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Lovely Days 2





「沢村ー、飯は?」

昼休み、最近すっかり一緒に学食に行かなくなったクラスメイト兼チームメイトに金丸が声を掛ける。
声を掛けられた沢村は少し困ったように口をへの字に結んでいた。

「あー…多分俺、」
「御幸先輩と倉持先輩?」
「うん、そう。だと思う」
「何か最近お前…」
「沢村ー!飯行こうぜー」

そこまで言った所で当の先輩達が沢村を迎えに来た声で掻き消された。
まるで今の状況そのままじゃねぇかと小さく舌打ちする。

「悪りぃ!金丸続きは後でな!」

その舌打ちを誤解した沢村が謝った後、笑顔でかけて行った。先輩達の元へ。

何だか面白くない、それが率直な意見だった。
放課後、野球部の部室に行くのに毎日迎えに来る先輩達は、今は昼休みすら沢村をさらって行く。
沢村と学食に行くのは週に一日か二日だ。

(しかもあのバカあんなに楽しそうに走って行きやがって)

何がイラつくのかわからぬまま眉間に思い切り皺が寄ってる事すら気付かなかった。








いつもの屋上、今日は梅雨の晴れ間で久しぶりに青い空の下で。
だが強い陽射しに昼食が傷みそうだと慌てて食べた。

「なあ倉持、さっきの金丸の目ぇ見た?」
「……ああ、奴もだな」
「やっぱりぃ?あれ嫉妬丸出しの目じゃねぇ?」
「同じクラスか…厄介だな」
「ああややこしい。何で皆あのバカがいいワケ?」
「皆まず俺達に思ってんだろうよ」
「はっはっは!違いねぇ!」

二人は一心不乱に昼食を頬張っている沢村を見る。視線に気付いて顔を上げた沢村がきょとんと二人を見たのち、ニカッと笑った。
途端に「うっ」と胸を押さえて倒れ込む二人に沢村が焦る。

「なっなんスか!?どうしたんスか!?」
「恐ろしい武器だなバカ。無敵か」
「あー無理もー無理。倉持ぃ俺もう協定破って襲ってもいい?」
「あぁ?ふざけんなテメェ。そうなる前に同室の利を使うぞコラ」
「はっはっは!殺すよ?残酷極まりない方法で」
「どんなだソレ」

沢村が仰向けに倒れたままの二人を覗き込んだ。
その沢村に二人が同時に手を伸ばしお互いに頭を引き寄せようとした事を知り、目で牽制し合う。

「一体何なんスか?昼休み終わりますよ」
「もうそんな時間かよ」
「あっと言う間だよな。沢村、寂しいだろうが帰り迎えに行くまで我慢しろよ」
「バカじゃねぇの!誰がっ!」

真っ赤になって吠える沢村の頭を倉持が「タメ口!」と小突き、御幸が「照れない照れない」と撫でた。






翌日。また梅雨らしい天気の中、朝練は屋内練習場だった。
ロッカールームで汗を拭いながら沢村が金丸を呼ぶ。

「金丸っ!頼む!俺今日あたるんだよー」
「はあ!?わかってんのに予習してねぇのかよ。そういう所がバカなんだよ」
「バカでいいからさ、頼むよー。な!?この通り!」
「……ちっ、仕方ねぇな。早く着替えろよ」

頭を下げパンッと音をたてて大袈裟に拝む沢村を見て、結局は折れる金丸。
その二人に対して肩越しに冷たい視線を投げ掛ける先輩二人。
乱暴にロッカーの扉を閉めた御幸が二人に近付く。

「沢村ー、何?わかんないなら俺が教えてやるけど?」
「え?御幸、センパイが?」
「そーそー!俺教えるの上手いよ?」
「あー…いいっス。あたるの一時間目なんで時間ないし、やっぱ金丸に教えて貰うんで!」
「あ、そう」

話しながらも慌てて着替えた沢村が早く早くと金丸を急かして部室を出ようとする。
金丸が御幸に軽く会釈し、御幸も片手を上げてそれに応える「何の挨拶だよ」と言う光景を生み出しつつ。
部屋を出た沢村がピョコ、と顔だけ見せた。

「また昼飯ん時…っスか?」
「ああ、待ってろ」
「じゃ腹減るんで早めに来て下さいよっ」

ニカッと満面の笑みを見せて沢村が今度こそ出て行く。
部室には胸を押さえてロッカーにもたれ掛かる御幸と倉持、それを見て見ぬ振りする部員数名が残された。






「金丸ぅ!サンキューな!おかげで助かったぜ!」
「毎回毎回……たまには自分でやれよバカ」

トイレでも行こうと廊下に出たら一時間目を無事にやり過ごした沢村が礼を言って来た。
憎まれ口を叩きながらも沢村に頼られている、この悪くない気分を隠すように沢村の額を指で押した。

「わ、……とと」

油断していた為にバランスをくずし二、三歩後退した沢村の手を捕まえようとしたら、一足早く背後から抱き留めた者がいた。

「おっと危ねぇ」
「御幸!センパイに倉持先輩!どうしたんスか!?」
「んー?顔見に来ちゃった」
「テメェちゃんと答えられたかよ」
「あ、バッチリでしたよ。な?金丸!」
「……ああ」
「ふうん、サンキューな金丸」
「いえ、俺は別に…」

そう答えながら沢村の事でこの先輩達に礼を言われて何故腑に落ちないのか。
この尊敬すべき先輩二人に笑顔で話す沢村に何故イラつくのか。
答えに到達しそうになり視線を移すと御幸の射るような目が金丸を捉えていた。思わず目を逸らす。

(ああ……、牽制か)

こんな授業の合間の休み時間すら様子を見に来るのも、勉強を教える役目を自分達に変えようとしたのも、全て。
同じクラスの自分が沢村を好きだとなればそれは放ってはおけないだろう。
自分より先にこの気持ちに気付いた先輩達に一旦逸らした視線を戻す。
御幸と今度は倉持も射抜くような視線を向けている。

(あ、気付かれた)

この先輩達はたった今自分が沢村への気持ちを自覚した事にすら気付いた筈。今度は目を逸らさない。
ニヤリと不敵に笑んだ御幸が口を開く。

「金丸ー、参戦?」
「…いえ、まだそんなんじゃないですから」
「は?なんの話?練習試合か何かっスか!ズリィ!俺、俺っ参戦しますっ」
「バカ。当事者は黙っとけ」

倉持が沢村の首根っこを捕まえて一歩退かせた。

「御幸、休み時間終わるから行こうぜ」
「じゃ沢村昼休みな。金丸は……決めといて?」

手を引くか、参戦するか。無言の圧力を笑顔でかけて先輩達は去っていった。

「どうした?金丸」
「……何でもねぇよ」

呑気な沢村を見て溜息が出た。
よりによって何でこんなバカを。尊敬する先輩二人が鉄壁のガードをしてるような奴を。

(俺の方がよっぽどバカじゃん)

「金丸、教室入ろうぜ!先生来ちまう」

ニカッと笑い促してくる沢村にお前は笑顔だけは最高だよなと、言える筈もない台詞を飲み込んで席についた。

窓の外はまるで嵐でも来たかと思うような強い雨。
何かを決意するには相応しい雨だと思った。何だっていいのだ。晴れでも雨でも嵐でも。

(気付いた時が決意日和だ)







「腹減ったー」
「お前毎日それな」
「屋上使えねぇのつまんねぇなクソ」
「でもいいんスか?この教室使って。視聴覚室?知らねー!机と椅子の数半端ねー!」
「いいんだよ。俺ら一年の時から使ってる」

いつものように三人で昼休みを過ごす。雨の季節が終わるまではなかなか外に出られない。

「あ、そういえば金丸から伝言」
「へぇ、何て?」
「『参戦します。でもまずは一軍になってから』だって。だから何の話スかっつーの」

御幸と倉持は顔を見合わせて不敵に笑った。

「そーかそーか、一軍になってからね。男だねぇ」
「ヒャハ、じゃあそれまでにキメちまうか!」
「はっはっは!いいなソレ。どっちが早いかね?」
「俺らじゃねぇ?あーでもパワー漲りそうだよなぁ」

楽しそうにすら見える二人につまらなそうに沢村が口を挟む。

「あのさぁ、今朝から何か……俺も仲間に入れてくんねぇ?…スか」

少し顔を赤くして拗ねたように言う沢村を見てしばらく止まった後、二人はまた胸を押さえて机に突っ伏した。

「またもう何なんスか」
「あのさぁ、仲間に入れるも何もお前中心に回ってんのわかる?」
「わかんねぇだろ、コイツは」
「「まぁそんなとこが…」」

二人はその先を言わずただ沢村の頭をぐしゃぐしゃと掻き回した。
うわーだのヤメロだの騒ぐ沢村を見て二人も笑った。


今はまだ楽しいばかりでこの先嵐が来るかどうかもわからない。
でもその嵐すらも楽しそうで。
まるで雨が上がって欲しいのと同じ待ち遠しさでその時を待つ。

嵐の中で自分こそが掻っ攫ってしまおうと。





end

17000hit あこさんへ リクエスト:金→沢←御+倉(御幸と倉持が協力して金丸を妨害する) 
ご本人様のみご自由になさってくださいv リクエスト有難うございました!



あきゅろす。
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