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はじまりもおわりもせず





「なあ、お前また泣いてんの?」
「うっせ!泣いてねーし!」
「何で何で?」
「泣いてねーっつってんだろ!」

御幸一也がちょっかいをかけてくる。いつものことだ。
こいつには"泣き虫"とか不愉快極まりないあだ名をつけられている。
呼ばれる度にプライドがズタズタになりそうで腹が立つ。そして癒しの筈の昼休みを今日も御幸に奪われたことにも腹が立つ。

「でも、泣きそうな顔してる」
「してね……わっ」

頭を両手で掴まれて固定された。至近距離で顔を覗き込まれて余りの近さに思わず目が泳ぐ。
ちらりと御幸に視線を戻す。
見てる。
外す。
あちこち視線をさ迷わせた後にまたちらりと戻す。
見てる。

見てる。

外せない。

「………何だよ…何か言えよ…!」
「ホラ泣きそう」
「泣かねえって」
「どした?通学途中の飼い犬ジョンに吠えられた?」
「寮生活だっつの」
「朝練で投げたボールが頑固な若林さんちの窓割った?」
「若林さんて誰だよ」
「嫌いなピーマン…」
「だーっ!うるせーっ!」

叫んで、頭を掴む手を払いのけようとしたらびくともしない。何だこの力強さ。

「だいたいそんなんじゃ、イマドキ小学生でも泣かねえよ!」
「でも、沢村は泣くデショ」
「だから……っ!」
「あ、…ホラホラ……泣きそう」
「違っ……!」
「泣く?泣く?」

クソ、俺の涙腺ってマジ根性無し。
別に泣きたくもないのに下目蓋がぷくっとした感覚。そして俺の意思に反してジワッと溢れてきた。
チクショッ!

またちらりと御幸を見るとひどく愉しそうに目が細められ唇が弧を描いている。
俯いて隠したいのにガッチリ固定されてるから、固く目を閉じると目蓋から涙が溢れた。
すると目尻に温かくて柔らかいものが触れて、それを拭うように蠢いた。

何?今の。
まさか、

「ちょ、今、ななな舐め……っ!?」
「ん?」

愉しそうに笑ったまま舌をペロリと出した。確信。こいつ今舐めやがった。

「もうさ、ホント何なのアンタ!いい加減にしろや!」
「だって」
「だってじゃねぇよ!」
「だって沢村が泣き虫だから」
「泣き虫じゃねぇ!ただ人よりちょっと涙腺が弱いだけだっつーの!」
「知ってる?それを泣き虫って言うの」
「くっ……!」

いつもいつもいつもこいつは!
こうして毎日俺で遊んでんだ。まじでムカつく。




******




「あ、また御幸が沢村泣かしてる」
「懲りねえな、あいつら毎日」
「確かに沢村はよく泣くけどさ、あれ泣かしてんの九割御幸だろ」
「他の奴が泣かしたら陰湿な嫌がらせを受けるらしいぜ」
「御幸ってホント歪んでるよな」
「今日の午後練でもまた泣かすんだろな」
「でもたまーに誉めて嬉し泣きさせるよな」
「たまーにな。三十回に一回くらい?」
「いや、五十回に一回って感じかな」
「ただ単に嬉し泣きも可愛いから見たくなるってだけだろ」
「早くくっついちまえばいいのに」



******



だけど、あんなムカつく奴との時間が楽しいのも事実。
誰にも言えない。
このままでずっといられればいい。何もはじまらなければ終わることもない。
そうすれば、ずっとこのまま。

掴みどころのない御幸が何を考えてるかなんてわからないけど。
何かがはじまるように変えてみるのもいいかも知れない。

とりあえず、
泣かされたら泣かしてやる。
舐められたら舐め返す。

反撃開始だ、御幸。覚悟しとけ。





end





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