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アンドロイドは宇宙飛行士の夢を見るか 3







それから何回か転移してようやく中継地点の惑星にたどり着いた。
そこで燃料やら食料やらを補給して再び目的地を目指す。
会社のほうで全て手配しておいてくれてたけど、通関手続きだけは自分でやらなきゃならない。
係官にはちゃんと本当の運んでるモノの正体と渡航理由を言う。
別に問題はない。
「へえ超A級アンドロイド。貴重品ですね。」
「回路の再調整をしてもらいに行きます。」
「再調整?」
係官が怪訝な顔で訊き返す。
「はい?」
「それはちょっと無理なんじゃないかな。」
「え…」
「超A級っていうのは高性能な分だけデリケートでね。下手にいじるより人工知能回路ごとごっそり交換ってことが多いんだよ。そのほうがずっと確実だからね。」
……てことは、
「記憶とか残らないんですね。」
「アンドロイドだから記憶とは言わないよ。記録なら君の本社のメインコンピュータにバックアップが取ってあるだろうし、情報はネットワークで随時更新されてるから新しくなったとしても何の問題もないよ。大丈夫。」
「はあ……」

手続きはスムーズに済んだ。
でも俺は足取り重く船へ戻った。

ごっそり交換ということは、脳みそを新しいのと入れ替えるということで。
それまでの御幸さんは「終わり」ってことなんじゃないだろうか。
今までやってきたことは「記録」として残ってるだろうけど、俺とこの船に乗ったことやくだらないことやって笑い合ったこととか「嬉しい」って言ってくれたこととか――
全部なかったことになるのか。
御幸さんの中で。

船に戻ると同時に出発の準備をしなくちゃならない。
コックピットに向かうとなぜか操縦席に御幸さんが座ってた。
時間かかるから部屋でのんびりしてていいって言ってったのに。
「なにやってんのあんた。」
って呼びかけようとして気がついた。
「寝てる……」
アンドロイドでもうたた寝とかするのか。
覗き込むとうっすら目をあけた。
本物の社長は眼鏡が必要でも御幸さんはホントはいらないだろうに、この旅のあいだ中ずっとかけてたな。今も。
俺を見ると物凄く優しい笑顔になった。
「夢見てた…」
「どんな?」
「沢村君とね、小さな白い宇宙船に乗って、青い宇宙をどこまでも旅するんだ。」
「夢じゃないじゃん。今、現実にやってることだろそれ。」
「ああ、そうだったね。」
笑ってる。
やっぱりこういうところもおかしくなってる所なんだろうなあ。
普通にアンドロイドは眠らないだろうし、夢も見ないし、夢と現実を混同しない。
なあ、御幸さん。俺の夢見て楽しい?
なんて、ただの人間の感傷だ……たぶん。
「……沢村君?」
御幸さんに手を伸ばして自分から抱きしめてみた。
感触は人間の男の人とまったく変わりがない。
御幸さんの手が俺の後頭部を撫でた。
「通関で何か嫌なことあったの?」
「何にもねえよ。」
ただ……あんたが好きだなって思っただけだよ。
言わねえけど。
だって忘れられちまうんだから。
「離陸するから場所交代。なんであんたがここで寝てんだよ。」
「だって帰ってきたらまっすぐ沢村君ここに来るだろ。なるべく早く顔を見たかったから。」
「それで寝てたら意味ねえじゃん!」
「はっは、確かに。」
「案外バカだなあんた。」
そう言って俺も笑い飛ばしてやった。

今まで通り。
別れるときまでは今まで通り。

そう決めて。



そうは思ったものの夜になって一人になったらいろいろ考えちまって眠れなくなった。
いつもだったら誰かしらクルーが居るから話し相手に困らないけど今回は一人だからどうしようもない。
回線繋いで誰かと話すか。
春っちとか……時間的には問題なさそうだし。
部屋を出て、コックピットに向かう。
通常航行で自動操縦の時は、人がいなければ明かりが消えているはずなのに点いている。
なんでだ?
足音をたてないように入っていくと聞きなれた声が聞こえてきた。
「だからー、決めただろ?青心まで行って帰ってくる、それまでは俺はアンドロイドだって。」

え……?

「そもそもその計画自体が無謀なんだ。」
聞こえてきた別の声は社長室で会った秘書さんだった。
メインモニターに顔が映ってる。
「コピーはもう修理が終わって復帰してるんだろう?」
「ああ。動力系の軽いトラブルだったから簡単に終わった。」
「なら問題ないだろう。」
「そうはいくか。コピーは確かに外見も中身もお前そっくりに作ってある。誰にも気づかれることはないだろう。実際、通常時のお前よりも優秀だ。だがあくまで「通常時の」だ。」
「初めてお前から褒められた気がするよ楊。」
「くだらん事をほざいてないでとっとと船長に命じて戻ってこい。」
「いやいやお前こそふざけるなよ。沢村君にどう説明をつけろっていうんだ。あの子は俺がアンドロイドだと思ってるんだぞ。」
「それが不思議でならない。普通気がつくだろう。もう何日一緒にいるんだ。」
「そこは俺の演技力を褒めるべきとは言えねえな。とにかく純真な子なんだ。騙してたなんて知れたらどんだけ怒ると思う?」
「知るか。自分で蒔いた種だろう。」
「お前俺がどれだけ沢村君のこと好きか知ってるだろう。この機会をどれほど待ってたか!俺だって下手な嘘なんぞつきたくなかったさ。でも他に社長業を抜け出すチャンスなんかなかったじゃないか。超過密スケジュールが過密くらいになってた今を……」
御幸さんが話し続けてる間に楊さんが俺に気がついた。
御幸さんに
「後ろ。」
と指をさす。
御幸さんの後ろ姿が一瞬硬直したあと、恐る恐るといった感じにぎくしゃくと振り返ってくる。俺はお化けか。
「沢村君!」
……イケメンが物凄い残念な顔になってる。
その向こうで楊さんが肩を竦めたのを最後に通信を切断した。

なんかもう突っ込みどころが多すぎて何から訊いたらいいのかわかんねえ。

「あんた、俺を騙してたんだな。」
「ごめんなさい!」
深々と頭を下げた後頭部を見つめた。
「なんで?」
「理由は今話してた通りだ。俺はどうしても君の操縦する船に乗りたかった。」
聞いたけど。
――どれだけ沢村君のこと好きか――
「御幸さん俺のこと知ってたんだ?」
「入社式に会場ですれ違った。君は俺を見もしなかったが。」
そうだったんだ。
「その時からずっと沢村君の仕事の記録を追っていた。すぐにトリプルAの評価を受けるほど優秀だということも、クルーの評判も良いということも。」
下げてた頭が上がって俺を見つめてくる。
「実はガキの頃の夢が宇宙飛行士だったんだ。もちろん生まれたときからこの仕事に就くことが決まってたけど。」
そうか、二代目だっけ。
「星間企業の社長って言ったって自分は地球のちっせえビルの一室にいて、宇宙旅行なんてしたことない。無味乾燥な出張ばかり。一度くらい憧れの宇宙飛行士と二人で長旅をしてみたいと思ったんだ。」
「だからって善良な社員を騙していいのか。」
なんて。
口では言ったものの腹ん中にちっとも怒りが湧いてこない。
バカバカしくておかしくなる。


それに……

御幸さんが人間だって分かって、なぜかホッとしてしまったんだ。


それはたぶん。


「なあ?」

謝り続ける御幸さんに問いかける。
「それで、この宇宙旅行、楽しかった?」

驚いたように御幸さんが俺を見る。
俺が怒ってないのをどう思ったのか御幸さんはちょっと間を置いてから返事した。
「とても……とても楽しかったよ沢村君。」
「ならいいや。俺も楽しかったから。」


そう言って笑うとまた御幸さんが突進してきた。
「ぎゃああ離せ!」
「沢村君、本当に可愛い!」
「あんた人間なのにおかしいよ!ぜってえ脳みそ壊れてるとこあるって!」
「ないない。超優秀な社長だから。」
「自分で言うな!社長なんかって言ってたくせにー!」


そのあと結局御幸さんの気のすむまで抱きしめられて、頭撫でられて、しまいにはキスまでされてから解放された。
すっげえ心臓ドキドキしてるけど嫌じゃないっていうかちょっと嬉しいって思ったのは内緒で。


まだちょっと名残惜しそうな御幸さんを無視して俺は船を反転、地球に帰る準備を始めた。
「もう少し長く沢村君と旅したかったんだけどな。」
「あと半分なんだから充分だろ。あんたもうちょっと真面目に社長業やれよ。凄いんだからさ。」
実際二代目になってから急成長してるんだよウチの会社。
「うん。沢村君に褒めてもらえるなんて悪くない職業だと思った。」
「べ、別に褒めてなんか……」
「でもさ、ときどきでいいからこれからもこっそり沢村君の船に乗せてもらいたいなあなんて思うわけよ。」
「……考えとく。」
「前向きに考えておいてくれたまえ。」
御幸さんがいかにも社長っぽく、しかも極上の笑顔で言うもんだから、また心臓が変な音を立てた上に頭に血が上った。
それを見た御幸さんがシートに座っていた腰を浮かせた。
「沢村君ー!もう一回抱きしめていい?」
「駄目!もうΩドライブの十秒前だからちゃんと座ってろ!」
ホント旅はあと半分あるんだぜ?
このままじゃ俺の心臓が持たないから頼むから大人しくしててください社長。














「月の満ち欠け」萱野のはら様よりいただきましたv
なんと私の誕生日に書いて下さいました!感涙です。
リクエストしていいとおっしゃっていただき、川○泉先生の「アンドロイドはミスティブルーの夢を見るか」を御沢で、とお願いしましたv
もうさすが!さすがファンタジーと言えば萱野さんですv萌え転がりました。
宇宙飛行士沢村とか出来る社長御幸とか!夢の中の白い宇宙船と青い宇宙とか綺麗ですv
御幸にセクハラされながらまた二人で宇宙旅行に行って欲しいですねv
萱野さん、本当にありがとうございましたvこれからも宜しくお願い致します!!










あきゅろす。
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