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       2.花散らし





沢村と連絡を取らなくなってさらに半年が過ぎ、また春が巡ってきた。
まったく会わなかった訳ではなく皆で集まる時は数回参加した。
何だかんだ理由をつけて二人で会うのを避けているうちに沢村から個人的にかかってくる電話やメールは減っていった。

(情けねぇ。沢村の言った通りになってきちまったな)

沢村は御幸が連絡を寄越さずフェイドアウトしそうだと言った。別の理由からだが沢村の予感が的中したということになる。
ただ、自分の卒業の日の沢村の気持ちを想うと胸がギュッと苦しくなる。申し訳なさと切なさとが入り交じってまた抱きしめたくなる。
覚悟すら、出来ていない。ただ逃げて日々を過ごしただけだ。

気付くと携帯が鳴っている。春市からだった。

「御幸先輩ですか?小湊です」
「あぁ、久しぶり」
「お久しぶりです。突然ですが今週の金曜って空いてますか」
「突然だな。何?」
「皆で飲もうって言ってるんですけど、どうです?まぁ御幸先輩がダメなら流れる話ですけどね」
「はっはっ!わかった、行くよ。メンバーは」
「俺と降谷くんと栄純くん、倉持先輩、川上先輩です」
「わかった。場所と時間またメールして」

解っていながら栄純、の所で心臓が跳ねた。苦笑して携帯を閉じる。

(そろそろ覚悟、決めるか)





春市からのメールでは花見の意見も出たが誰も準備したがらず結局居酒屋になったとあった。
金曜、御幸が時間より少し遅れて店に入ると皆結構出来上がっていた。
ただでさえ男ばかりのむさ苦しい個室の座敷席で沢村が倉持に技をかけられている。相変わらずだ。

「おいおい、場所考えろよ倉持。何も壊すなよ」
「沢村のくせに生意気なんだよっ」
「違いますよ!俺は何もっ!」
「止めてやんなよ倉持」
「ノリ先輩助けてっ」
「何だ、また彼女でも出来たのか沢村」
「ちっ違うって!俺は…」

無理な体制でうまく喋れない沢村の代わりに割って入ったのは春市だった。

「御幸先輩、栄純くん女の子に告白されたのにまた断ったんですよ」
「へぇ、やるもんだねお前」
「だから生意気だっつーんだよ!沢村のくせに断りやがって」
「そんなの俺の自由じゃないスか!」

ようやく解放された沢村が腕や首を回しながら文句を言う。
ふと御幸は春市の“また“と言う言葉を思い出し尋ねた。

「何、沢村ってそんなにモテんの?」
「ちげーよ!アンタが言うとイヤミなんだよ」
「沢村がモテるなんてムカつく」
「うるせー降谷」
「でもこの一年で三回目なんだからモテる部類に入るんじゃない?」
「違う!ビギナーズラックだ!」
「使い方間違ってるし」

御幸は久々に笑った気がした。今までのように出来ているか解らなかったが自然と笑えるから大丈夫なのだろう。

(覚悟決めたらラクになったな)

ここに来る前に寄って来たあの桜の樹を思い出す。あの場所で心を決めた。

御幸が選んだのは、沢村を想い続ける覚悟、だった。

もう何があっても揺らがないように。沢村の幸せを願うように。一年もかかってしまったけれど。
ふと沢村に目を遣るとかなり飲んでいる。

「なぁ、お前ペース早くねぇ?」
「あ?大丈夫ダイジョーブ」
「タメ口かよコラ!」

ヘラヘラ笑って答えて倉持に小突かれる。
飲んで笑って騒いであっという間に時間が過ぎて、解散する頃には沢村はすっかり酔い潰れていた。

「どーすんだ、これ」

転がってる沢村を倉持が足で突つく。

「御幸先輩、連れて帰って下さい」
「まて降谷、何で俺だよ」
「俺の部屋も降谷くんの部屋もワンルームだし明日早いから」
「ヒャハ、いいなそれ!俺も明日早いんだった」
「嘘くせーな」
「ゴメン御幸、俺も…」
「…ノリお前まで」

はぁ、と大袈裟に溜息をついてから沢村を引っ張り上げて右手を自分の肩に廻して立たせる。

「じゃあ預かってくわ」
「「お願いしまーす」」

こんな時だけ揃いやがって、と別れようとしたら春市が近付いて来た。

「栄純くん、御幸先輩に会えて嬉しかったんだと思いますよ。ずっと悩んでたみたいだったから」
「……そっか、悪かったな」
「だから責任とってくださいね」

どこまで知っているのか解らないが最後に笑顔で釘をさして帰って行った。
沢村のはしゃぎっぷりもハイペースな飲み方も自分のせいだったと思うとまた罪悪感が顔を出す。

(ゴメンな沢村。もう大丈夫だから)

タクシーでも沢村は爆睡中だった。
御幸の部屋もたいして変わらず1LDKなだけだが、寝室のベッドに沢村を寝かせ自分はソファに寝る事にしよう。
そう考えて普通は沢村がソファだろうと苦笑する。他の友人だったらきっとそうする。

(どんだけ大事なんだよ)

何だか笑えて来た。覚悟を決めてしまえば至極当然の事で。

「おい、着いたぞ沢村」

さすがに抱えて入るのは人目もあるので肩を貸すだけで頑張ってもらわなければ。
むにゃむにゃと言葉にならないことを喋る沢村を何とか自分の部屋まで連れていく。
靴を脱がし一旦廊下に転がすと沢村が覚醒してきた。

「…あー?ここどこ…?」
「起きたか。俺の部屋だ」
「何で…?皆は」
「とっくに別れたよ。お前今日はもう泊まってけ」
「え…いいっスよ、悪ぃから。帰れるって…」

沢村が何とか立ち上がろうとするも足が言うことを聞かないのかガクリと倒れそうになった。
すかさず手を延ばして支える。

「ほら、無理すんなって」
「あ、すんません…」
「座ってろ。水持ってくるから」
「あぁ…うん」

取り敢えず沢村をソファに座らせて冷蔵庫からミネラルウォーターをとりだす。
自分が穏やかな気持ちでいる事に安堵した。
ただ外の風だけが強く吹き今夜で桜は散るだろうと思った。





to be continued



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