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キスで、刻む





御幸はキスが好きだと思う。
キスに割く時間も長いし、丁寧だ。最中の、何もかも奪うような激しいものとはまた違う。

実際、今もずっと俺の唇を味わってる。時折舌先がそっと唇をなぞり、差し込まれては咥内を舐めていく。
少しずつ。
少しずつ、官能を呼び覚ますような。誘うように少し唇を開いた。
また舌が入り込み、柔らかく絡ませ合うと僅かな時間で去っていく。
まだ足りなくて追い掛けそうになる舌を慌てて引っ込めた。

御幸の同室者は今日は他の部屋に泊まるらしい。俺達しかいない静かな部屋で、ただ唇を触れ合わせる。
狭い二段ベッドには入らず部屋の真ん中に座り込んでキスをする。
御幸のデスクに置いてある小さな時計が一秒ごとに微かな音をたてて時を刻む。
デザインが気に入って購入したもののやはり音が気になり、近くスムーズに動く秒針の時計に買い替えるらしい。
御幸の唇が啄むように触れてくる。触れては離れ、離れては触れ。
静寂の中、柔らかく触れる唇と、小さく聞こえる時計の音。


あ、
もしかして。
この触れるリズムは、


そっと瞳を開けると、近すぎて目の前の御幸に焦点が合わない。
二、三度瞬きをしてから見返すと、御幸の目がゆっくりと細められた。この表情は、きっとアタリ。
御幸の時計と同じリズムでキスをしてる。一秒に一度。早いけど、意外に出来るものだと知る。

いつまでする気だろうと思う。1分間で60回にもなってしまう。
目線だけ横を向けてデスクの上の時計を見た。
もうすぐ秒針がてっぺんにくる。


きっと、その時。


御幸の目がさらに細められた。愉しそうに。
横目で見る。あと10秒。
9、8、7、6、後頭部に手が添えられた。

5、4、腰を抱く手に力が篭もる。やられっ放しじゃ悔しいから。

3、2、1、御幸の後頭部に両手を添えて力をこめた。

ゼロ。

御幸より早く舌を差し込んで絡め取る。殆ど同時だったけど御幸の舌は俺に応えるように絡み付く。
舌先を擦り合わせ、絡ませ合い、互いに貪るように。

ゆっくりと身体が傾いていき横たえられる。
シャツの裾から入り込んだ手が肌を滑っても、沸騰するような興奮で互いの息遣いが荒くなっても。
唇は触れ合ったまま離れない。

俺達らしいと思った。
キスで告げる。この想いを。

こうしてずっと触れ合って。
時を刻もう。





end







あきゅろす。
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