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笑えるようなきみとの愛のはなし






限られた閉鎖的空間。
たった3年、人生の中でたった3年。

広い世界で広い時間で、その短い期間が重なりあったって事実だけで、ホントはすげぇことなんだよ。
それを運命とか、そういう風にきっと呼ぶ。
そんで。


「沢村ー。」
「げ、ぇ」


どれだけ大勢の中からだって、一発でお前を見つけられるってのは、才能だと思いませんか。










笑えるようなきみとののはなし














「御幸センパイは、」


それはもう不機嫌を丸出しにした表情に顔を歪めた沢村が、健全な青の広がる空の下、ばぐっと思いっきり持っていた惣菜パンに一口被りつく。
もぐもぐと口を動かしながら、ゆっくり喉を鳴らして、その後変わりに一つ大きなため息。


「…強引っすよね。」
「んー?駆け引き上手って言って欲しいんだけど。」
「何が駆け引き?俺ばっか損してんじゃねーか!」


ダンッと地面を右手が勢いよく殴る。
手加減しているだろうし右手ではあるけど、その動作に少しだけ眉をひそめると、少しだけばつが悪そうに手をひっこめた沢村が、左手で握っていたパンに大口を開けて再び被りついた。
たった二口で随分とえぐられたパンをいそいそと袋から取り出して更に頬張る沢村に、一口ちょうだい、と言えば、嫌だ、と即答。


「お前ね、もっと先輩を敬うってこと知ったらどうなの。」
「敬うに値する先輩なら、俺だって考えやす。」
「へぇ…それは俺がそれに値しない、ってこと?」
「それ以外どういう風に聞こえるんすか。」


ぷいっと顔を逸らされて、仕方なく俺も持っていたパンを一口。
昼前に見つけた沢村を拉致するよりも前に購買で購入済みだった惣菜パンは、いつもより妙に美味くて、今日のチョイスは正解だったと思うのと同時に、それとも環境のせいだろうか、なんてことも思う。
目の前に、さも「不機嫌です!」と体全体で表しながらそれでも幸せそうにパンを食う沢村、なんてものがちらついていたら、例え何を食っても美味いと思ってしまうんじゃないか、なんて考えると、上からサンサンと照らす太陽がなぜか急に眩しくなった。


「そんなに怒ってんの?」
「…いきなり拉致られたら誰でも怒ると思うけど。」
「拉致っつーか、昼飯一緒にどーよ、って誘っただけじゃん。」


プリプリと音を立てて怒る沢村がおかしくてちょっと噴き出すと、怖い顔で睨まれた。わざとらしく肩を竦めてやったら、きっともっと嫌そうな顔をするんだろうけど、それがまた面白くて可愛くて、ついついちょっかいを出したくなる悪戯心。本当に沢村はそういう俺の感性をこれでもかって的確に擽ってくるから、実は俺としても結構困ってるわけだけど。

そんなこと考えてるなんてこれっぽっちも思っていないんだろう。(沢村いわく)拉致した屋上の空の下で、随分と青空が似合う沢村と空のコントラストを眺めつつ、クスリと笑う。すると間髪入れずに返って来る言葉。「なんだよ。」唇を尖らせて突き出して、まさかそんな顔まで、可愛いと思うなんて。


「ん?可愛いなぁ、と思って。」
「ぶはっ!!」
「うっわ、汚ねぇの。何してんの沢村ー。」
「な、に、って!」


含んでいたパンを盛大に吐きだして噎せてる様子を笑い飛ばす。
伸ばした手がパックのジュースを掴んで、その細いストローを勢いよく吸い上げると、透明だったストローの中を、色素の薄い液体が流れ込んでいく。
ゴホゴホ言ってる沢村に、大丈夫かよ、って声をかけたけど、なかなか返事は返って来なかった。


「あ、んたなぁ…!!いきなり変なこと言うんじゃねーよ!」
「だってなんだよって言うから。」
「言うから、じゃねぇよ!可愛こぶんな!」
「えー。」


昼休みの高い空に響き渡るような大声で文句を言うのに、沢村の顔はほんのり朱に染まっていて、俺の方を見ないようにしてるみたいだけど、逸らされた顔を少し隠す髪に隠れた耳も少しだけ赤くなってるから、まるわかり。
照れんなよ、って笑えば、勘違いすんな、って返ってきた。さて、どの辺が勘違いなんだか。

何にもない、いつもと変わらない昼休み。
午後からはまた、いつも通り授業を受けて、放課後になったら練習へ行く。
その後は寮に帰って、日を越して、また朝が来る。
いつもと変わらない、そんな昼休み。

けれど、今日はいつもと違って、隣に沢村が居て、俺の言葉一つ一つに賑やかに反応を返してくれる。
それだけのことで、いつもよりも昼飯が美味い。
ただ、それだけ。

(ああでも、それだけだから、こそ?)

こういうことを、幸せだっていうのかもしれない。
漠然とそんなことを思えてしまうくらい、平和だ。


「なぁなぁ沢村。」
「なんだよ、」
「沢村も早くさ、俺がお前を好きなくらい、俺のこと好きになったほうがいいと思うんだけど。」
「ん、な、あ!」
「やっぱりほら、追いかけるのも楽しいけど、折角だしいちゃいちゃもしたいじゃんか。」
「…なんだ、昼寝の時間か。」
「寝言じゃありません。」


眉根を寄せる沢村が、パックを横に置いて訝しげな瞳をこちらに向けて来る。
好戦的な態度とは裏腹に、流れる空気は穏やかだ。(いや、沢村はピリピリしてるけど。でもそんなの結構いつものこと。)


「いちゃいちゃしたいなら、その辺の女の子に頼めよ!!」
「残念、俺がいちゃいちゃしたいのは、ここに居る男の子なんだよ。」
「…強引な上に、人をからかうのが趣味とは!性質悪いにも程がある!」
「だから、本気なのに。どうしたら信じてくれんの?あ、折角屋上だし、青少年の主張よろしく、周りに宣言したら信じてくれる?」
「全力でやめてください。」


ひょいっと指さした先にあったフェンスを見て、沢村の顔が一瞬で青ざめて真顔になった。
半分冗談なのに、とそんな様子に笑う。フェンスの下からかすかに聞こえる声が、穏やかな昼休みのバックミュージック。背景の空は、沢村に酷く似合う。
そんな風景を眺めながら。


「だって時間は無限じゃないんだぜ?こうしてる間にも、沢村と過ごせる貴重な時間は1分1秒と短くなってってるわけ。」


だからどうせだったら一緒に居たいわけです。
んで、たまには恥ずかしいことも言いたいわけですよ。


そう言えば、何か言いたそうに開いた沢村の口が、急に勢いを無くして言葉無く開閉した。


「…やっぱりいきなりだし…。」
「簡単に読まれるようなリードはしないのがモットーですから。」
「ムカツク。なんかそれすっげームカツク!!」
「はっは!…まぁいきなり、いちゃいちゃとまでは言わねぇからさ、」

とりあえず。



「それ、一口ちょーだい?」



沢村の持っていたパンを指さして笑えば、「ばっかじゃねぇの、」と呟く言葉と同時に、思いっきり口の中に残ったパン全部押し込まれた。


「一口でいいって言ったのに。」
「…良いから黙れ!!口を動かせ!!」
「なんかその言葉ちょっと矛盾して…。」
「屁理屈言うなら返して貰うからな!!」
「無理だろこれ。」


もしかしてちゅーの催促ですか。
そんなことを言ったら流石に何か降って来そうだから最後の理性でやめておいた。


「あ、そうだそうだ、言い忘れてたけど。」




好きだぜ、沢村?




「…だからいきなり言うなっつーの!ばーーーか!!」



混ざるのは、怒声と笑い声と無機質なチャイム。
そんな、昼休み。















「嘘と沈黙のリボルバー」篠崎屡架様よりいただきましたv
ツイッターでお正月のお年玉企画としてリクエストを受付けてらして、飛びつきました!!
「沢村が好き過ぎて暴走気味の御幸で甘甘」とリクエストお願いしましてv
もう、素晴らしいですよねv私はただでさえ二人が屋上にいるシチュエーションが大好きなので、もう……!
「いちゃいちゃしたいのはここにいる男の子」にノックアウトですv 幸せ過ぎる…><
屡架さん、本当にありがとうございましたvこれからもよろしくお願い致しますv










あきゅろす。
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