逆らわなかったらすぐに終わる?倉持先輩のいつもの気まぐれ?
生憎だな、沢村。
すぐに終わりもしねえし、気まぐれでもねえんだよ。

「…ん…っ」

苦しそうに鼻から抜ける吐息、それに混じる声にぞくりとした。
もっと聞きたくて、深く合わせる。無理矢理こじ開けた唇の隙間に滑り込ませた舌で咥内を舐め回した。
奥に引っ込もうとする反抗的な舌はすぐに絡め取って引きずり出す。強く吸い付いて貪った。奥の、奥まで。

なあ、お前。俺の犬だろ?俺のオモチャだろ?

他の奴に尻尾振ってんじゃねえよ。他の奴に遊ばれてんじゃねえよ。
胸糞ワリイ。

「…ふっ、ぅん…」

何そのエロい声。
くせになりそうな柔らかい舌をより一層強く吸ったら、俺を押し遣ろうと胸に置かれた手に力が入った。そんな程度の抵抗で逃げられるとでも思ってんのかよ。
逃がさねえよ。俺のだって。
散々味わってようやく唇を解放した。赤くぷっくりと最高にエロくなっちまった唇を。
唇は離しても顔はそのまま至近距離で見つめてると、沢村の濃いバサバサの睫毛がふるりと震えた。
ゆっくりと現れる瞳を覗き込んで息を呑んだ。てっきり怒りに満ちた強い瞳が俺を射抜くんだろうと思っていた。
なのに、現れた瞳は。
蕩けたように潤んで、切なげに揺れている。
近すぎて焦点が合わないのか、濡れた瞳が何度か瞬いて俺を見上げた。蕩けて何かに溺れているような男の瞳で。

ああ、そうか。お前、俺を。

そこまで考えてぶわりと全身の毛穴が開いたような感覚。頭の中が痺れた。

「……倉持先輩……なんで…、」

なんで?なんでって決まってんだろうが。

「理由が欲しいのかよテメエは」

自分でも意地悪な顔をしているんだろうと思う。でも仕方ねえ。
理由を欲しがる沢村が欲しい。

「欲しい……知りたい、です」

上がる口角が抑えられない。俺の胸を押し遣ろうとした両手は自分のシャツを皺になるほど握り締めてる。
伝えたらどんな顔をする?駆け引きとか、焦らすとか、そんなんどうでもよくなった。

「テメエを俺のにしてえんだよ。今までもそうだったけど、これからはもう一つ増えて…いや、あらゆる意味で俺のに」

まだ顔は唇が触れ合いそうな至近距離。表情を読み取るのに一苦労な位置だけど、このバカのでかい目のおかげでよくわかる。
ほら、こぼれそうに見開いて不安げに揺れて、瞬きを一つ。ゆっくりと開いたら水を湛えて蕩けた瞳が意を決したように見つめてくる。

「……それじゃ、足りない。先輩、ちゃんと…」

もっとと言葉を求めてくる様に背中がぞくりと粟立った。
我慢出来ずに後頭部に手を差し込み髪を引っ掴んで上向かせ、唇をかすかに触れ合わせたまま話す。

「好きだ。テメエは俺のもんだ。俺以外に懐くんじゃねえよ」

小さく音がするような軽いキスをしたあとは、触れ合わせたまま笑った。

「………満足かよ」
「……、は…」
「じゃあ今度は俺が満足する言葉を寄越せ」

途端、見開いてすぐに切なげに細められた瞳で懸命に言葉を紡ぐ。

「…っ、好きで、倉持先輩がずっと好きで…技かけられる時も、触れる度に心臓がおかしくて…っ、どう言えば満足して貰えんのかわかんないけど、今キスされたのびっくりしたけど、でも俺ホントは嬉しくて…、ん…っ」

こんなの、我慢できる訳ねえだろ。途中でまた唇を塞いで深く、深く重ねた。
沢村の手は、胸を押し遣るでもなく自分のシャツを握り締めるでもなく、今度は躊躇いがちにゆっくりと俺の背中にまわされた。
それだけでさっきのキスとは全然違う意味になる。
互いの吐息が交じり合って合わせた唇から想いが溢れた。


俺には、犬みたいな後輩がいる。
いいパシリで、いいサンドバッグで、総じていいオモチャ。
そしてそこに今日から加わる最高に可愛い『恋人』。





end





あきゅろす。
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