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繋ぐ手と紡ぐ未来





「今日は涼しいな」
「少し。今までが異常っスよ」
「連日35度とかな。降谷程じゃなくてもお前も暑いの苦手じゃねえの?」
「ああ、平気ッス。確かに昼暑くても夜はまず涼しかったからラクだったけど」
「ふーん」

カサカサとコンビニ袋を揺らしながら二人で寮への道を歩く。時折通る車のヘッドライトに照らされながらゆっくりと。
隣を歩く御幸をチラリと見る。



倉持に言われてコンビニまで買い出しに行こうと部屋を出た所で出くわした。
パシリだと告げると「待ってろ」と一言残し自室へと階段を二段飛ばしに駆け上がる後ろ姿から目が離せなかった。
戻ってきた御幸は顔を見て「何ムスっとしてんの?」と聞いてきたがまさか照れ隠しだとは言えず。
付き合い始めたばかりでまだ色々と上手くできない自分がいる。

(一緒に行く為に急いで財布取りに戻るとか、何か…)

思い出していたら眼の前に御幸の顔があった。


「わっ、な、何?」
「いや、お前顔赤くね?」
「あ、赤くねぇ!」

その時カーブしてきた車のライトが顔を照らした。

「ほら。赤い」
「うるせ!暑いんだよっ」
「さっき今日は涼しいって話してたよな」

笑いを噛み殺しながら御幸が言う。

「なぁ、あっちから帰らねぇ?」
「あっち?」

御幸の指差した方向を見ると左に曲がる遊歩道。まっすぐ進むとじき着く。明らかに遠回りだ。

「遠回りじゃん」
「涼しいからいいだろ。ちょっとぐらい」
「アイスが溶けちまう」
「何お前アイス買ったの?倉持も?」
「倉持先輩はジュース。増子先輩がいつものプリン」
「じゃあさ、途中の公園で食えよ」
「えー?何で外で」
「いいから。溶けんのやなんだろ」

そのまま手を引かれて左に曲がる。勝手な先輩と大して抵抗もしない自分に呆れながら歩く。
遊歩道の街灯に照らされてのびている、手を繋いでいるかのような二人の影を見つめて小さく笑った。
途中の小さな公園に入りベンチに腰掛けた御幸が隣を指差す。カサカサと袋からアイスを取り出しながら座った。

「何買ったの」
「ジャイアントコーン」
「ガリガリ君じゃねえの」
「前回それだった」

御幸が袋から買ったらしい缶コーヒーを出して口をつける。

「これにゴミ入れろよ」
「あ、サンキュ」

その為に袋を一つ空にしたのかな、と思うと胸がキュッとなった。勝手なくせに優しい。
でもそれを問うと「飲みたかったから」と応えるだろう。負担に思わせない優しさで。
アイスの封を開けて小さなコンビニ袋にゴミを入れたらチョコとアイスが手についた。

「あ、またやっちまった。これ絶対捨てる時に手が汚れる」

人差し指を口に持っていこうとしたら手首を掴まれた。
何、と聞く前に御幸の舌が指を這っていた。

「……っ」

小さな、声にならない叫びを上げてしまった。
ゆっくりと舌を這わせて舐め取った後に口に含もうとしてるのを見て慌てて手を引く。

「溶けちまうから…っ」

御幸は唇に薄く笑みをしいて「甘い」と呟いた。アイスは湿度と気温により溶ける速度を増している。
急いでかじりついた。まだうるさく鳴っている心臓が欝陶しい。アイス部分を頬張りコーンのサクサクいう音が響く。
無心で食べているとまた御幸の顔が眼前に迫り思わずのけ反りそうになった。

「お前、何でそんな急いで食ってんの?」
「と、溶けるからだって。もうかなり溶けてたしっ」
「ふーん。帰りてぇの?って思った。感じワルーイ」
「な…っ、ちげーよ!アンタが…」
「俺が?」

また顔を覗き込まれて眩暈がしそうになった。アンタがあんな事するから、その台詞が言えなくなる。
御幸が小さく噴き出した。

「な、何」
「お前口の周りアイスですげぇよ?食うの下手過ぎ」
「違うって!溶けてたからだっつーの」

言い訳して手の甲で拭おうとしたらまた手首を掴まれた。同じパターンに体が硬直する。
御幸の右手が頬に触れた。左手は自分の右手首を掴んだまま。缶コーヒーはいつの間にかベンチに置かれている。
ゆっくりと近付いて来る端正な顔を見ていられなくて固く目を閉じた。
舌先が唇の端に当たりその動きでアイスを舐め取っているのがわかる。
反射的に逃げようとしたが頬の手が後頭部にまわり抑えられた。
御幸の舌は唇をなぞりながら右端から左端へ移動しまた舐め取っている。
もう、気が遠くなりそうだと思った。左手に力が入り持っているアイスがパキ、と音をたてた所で唇が重なった。

果てしなく長く感じる時間。硬直したままの体はピクリとも動かない。
重なった時と同様にゆっくりと御幸の唇が離れても目を開ける事が出来ずにいた。
固く閉じた目蓋に御幸の唇が触れてようやく力が抜けた。
そっと目を開けると蕩けるような笑顔の御幸がいる。
たった今キスをしたのだという事を改めて認識して顔に熱が集まる。

「あ。アイスが」
「…え?あっ!」

御幸の声に我に帰ると左手に持っていたアイスは潰れて無残な姿になっていた。

「うわ、ドロドロ…!」
「あーあ」
「あーあじゃねぇよ!まだ半分残ってたんだぞ!」
「ハイハイ。それ袋に捨てて手を洗いましょうね」
「……くっ…!」

公園に備え付けられている蛇口で手を洗う。指についたのも最初から洗えばよかったと思った。
手を振って水気を飛ばすと御幸がハンカチを差し出して来た。

「……どーも」
「んな怒るなって。明日またコンビニ行ってアイス買ってやるからさ」
「………マジ?」
「マジ」
「250円のソフトクリーム買っていいか?」
「はっは!いいぜ」

少し機嫌が直りまた二人で遊歩道を歩き出す。
すっかりぬるくなったジュースを汗をかいて濡れているコンビニ袋越しに眺める。

「倉持先輩怒んだろうなぁ」
「御幸先輩と公園でいちゃいちゃして初ちゅーしてましたって言えば?」
「言えるか!そんなホントの事!バカじゃねぇの!?」

横を向くと肩を震わせて笑っている。

「“ホントの事“って…!あーもー最高!」
「いちいちうるせーよ!」

また熱くなった顔を背けて黙って歩いた。
ふと下を見れば先程と同じように街灯によって出来た影が二つ並んでいる。
伸びをする振りをして少し手を広げると、缶を持った御幸の影と自分の影の手が繋がった。
ほんの僅かな時間だと思うが急に自分のした事が気恥ずかしくなり手を降ろした。
カサカサとコンビニ袋が出す音に重なり小さな笑い声。
横を見るとまた御幸が肩を震わせて笑っている。

バレてら。
そう思うと涼しい筈の夜が自分の周りだけ熱帯夜のような暑さに変わった。

「手、繋ごうか」
「繋がねぇ!」

御幸が優しく言うのに口を尖らせて怒って返した。そうじゃないとやってられない。

「じゃ、明日繋ごうぜ」
「…………」

明日、またこの道を二人で歩くのだろうか。
次の街灯が近付き、前にあった影は薄くなり今度は後ろに濃い影がのびる。
二つ、並んだまま。

明日は手を繋いだ影を見ながら歩いてみようか。

始まったばかりの二人にこうして色んな出来事が色んな気持ちでやってくるんだろう。

ひとつずつ未来へと紡ぎながら。



end



ネタを下さったかつおさんへ勝手に捧げますv いつも萌えをありがとうございます^^





あきゅろす。
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