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幸福な夢を見る方法 2 (R18)





あつい。

その言葉のみが支配する。頭の中に浮かんでは弾けて消え、消えてはまた浮かんでくる。
暑い。熱い。あつい。

エアコンが入っているにも関わらずこの部屋の暑さは。
それよりも何よりも自分の中を満たしているこの熱さは。もうその熱で溶かされてしまいそうだと思った。

あつい。

脳裏に浮かんだと同時に激しく突かれてまた弾けとんだ。

「あ、あぁっ…」
「……気持ちい?沢村」
「ん…、あ、あつい……」
「…は、お前んなかも相当、熱いぜ」

固く閉じていた目蓋をうっすらと開け自分に圧し掛かる相手を見上げた。
悦楽に唇を笑みの形に歪ませて御幸が言う。

「すげ…、よさそうな顔してんな」
「うる、せ…っ」

その言葉に意識が引き戻され羞恥で体に力が入った。

「…っ、こら、締めすぎ…」

御幸が動きを止め堪えるように小さく息を吐いた。汗がツ、とこめかみから精悍な頬のラインをなぞるように流れる様を見つめる。
流れる汗すらも色気を伴う。重力に逆らわないその雫は御幸の顎を伝い沢村の鎖骨に落ちた。
鎖骨の窪みを伝い肩から背中に流れて行く雫はそれだけで腰を震わせる程の威力を持つ。
御幸がフ、と吐息を零し流れた道を指でそっと辿る。

「何、俺の汗にまで感じてんの」
「ちが…っ」
「やらしいね」
「…っちがう、って…」

図星でも否定せずにはいられない。例えその否定が嘘だと見抜かれていても。
ゆっくりと動きを再開しながらまた互いに熱い吐息を零す。

「何もかも全部、俺の汗すらお前が引き寄せちまうんだよ」
「あ、あぁ…っ」
「すげーな。お前」

御幸が小さく笑い唇を重ねた。啄むように軽いキスを何度か繰り返した後深くなる。
緩く開いた唇の中に慣れたように入り込む舌を受け入れた。激しくなる律動に合わせたように腔内を蹂躙する。

「ん、…ふっ」

夢中で御幸の首に腕を回し応えた。ただでさえ荒い呼吸がさらに苦しくなる。
また緩い動きになり御幸が内壁をなぞるように円を描く。次の瞬間に快感が鋭いものに変わり思わず唇を離した。

「…は、あ…あぁっ!」
「ココだよな」

いつものように簡単に探り当てて執拗に狙ってくる。

「あ…やめ、ろって…そこばっ、か…」
「何で?…ココ、いいんだろ」
「ふざけん、な…っあ、あぁ」
「だから、お前が感じてんの見るのが気持ちイイんだって」

もう声すら抑えられない。自分では成す術もない程の快楽にただ揺さぶられ翻弄される。
薄く目を開け御幸を見ると少し細めた情欲に満ちた瞳で見つめていた。

(……俺だって、アンタのそのカオ見るのたまんないんだよ……)

そのまま見つめていると溺れてしまいそうな気がしてまた瞳をきつく閉じる。
その途端にキュ、と握られて目を見開いた。

「な、に…ちょ…っ」

御幸が自分の律動に合わせて扱くように愛撫を施す。
すでに感じていたせいもあり御幸が触れる場所全てから淫猥な濡れた音が響く。

「あ、みゆ…き、もうヤバい…っ」
「…イキそ?んじゃ、一緒に、な」

御幸も限界が近いのか、荒い息遣いの中で言葉を紡ぐ。
終わりに向けての激しい動きがもたらす突き抜けるような快感に抱えられた足がガクガクと震えた。

「ん…あっ、ああぁっ!」

一際高い叫びを上げて達してしまった次の瞬間、体の奥で御幸が放った熱を感じた。
あつい。荒い呼吸の中それだけを思った。









「……結局、話って何だったんだよ」
「え?ああ、」

気怠げに狭い二段ベッドに投げ出した体を御幸が背中から抱き締めたまま答える。

「寮の各部屋のエアコンが新しくなったじゃん」
「あ?ああ、うん」

今まで古い冷暖房が完備されてはいたが、主に暖房で冷房は重要視されていなかった。
ここ数年の猛暑と熱中症対策で今年全ての部屋の冷暖房が新しい物に替わり、寮生達が大喜びしたのが梅雨開けの事だ。

「真夏の部屋でもできるじゃん!と思って記念に」
「……は?何それ。そんだけ?」
「そんだけって。すげーじゃん?」
「え、その為にこの部屋空けたのかよアンタ…」
「まあな。でもさ、やっぱ暑かったな。燃えたもんな、沢村」
「……!うるせぇっ!」

抱き締めている腕を払おうとしたが外しても外しても絡み付いてくる。
その手が抱き締めるのとは明らかに違う動きで胸を這うのを感じ慌てて振り向いた。

「ちょ、まさか……」
「うん。もっかい」
「やめろって」
「やめねぇ。だって恒例じゃん?」
「……何が」

訝しげにまた振り向くと御幸が極上の笑みで言った。

「イキ寝」
「……っ!いいって!」
「はいはい」
「聞けよっ」
「後でねー」

抵抗を押さえるのも慣れたもので、どうすれば黙るかは御幸もわかっている。

「あ…!」

体の向きを変えられて熱い指が入ってきた。途端に翻弄され思考を奪われる。
こうなったらもう全て御幸の思い通りに事は進む。

あつい。熱い。

どうせ最後には意識がとぶように眠りについてしまうのだ。
ならばまだ今のうちに。
御幸の頬に手を添えて自ら唇を重ね合わせた。

あついから、だから そのせいで。

自分の中で必要な言い訳を繰り返す。
御幸は嬉しそうに目を細めそのキスを深いものに変えた。

やっぱりほら、どうせみるなら幸福な夢がいいだろ?

御幸が囁いたような気もするが、自分の心の中の呟きかも知れない。

ただ短い夏が駆け足で過ぎようとするのを繋ぎ留めるように抱き締めた。



end




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