アンドロイドは宇宙飛行士の夢を見るか 2 別に宇宙に朝も夜もないけど、普通は到着地点の標準時間を基準に生活する。 そうすれば時差ボケがないっていうか体内時計の調節がうまくいくだろ。 つまり夜はちゃんと寝るんだ。 船は自動操縦にして俺は殺風景とはいえ快適な寝室で気持ちよく寝ていた。 起床アラームが鳴らない限り目を覚まさないのに目が覚めたのは寝ている自分の上に何か乗っかってきたからだ。 何かって何…… 「み、御幸さんっ!?」 「うん?」 人の顔上から見下ろして物凄く綺麗な笑顔を浮かべてるんだけど! 「ななな、何っ?」 「んー?一緒に寝よ?」 「はあ!?部屋隣にちゃんと用意したろ!?」 この船は小型輸送船だけど普段は副操縦士と機関士も乗り込む。別に一人で動かせないわけじゃないし今回は極秘任務だから俺一人だけだけど、だから部屋はちゃんと三人分あるんだよ。 何が一緒に寝ようだ。幼児じゃあるまいし。 ロックかけなかった俺もうかつだけど。 なんとか下から抜け出そうとするんだけど、コイツ力強ええ! もがいてる時にわき腹を撫であげられて身体が跳ねた。くすぐってえよ! 「ちょ、……ふざけんな!」 「ふざけてないよ。俺ね。本当に人間と同じことが出来るように作られてんのよ。だからセックスも得意なの。」 「せ、せせ……」 そんなこと出来んのか。で、だからなんだ! って……え? ちゅって唇から音がした。俺の。 今のって……キス? 「わー真っ赤になった。」 「ぎゃああああ!」 なんかすっげー楽しそうな御幸さんを思いっきり押しのけて自由になった左手で思いっきりビンタをかました。 アストロノウツなめんな。まあでも音が派手なだけでたいして痛くないんだけどな。そのままベッドを飛び下りて壁際まで後退った。 すると御幸さんも降参って感じに両手を上げてベッドの向こう側に立ちあがった。 「まさか拒絶されると思わなかった。」 ちょっと情けない感じの苦笑を浮かべてる。 「するだろ普通!」 そりゃ今時男とか女とか関係ないし、同性同士で結婚だってできるけど俺はノーマルだぞ。それに初対面の奴とそんなことするほど…… 「沢村君ていくつだっけ?」 「十九。」 「まあ、まだ初心でもしょうがないか。」 笑われてかーって顔が赤くなるのが分かった。 「うるせえな!」 「はいはい。俺が悪かった。もう強引なことはしねえよ。」 「絶対だぞ。」 「沢村君の許可を待つよ。」 「待ってもムダ!」 手を振り回して威嚇すると御幸さんは肩を竦めて後退した。 「でもさ、気持ち悪くなかっただろ?」 ニヤって笑って自分の唇を指す。 「……っ!!」 なんかもう赤くなるのを通り越して血管が切れるんじゃないかと思った。 俺が言い返す前に御幸さんはさっさと出て行ってしまった。 …… でも残っていても言い返せなかったかもしれない。 そんなことがあっても旅自体は順調に進んだ。 翌朝はさすがに気まずいんじゃないかと思ったけど、御幸さんは全然何事もなかったかのように上機嫌で起きてきて一緒に朝飯を食べた。 やっぱ昨夜のことは頭脳回路の変調のせいだったのかななんて必要以上にドキドキしてしまった自分がアホくさく思えたりした。 「Ωドライブ準備っと。」 「また?」 「急がねえとまずいだろ。」 「でも」 「大丈夫だ任せとけって。」 言いあってるときに船が揺れた。 「わっ!」 立って計器をいじってたから派手によろけてしまった。 柔らかい感触に突き当たる。 というより御幸さんが腕を伸ばして抱きとめてくれたんだ。 「す、すまん。」 「どういたしまして。」 なんか、ドキドキすんだけど何で? 御幸さんが無駄にイケメンだから悪いんだよ。 なんて考えてる場合じゃなかった。 操縦席に戻ってコンソールに踊ってる信号を見る。 「海賊!」 輸送船は海賊の獲物だ。 こんな小型輸送船は普通隊列を組んで旅をするから一隻でふらふらしてる今は絶好のチャンスだと思われたんだろう。 さっきのは攻撃が右翼をかすったらしい。ほとんどダメージはない。 だいたい中の荷物が目的なんだから大破や爆発させることはしないで、航行不能になるくらいの攻撃を仕掛けてくる。 「どうするんだ?」 御幸さんが訊いてきた。 あ、ちょっとは真面目な顔になってる。 「座って!」 と機関士席に座らせる。 「輸送船に武器なんかねえんだからやることは決まってるだろ。逃げるんだよ。」 と言って探知機を見ると複数の船影が見えた。 「10か…多いな。」 「俺が手伝えることはあるか?」 「目の前の計器見てて。動力機関に異常が起こるかどうか。」 「わかった。」 自動操縦から手動に切り替え操縦幹を握る。 「ウチの会社の船の性能なめんなよ。」 「Ωドライブ準備のままだけど。」 「いいんだよ。完了次第跳ぶから。」 「手動で?」 「任せとけって。」 言いながらも後ろからの攻撃を躱す。 「酔うなよ。」 「大丈夫。」 アンドロイドだから船酔いとかないか。 「逃げないのか。」 「逃げるって言ってんじゃん。」 「でも……」 通常航行速度が全速じゃないんだよ。 よく分かるなコイツ。 「いいから計器見ててくれ。Ωドライブ準備完了まであとどのくらいだ?」 「二十秒。」 「カウントしてくれ。」 「……9、8、」 冷静にカウントしてるけど探知機見たらいくら御幸さんでも青ざめるんじゃねえかな。 かなり海賊に接近されてる。 「2、1、」 「転移開始っと。異常は?」 「ない。」 「よっしゃ!逃げ切れたな。」 「……もしかして」 「へへっ。単に逃げるだけじゃ腹が立つだろ。油断させてギリギリまで接近させてΩドライブの影響を与えたんだよ。まあ、装甲している海賊船じゃたいしたダメージを受けないだろうけどしばらくは航行不能になるんじゃねえの。」 「はっはっは。お前すげえな!」 「トリプルAの宇宙飛行士様だからな!まあこの作戦は訓練所の先輩に教わったんだけどな。」 と言うとよけい御幸さんが笑った。 「でもあんたも凄いな。適当に頼んじまったけどド素人が計器の読み方なんかわかるわけなかったんだよな。それが出来るんだからさ。」 「だから俺様は超A級アンドロイドだって言ってるだろ?ただの社長なんかよりよっぽど有能なんだって。」 「ははっ。馘になったら俺が部下に雇ってやるよ。」 「え、本気にするよ。ぜったいそっちの方がいい。」 「冗談。」 「ホント。」 「でもよ。社長なんかってあんた言うけどさ。この船に限らずウチの社の宇宙船て性能も安全性もピカイチだぜ。宇宙旅行のサービスだってその他の貿易だって本当に凄いじゃないか。まあ社員がみんな俺みたいに優秀なんだろうけどそれにしたってトップが無能じゃ上手くいかないだろ。あんたはそれを半分手助けしてきたんだからさ。「社長なんか」じゃないんだよ。あんたも、本物の社長も。」 「……動いていい?」 「ああ、いいよもう……?」 いきなり立ち上がった御幸さんがこっちに向かってくるからなんだと思ってるとまたしてもぎゅうぎゅう抱きしめてきやがった! 「な、な……は」 離せと叫ぶ前に 「ちょっとだけ。抱きしめるだけだから。」 ってなんか切羽詰まったみたいな声で言われて思わず黙った。 まあ、ハグぐらい親しい奴とならしょっちゅうやってるし、御幸さんは別に嫌なヤツじゃないし。 まあいいかと大人しくしてるとなんか自分の心臓が煩くなってきた。 「やっぱ可愛いわ沢村君。」 「だから……!」 「すっげー嬉しかった。ありがとう。」 「……」 なんかコイツ本当に人間くさいなあ。 いつもこんな風なのか変調のせいなのか…… そんなことはどうでもいいけどいい加減胸が苦しくなったから解放してほしいと思ったのになぜか口に出せなくてしばらくそのまま抱きつかれてた。 続く |