君よ知るや 舌先で、辿る。 項から肩甲骨、そして背骨に沿ってなだらかな背中を。細く引き締まった腰を。 びくびくと跳ねる身体を押さえてさらに味わう。 舌先に感じる塩辛さと仄かな苦みにいつもより興奮した。 「なぁ…やめ、ろよ…っ。風呂くらい、入れさせ、ろ…」 「ワリ、とまんね」 「あ、汗かいて、あぁ…っ」 「俺が舐めて綺麗にしてやるから」 「や、やめ…嫌だ、って…あっ」 ********************** 「――――……で?」 「で、味わい尽くしマシタ」 「てめアホなだけじゃなく変態でもあったんだな」 「変態だけどアホじゃねーよ」 「そこは逆を否定しようぜ」 「いやホントに、沢村に関してはダメだね」 「あーわかったわかった。それで昨日からのガン無視な」 「そーそー。……参ったぜ、あそこまで怒るとは」 「怒るっつーか。もう気持ち悪いんじゃねーの?テメェが」 「ないね」 キッパリと言い切る俺に倉持は冷めた目を向けた。 俺の眼にはきっと沢村の怒り具合を計る、いわば計測器みたいなのがついてると思う。 それでどこまでが許されてどこから本気で怒るのか測りながらちょっかいをかけている。 他にも沢村探知機がオプションとして後付けでついた。俺の眼は進化している。 探知機については沢村の眼にもついてると、自惚れでなく思う。あいつはかなり俺を見つけるのが上手い。 しかし、その役立つ筈の怒り計測器は沢村の汗を味わった時に壊れたらしい。 あの塩っぽくて仄かに苦い味に興奮してぶっ飛んだせいで。 塩か、塩にやられたのか。塩害だ。仕方ない、機器は塩に弱いからな。 「まぁ何にせよ、今日も引きずってんだから相当怒ってんだろ。謝っとけよバカ」 「謝る隙も与えてもらえない」 「けっ、バーカ」 「うるせ、バカって言った方がバカなんだよバーカバーカ」 「回数の多いお前のがバカって事だ」 言い合ってると近くから「ヤダー小学生みたーい」と女子の声が聞こえて二人で黙った。 実際、昨日の朝練や日中、まあ午後練まではシカトされるかなと覚悟してはいた。 あがった後に部屋とか自販機のベンチとかでご機嫌とって仲直り、とか考えていたのに。 ことごとく無視された。シカト、とか言えない。無視だ無視。一瞥もしないで俺をいないものとしていた。 これはかなり堪える。まだいつもみたいにプイッとかしてくれたら付け入る隙もあるのに。 今日の朝も、移動教室で廊下で会っても、昼に学食で会っても。 あいつの中に俺は存在していなかった。 ヤバい。 いい加減あの瞳に俺を映して、あいつは俺が好きなんだと確かめないと。俺がもたねーよ。 結局、放課後の部活でも沢村は変わらず、倉持の協力により消灯前の時間、部屋を空けて貰った。 ノックして入ると、沢村は俺が来る事を聞いていたのかベッドの下段に入り込んで漫画を読んでいる。 ちらりとも見ようとしない態度に段々とムカついてきたが、俺が怒るのは筋違いだと自分に言い聞かせてベッドの横に座り込んだ。 「沢村?」 「………………」 「まーだ怒ってんのか?」 「………………」 「あー、何だ、その…悪かったな」 漫画を持つ手がピクリと動いた。反応してくれた事に喜びを感じて口許が緩む。乙女か。 しかし顔を上げる気配はなく、沈黙が続く。沢村からのアクションは望めなさそうで、許されるまで謝るしかないようだ。 「……なあ、本当悪かった。ゴメン。お前が目も合わせてくれないの、かなりキツイんだけど…」 「………………」 聞いてはくれているのか、さっきから漫画のページは同じ所を開いたままだ。 「昨日の朝から今まで、殆ど二日間お前と話してないし触れてないし、笑顔も見れなくて俺、まじでおかしくなりそう」 「………………」 「なぁ、許してくれなくていいから。それまで謝り続けるから……顔見せて?」 「……………別に…」 「ん?」 二日振りに聞いた、俺への返事に胸が高鳴った。ああ、何だこれ。ホントに好きなんだな、俺。 「……別に、許さないとか…まだ怒ってるとか…そんなんじゃねぇ」 「え?…じゃあ何?なんでまだ顔も見せてくんねぇの?」 俯いたまま顔も上げようとしない沢村に出来るだけ優しく問い掛ける。 大丈夫かな怒らねぇかな、と思いながら布団に顔をつけるくらいにして覗き込んだ顔は。 真っ赤だった。 覗き込んだ体勢のままの俺と俯いたまま沢村の目が合う。 弾かれたように顔を背けて壁の方を向いてしまった。何故気付かなかったのか、耳も真っ赤だ。 「え…どうした?」 「………っ、は…っ」 「は?」 「は、恥ずかしいんだよ…っ!」 「恥ずか、」 「あ、当たりめぇだろっ!?あ、あんな…っ」 沢村が持ってた漫画をバシンと音が鳴る程閉じて布団に叩き付けるように置いた。 握った拳がワナワナと震えている。 「あんな?」 「……あ、汗すげぇかいてたのにっ!汗臭いのに!な、舐め……っ!うわあああぁ!」 思い出したのか叫びながら前に倒れ布団に突っ伏してしまった。 じゃあ何か?コイツは怒ってたと言うよりは、恥ずかしくてこの二日間俺を無視し続けた訳か。 目も合わせられない程に。 うわ。 ヤバい、これ。 「……沢村、」 「…………何だよ…っ」 握り締めてグシャグシャになった布団からくぐもった声が聞こえる。 「勃った」 「……はあぁっ!?」 またガバリと勢いよく顔を上げた。つくづく忙しい奴だ。 「な、なっ何だよ!あんた…」 取りあえず、真っ赤な頬をそっと撫でて小さく開いたまま戦慄いてる唇を塞いだ。 衝動のままに、舌を捩込んで絡め取る。 あまりに可愛いくて愛しくて、キスでもしてないとどうにかなりそうだった。 「…ふっ、あ…」 「好きだぜ、沢村。どうしようもないくらい」 「……は、……」 「お前なら、俺は何だって平気なんだよ」 時折唇を離しながら言葉を紡ぐ。この想いすべてが伝わるように願いながら。 「だから、恥ずかしがんなくていいから」 「……でも、嫌なもんは嫌なんだよ…っ」 「うん、解ったから」 宥めるように軽いキスを繰り返すと緊張が解けてきたのか、力が抜けていく。 「今日は風呂、入ってんだろ?」 「…………は?」 「倉持がさ、消灯まで部屋あけてくれるって事だから」 「…………だから?」 「まだ、時間あるからさ」 「…………あんた、」 「うん、俺こんなんで部屋帰れねぇもん」 「そ、んなの…あんたが勝手に…!」 「沢村が可愛過ぎるから仕方ねぇよな」 うん、今日のは可愛過ぎた。あれはダメだ。沢村をたっぷり味わわないとおさまるもんもおさまらねぇ。 俺のこういうの、好きが乗じての行動だと伝わってるだろうか。真っ赤な顔で睨みつける所を見ると伝わってないかもな。 まぁいいか。 ゆっくりと知ればいい。まだまだ俺の知らないお前とお前の知らない俺がいる。 つまりは、 もっともっと好きになれるということ。 さあ、二人で際限のない好きをどこまでも味わおうか。 end 33333hit 蕗さんへ リクエスト:御沢(沢村の機嫌を著しく損ねて慌てる御幸) ご本人様のみご自由になさって下さい。遅くなってしまい(色々と)申し訳ありません>< リクエストどうもありがとうございましたv |