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路地裏で出会う







「それ、痛いか?少年」

感情の読み取れない、低くて少し掠れた声が聞こえた。
切れた口端に血が滲み、時折溢れ、咥内に流れ込む。錆くさい。
その時になって初めて、殴られたことに対して心の底から、嘲笑に似た笑いが彷彿してくる。
沸点に達した水が沸々と泡立つあの感覚に似ている。
愉快さなどかけらもない嘲笑だった。
怒りも感じない。

男は目の前に立っていた。
頭が重く、素早く首が持ち上げられない彼からは、男の膝から下しか見えなかった。
が、男が彼とは違って裕福であることだけははっきりと伺えた。
男の履くスーツパンツや、足元の革靴からは高級のにおいがした。
黒に近いグレーのパンツには、縦にラインが刻まれ、シワひとつなく夜の薄暗い街中でも光沢が伺える。
革靴はそれ以上に光っていた。下手すれば彼の顔も映るほどに。

ゆっくり、彼は鈍く痛む頭を上げる。
首の骨がそれを嘲笑うかのようにギシギシ云った。
折れてたらあの世逝きだったな、なんてブラックジョーク。笑えない。

「ああ、無理はするなよ」

男が両手を振る動作が伺えた。
彼は持ち上げた頭を少し振って、飛びかけの意識を戻す。


「いて、」

ぱき、と小気味よい音で首の骨が鳴った。
これを待ってましたと言わんばかりに頭が軽くなる。
彼から大きく感嘆の声が漏れた。「う、あ〜〜」

男が一瞬驚くように半歩下がる。
彼はクッションとなっているゴミを振り返り、「ゲ」と声を上げた。生ゴミ臭さが鼻を突いて顔をしかめる。

「見せもんじゃねぇぞ」

彼はようやく男を見上げた。
ゆっくりと立ち上がり、正面から対峙する。
身長差が歴然としていて、自分の低身長を気にしていた彼は目に見えてむっとした。
血の混じった唾を吐き、男を睨む。
野良犬のように威嚇し、唸る彼に男は笑った。

「それ、痛いか?少年」

同じ質問をした男を怪しむように彼は見た。
その風貌はまさに色男といったところか。100人の女にこの人に抱かれたいかと聞いて、100人がイエスと答えるような、俗に言う、「うわ、イケメン」

「はっはっは、ありがとう」

男を訝しがりながら、彼は汚れた学ランの泥を掃った。
くんくんと鼻を鳴らし、匂いを確かめ、眉をひそめる。臭うらしい。
都内の高校の制服で、男は彼を舐めるように眺めた。遠慮ない視線にも彼は気付かない。

「で、ホストみたいなお兄さんは俺になんか用?」

「モノホンのホストだけど。」

「モノホン…って、古っ!歌舞伎町?」

「そ。すぐそこの曲がって右の地下2階の……あ、その顔は知ってる?」

彼の口があんぐりと開いた。
笑うのを堪えた男の顔が歪む。
男を指差し、彼が言う。「アンタ、もしかしてセイドウの一也…?」

「え、俺ってそんなに有名人?」

「うわムカつく!この街でアンタ知らないひといねぇよ。」

優越気に「一也」と呼ばれた男がにやりとした。
セイドウはホストやクラブがひしめくこの街で、最も有名なホストクラブだった。
支配人はヤクザ紛いの怖面で、No.1は芸能人顔負けの色男で彼に落とせない女はいないだのなんだの、噂は絶えない。
実際目の当たりにした男はそれに当て嵌まる。
彼はしげしげと男を見上げ、瞬きを繰り返した。

「No.2が元ヤンって、マジ?」

「あ、そっちが気になる?」

つまらなそうに男が空を仰ぐ。「まあ、元ヤンだな。」

彼の目が輝いた。
目の前のNo.1より元ヤンのNo.2に興味津々のようだ。

人の集まる中心街から一本入ったこの場所は、眠らない中心街に比べてここは暗い。

夜はより闇を纏おうと影を産んだ。
ぽつぽつと灯る街灯で、ここは照らされている。
まるでこの男を照らすみたいで彼は癪だった。

「探し物?」

「は」

男が不意に彼に問うた。
話している最中も辺りを気にする彼を、男は不思議に思った。
彼は一瞬なにか考えるように思考した後首を振る。「アンタには関係ないよ」

彼は足速に道を歩き出す。
むろん、男もついて来た。

「ついてくんな!」

「だってまだ質問に答えてねえじゃん、オマエ」

「質問?」

振り返りもせずに彼が聞き返す。
どの質問だ。覚えちゃいない。

「痛いのかって。つうか、なんであんなとこで倒れてたんだよ。あ、あれか?オイ兄ちゃん金出せよ的な」

「アンタなに?お節介?知りたがり屋?」

「質問を質問で返すなよ」

男が隣に並んだ。
彼を見下ろして聞く。
ちらとそちらを見た彼は舌を出して、「関係ねぇだろ」と歩みを速めた。
もはや小走りだ。
歩幅の違いで男は速歩きに過ぎない。

「つーいーてーくーるーなー!」

「きーにーなーるーのー!」

「マネすんな!」

「マネすんな!」

全力疾走の彼をついに男は追い越してしまう。

ぴた、と彼が止まる。
男も止まって笑顔で近寄ってくる。
ぬ、と伸びた男の手が、彼の腫れた頬にそっと触れた。
驚いて目を閉じた彼は、痛む頬に顔をしかめる。
振り払うのも忘れてた。

「痛む?」

「ア、ンタ…、まじいみわかんね…」

怯んだ表情を浮かべた彼に微笑みかけて、男は胸ポケットから何か取り出す。
それが絆創膏だと彼が気付いたのは、切れた口端に張られてからだった。

「ひとつ聞くけど初対面だよな?」

「初対面だけど君はタメ口だな」

「ホストってだれにでも優しいんだ?」

絆創膏を撫でながら彼は男に苦笑した。
ちょうどその時、後方から叫び声に近い声がして、振り向く。
男も同時に振り向いて声を上げた。「ゲ」

「御幸ィ!!」

「みゆき?」

きょとん、と彼が男を見上げると、目が合う。
心なしか青ざめている。そのくせどこか楽しげだ。「俺のナマエ」

「アンタ女だったのか!?」

「はっはっは!よく言われる。けど、俺は男だよ」

男が彼の手をとり、そのまま自身の股間に忍ばせた。

「ぎゃーーーッ!!」

「ちょっといっしょに逃げてくれない?」

手をとったまま、男が走り出す。
引きずられるように彼も走った。
状況が飲み込めずにオロオロしている。

「説明!」

「ああ、サボりがばれた。あれ、超スピードで追い掛けてくるやつ、あれが元ヤンのNo.2」

「No.1が仕事サボんな!」

「いやあ、さ?たまに抜け出したくなるのよ。まだ走れる?」

路地を曲がる。
繁華街に出た瞬間、人込みとネオンの眩しさに目を細めた。
人込みを分け入り走る彼等を人が振り返る。
男の名を呼ぶ女もいれば、ぶつかる彼等に怒声を浴びせる男もいる。

後方でさっきの男(元ヤンの彼)の怒声が響いた。

「逃げるのは慣れてんだ」

「へえ?」

男が彼を見遣る。
また路地を曲がった。
彼が男の手を引き、誘導している。
この街は彼の庭も同然だった。

「少年、名前は?」

「教えねー!」

「ひどいなぁ、沢村くん」

「知ってんじゃん!」

「胸の名前プレートが親切に教えてくれたんだ」

「アンタは、みゆき、さん?」

地面を蹴る。路地を曲がる。人の怒声。女の声。

「そ、御幸。よろしく沢村くん」

「よろしく御幸。あ、そこ左!」

「ははっ!タメ口?」


地面を蹴る。路地を曲がる。人の怒声。女の声。

彼等が出会った。








「一匹狼」の刃様よりいただきました!!!私の大好きなホストパロの出会い編ですv
頂いていいのかと何だか申し訳ないのですが…><
でもそれを上回る幸せに目が眩みましたv
本当にこちらのホストパロが好きで好きで好きで…ハア。カッコいい。
出会いもなんて素敵なんでしょうかv叫びそうです。
刃様、本当にありがとうございましたvこれからも宜しくお願い致しますv









あきゅろす。
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