[携帯モード] [URL送信]
ハレルヤ





たいしてクリスマスっぽくはなかった。
ただ食堂で出された夕食にチキンがあったり、デザートに星の形のゼリーがついていたり。
そういうのを見ると、ああ、おばちゃん頑張ってクリスマス風味にしてくれたんだなあと頬が緩んだ。

サンタを信じてた頃は過ぎたし、クリスマス気分を一緒に味わう相手もいないし。
食堂の隅に飾られた小さなクリスマスツリーと、何となく浮かれた面々と。

「おっ、メリクリー」
「メリークリスマス!」

ふざけながら交わされる挨拶と。

「沢村、メリークリスマス」

アンタの笑顔で充分だった。




「メリークリスマス。俺終わったんでお先に」
「俺も終わったから。つれないなあ、相変わらず」
「何がっスか」
「ねえクリスマスに乗じて俺と付き合おっか」
「いらねえ。ついて来んなよ」
「えっ何で怒んの」


本気で解らないと言うようにきょとんと俺を見る顔がムカついた。
アンタが、好きだとか付き合おうとかいつもそんな事を言うから。

だから。

うっかり好きになっちまったじゃねーか。どうしてくれんだバカヤロウ。



「なあ沢村、今日チキン出たな。ホントなら七面鳥だろうけどさ」
「ああ、うん」
「お前七面鳥って間近で見たことある?」
「いや、ねえけど」
「俺小さい頃、近所の公園にショボい移動動物園来てさ、」

どこまでついて来る気なのかと思いつつも、楽しそうに話すから何となくそのまま隣で相槌を打つ。

「ショボいからメインのポニー以外は鳥とか小動物ばっかでさあ」
「鳥系もウサギもモルモットも可愛いじゃねえか」

自分も覚えがあるから、小さい頃に移動動物園で触れ合った小動物を並べてみる。
御幸は大袈裟に顔の前で手を振った。

「いやいや、別格!あの凶悪な目つきと首辺りのブルブルした感じは夢に見るってマジで!」
「え、そんな?」
「もうさ、近付く者は全て突いて穴あけたるって言う目」
「アンタの見た七面鳥が特別なんだろ」


ほらもう、まただよ。アンタが言うから。
七面鳥が見たくて仕方ねーよ。どうしてくれんだよ。



「なあ沢村」
「何スか」

今度は何だよ、もう部屋に着くぞ。心の中で文句を言って横を見ると妙にキラキラした瞳で見てた。
眼鏡に反射する廊下の電気より目立つ瞳で。

「沢村、早く俺の所まで来いよ」
「はあ?…ああ、当然だ。見てろよ、俺エース諦めてねーし」
「そっちじゃねえよ。そっちも当然だけどさ」
「……何だよ」
「早く、ここまで来いよ。そんで俺がお前を想うくらい、俺の事好きになっちまえばいい」



ああ、もう。
まるで、流砂だ。

どんなにもがいても暴れても、自分の力ではどうしようもない。
どんどん飲み込まれて引き込まれて逃れる術はない。
まるごと飲み込まれて落ちた先には、アンタがあの笑顔で両手広げて待ってるんだろ。
ほら。そこまで行きたくなっちまったじゃねーか。どうしてくれんだよ。



「いいよもう、飲み込まれても」
「……は?」
「そのかわり落とさずにちゃんと受け止めろよ」
「……ん?…わかんねえけどまあ、お前に関しては取りこぼしはねえよ」
「よろしく頼むよ」



たいしてクリスマスっぽくはなかった。
ちょっとした料理とふざけた挨拶。
ふざけた告白とふざけた返事、そしてアンタの真面目な顔。

真面目な顔が一番ふざけて見えるのってどうなの。

どんなご馳走よりどんな高価なプレゼントより、一番思い出しそうな今日のクリスマス。


ハレルヤ
まんまとハマった俺。これがアンタの策略通りなら。


ハレルヤ
主よりもアンタを褒め称えるよ。




end






第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!