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月の舟人






「今日天の川見れるかなー」
「見れる訳ねぇな。毎年毎年梅雨真っ盛りだぜ?」
「何かアンタ…身も蓋も無いんだけど」
「天の川なんて見れる所ではしょっちゅう見れる」
「わかってるよ!でも織り姫と彦星に想いを馳せたっていいだろ」
「織り姫と彦星の逢瀬ったって別にベガとアルタイルが重なり合う訳じゃない。天の川のあっちとこっちで輝き合ってるだけで」

窓の外を眺めていた沢村が俺の言葉にムッとした顔で振り返る。
小さな声で「ロマンが足りねぇ」と聞こえた。別にロマンを否定してる訳じゃない。
年に一回しか会えないとか非現実的な事を考えるとやり切れなくなるからだ。
どうしても重ねて考えちまう。
もしも年に一度しか会えなかったら?
有り得ない。想像もつかない。きっとその1日を過ごす事だけを夢見て364日を費やすんだろう。そして。

「何考えてんだよ?」
「いや、年に一回しか会えなかったら、」
「……は?」
「その1日で364日分キスをして抱きしめて愛を囁いて。1日離れる暇ねぇな」
「何だソレ」
「お前の言うロマンを考えてみた」
「納得いかねぇ」
「はぁ?」

今度は何だ。何を言い出す?お前が言うから考えたんだぜ。

「どんなにキスをして抱き合っても364日分一緒にいた“1日“に過ぎないだろ」
「……まぁ、ね」
「目を閉じて開けたら今日から明日に変わってて、」
「うん」
「傍にいない寂しさを抱えて364回それを繰り返すんだ」
「…………」
「俺はそんなの耐えら……」

そこまで言った沢村と目が合った。
途端に目を見開いて驚愕した顔になりみるみる真っ赤になっていく。
頭を抱えて「うおぉぉ!」とか叫んで床に突っ伏してしまった。
熱烈な告白をしているも同然な事に気付いたらしい。

たまんねぇ。何これ。七夕の贈り物?
全部手に入れたつもりでももっともっと欲しくなる。俺の為のお前になればいいのに。
現金なもので願い事が出来ちまった。雲の上に広がる無限の宇宙を思い描いてそっと願う。
上弦の月を舟に見立てた風流人のように。

亀みたいに丸まってる沢村に近付いて背中を突つく。
明日からだって毎日会えるけど。
取りあえず364日分程キスをして抱きしめて愛を囁こう。



end






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