口癖 (R18)
「なぁ、お前マジ可愛くてたまんねぇな」
「何ソレ。やめてくんない?」
御幸と沢村しかいない5号室。増子と倉持はそれぞれ別の部屋に遊びに行っている。
沢村は別段可愛いと言われる事はしていない。ただ胡坐をかいて雑誌を読んでいただけだ。
少しの距離をあけて同じように雑誌を読んでいた御幸から突然言われ、顔も上げずに答えた。
「相変わらず訳わかんねぇ」
「そう?この辺とかこの辺たまんねぇけどな」
ズイッと近付いて沢村の瞼の辺りから頬を伝い、唇へと指を滑らせる。
「あーもう!ヤラシイ触り方すんじゃねぇ!」
持っていた雑誌で御幸の手を叩き落して向きを変えた。
「大体アンタ、その口癖なんとかしろよ!」
「口癖?何?」
「その、何かってぇと“たまんねぇ“って言うヤツだよ!」
御幸に背を向けたまま顔だけ見遣って睨み付けた。
「…あぁ。俺そんなに言ってる?」
「何だよ自覚ねぇの?」
「うん。ないね」
「マジで?今日食堂でも“腹が減ってたまんねぇ“だの“唐揚げが美味くてたまんねぇ“だの」
「そんなの皆言ってねえ?」
「アンタは突出して多いんだよ」
御幸は背後からまた沢村ににじり寄りつつ呟いた。
「…やっぱりうつるもんなんだな」
「は?」
「いや、こっちの事」
意味ありげにニヤリと口端を上げ一生懸命話す沢村の後姿を眺める。
「まだあるぜ。“暑くてたまんねぇ“とか“眠くてたまんねぇ“とか、とにかく何かにつけ…」
「シたくてたまんねぇ、とか?」
「おーそうそ…え?おわっ!」
御幸の口癖の例を指折り数えていると、いつの間にか御幸の顎が後ろから肩に乗せられていた。
胡坐をかいた自分を囲うような御幸の長い足が目に入る。まるで足を開いて座る御幸に抱き込まれているかのような体制。
「なっ…」
逃げようと胡坐を解いた時にはもう背後から手がまわり腹の前でガッシリと組まれた。首筋に唇をつけたまま御幸が囁く。
「…なぁ、しようぜ」
「あ…っ」
思わず声が漏れ、瞬間に顔が赤面する。
「感じちゃった?かーわいー、沢村」
「ちがっ…!」
赤い顔のまま後ろを見ると御幸の顔が眼前にあり、息を飲む。
早く逃げないと動けなくなる。そう思った時はいつももう遅いのだ。
「お前が好き過ぎてたまんねぇ」
わざと首筋に唇をつけたまま囁き、クックッと笑う。
「…はっ、ま、だ言うか。も、やめろって」
身を捩り逃げようとするも敵わず、力の差を思い知るだけだ。
シャツの下に手が入り触れるか触れないかの距離で胸から脇腹を撫で摩る。
「ふっ…あ…」
思わず頭を仰け反らせ、自然と御幸にもたれる格好になる。
「ちょ…、先輩達がっ」
必死に言葉を紡ぐ。
「うん、消灯まで帰って来ないって」
「かっ鍵…」
「うん、俺入った時かけたから平気」
(最初からそのつもりかよ…)
もう言葉にならない。御幸によって唇が塞がれた。
顎を掴まれ無理に振り向かされて完全に腕の中に抱き込まれている。
「ん…ふ…」
慣れた動きで歯列を割られ思う存分に咥内を舐め回される。
いつもこの激しさについていけない。呼吸すらままならない。いつの間にか御幸のシャツを握り締めていた。
御幸の舌が蠢く度に身体の力が抜けていく。歯列をなぞられ舌を絡めとられ上顎を舐められる。
以前はむず痒いだけだった感覚が今は甘く疼く快感に取って代わった。
他と比べようもないが御幸はキスが巧いんだろうなと、ぼんやり考えていたが溶けていく思考はそこで形を成さなくなった。
横たえられ御幸の手が下着の中に滑り込んできて確かめるように撫でられる。ようやく唇が開放され、酸素を取り込む事を許された。
「…は…っ」
「濡れてんね。期待してた?」
「…ち、が」
違う、と言いたいが上手く否定できない。
キスで感じたのも事実だがその先の快楽を知っているから、体が勝手に待っている。それを指摘されたようで沢村は羞恥に顔が熱くなった。
御幸が沢村の勃ち上がったそれを握り親指で先端に円を描くように撫で付ける。沢村の顔の横に手をつき見つめながらゆるい愛撫を施す。
「なぁ、もっと?」
顔を背けキュッと眼を閉じ自分からは言わない沢村に促すが、唇を噛み締めて意地でも頷く気配はない。
今はまだそこまで自分を見失うわけにはいかないとでも言うように。
(して欲しいくせに。ホントこういうとこも)
たまらない、と呟きそうになり口をつぐむ。代わりに沢村の瞼に軽くくちづけた。
うっすらと開けた沢村の瞳に映ったのは意地の悪い言動とは逆の優しげな笑顔。
またいたたまれなくなって顔を背けた途端、衣類を取り去られ沢村の身体がビクンと跳ねた。
御幸がゆるゆると弄っていたそれを口に含んだせいで、手足の先が痺れるような快感が突き抜けた。
「あ…あっ」
ゆっくりと顔ごと上下に動かし舌で舐めあげる。繰り返すうちにとろとろと蜜が溢れてくる。
淫猥な音が響き始める頃には沢村はもう自分を保てなくなっていた。
「ん…あ、みゆ…っ」
達する為の決定的な刺激を欲しがっている。解っていながら御幸は敢えて無視し達しない程度の愛撫を繰り返す。
甘く痺れる快感の中に取り残された沢村には成す術もない。
「みゆ、き…も…」
尚もゆるい愛撫で弄ぶ。口から外して舌で先端をつつく。
(そろそろかな…)
「は…っみゆ…も、たまんな、い…っ」
御幸の口端がゆっくりと上がり笑みを形作る。
満足したように先端を口に含み舌で刺激を与えながら強めに手で扱いてやると沢村は小さい悲鳴をあげて果てた。
全て飲み干すとポケットからローションを取り出す。少し手に取って指に塗りつけ、まだ胸を上下させて呼吸を整えてる沢村の奥へと指を這わせた。
濡れた指で固く閉ざしたそこを優しく撫でる。柔らかくなった時を見計らいツ、と一本侵入させた。
「…くっ、あ」
異物感に沢村が顔を顰めたがそのままゆっくりと指を動かし慣れさせる。二本に増やす頃には沢村の様子も変わってきた。
浅く短い呼吸に時折混じる喘ぎ声。沢村の感じる場所は解っている。
(ココ、だろ?)
ある部分で指を奥までのばしクイッと曲げた。
「…っあぁっ!」
沢村が背を仰け反らせ縋るものを探すように手で空を掻く。その手を御幸の左手が絡め取り、握った。
右手は執拗にそこを狙い指を動かしていく。更に求めさせるために。
「…はっ、あっ…は」
喘ぎ声もままならないような苦しげな呼吸の中、沢村のものはまた勃ち上がり蜜を滴らせている。
もう羞恥すら感じる事が出来ない。全ての感覚が御幸が与える快楽に向かっている。
不意に御幸が指の動きを止めた。
急に与えられなくなった刺激に戸惑い、沢村は朦朧としたままゆるく瞼を持ち上げると自分を見下ろす瞳と目が合う。
御幸が欲望の色をその瞳に滲ませ見つめてくる。きっと自分も同じ瞳をしているのだろうと思った。
「も、挿れるぜ?」
沢村が頷いたか確認もせずもどかしげに服を脱ぎ捨てた。沢村から懇願するまで挿入はしないつもりだった。
だが己の指や唇で蕩けそうな表情を晒し感じている沢村を見ていると御幸の我慢ももう限界だ。
自身を沢村にあてがいゆっくりと進む。押し入ってくる圧迫感に沢村が苦しげな声をあげる。
「うっ…くぅ…」
「もう少し、我慢な」
膝裏を抱え上げ労わりながら何とか挿入を終える。御幸もふぅ、と小さく息を吐いて持っていかれそうな感覚に耐える。
お互いが馴染んだ頃御幸が腰を動かし始めた。ゆっくりと抜差しを繰り返し円を描くように内壁を擦る。
「あっ、あぁ…あ」
挿入の感覚に一度は萎えかけた沢村も再び勃ち上がり感じていることを主張する。
御幸が腰を打ち付けるリズムで漏れる声。
感じる場所を狙って擦りつけ、突かれる度に一際声が高くなるのを手で塞ごうとするが意味をなさない。
沢村が感じる度に締め付けてくるので御幸も射精感を耐える。
「ふ…気持ちい?沢村」
「…は、あぁ…っあっ」
「俺も、すげぇイイぜ…」
「あ…もう…む、り」
御幸がそこばかりを狙ってくるので、もうどうしたらいいのか解らない。
早くやめて欲しいとも終わって欲しくないとも思い混乱したまま手足の先から頭の中まで痺れている。
「…みゆ…も、たまん、ない…からっ」
頭を左右に振りながら懇願する沢村を見て、御幸の唇がまたゆっくりと笑みを形作る。
(…ほら、沢村お前だろ?この口癖)
「あ、あぁっ」
大きく腰を動かし内壁を擦りながらそこを突いてやると沢村が背を仰け反らせて果てた。
波打つように収縮を繰り返す沢村の内部に逆らわず御幸も放つ。
「はぁ、はっ、は」
沢村の荒い息遣いが響く。御幸が沢村に覆いかぶさり何度か浅い息を吐き呼吸を整えた。そのままギュ、と抱きしめる。
「大丈夫か?」
「う、ん。…へーき、だ」
言いながら重そうな瞼に瞬きの速度が落ちている。今にも寝てしまいそうな沢村に気づき苦笑する。
「いいぜ、寝ても。後はやっといてやるから」
「いい、自分で…」
その後の言葉は寝息に変わり沢村が寝たことを告げる。
御幸は暫く抱きしめていたが名残惜しげに沢村の身体を離した。倉持や増子先輩が戻るまでに全て終わらせなければならない。
拭き清め、服を着せてベッドに寝かせる。お姫様抱っこで運んだことがばれたら激怒するに違いない。
小さく笑いベッドに凭れ座り込んだ。肘をつき沢村の寝顔を見つめながら口癖の話を思い出す。
(コイツは自分が何言ってるか覚えてないから知る訳ねえよな)
御幸に指摘した言葉は自分の口癖でもあることを。
快楽に溺れ夢中になった時、我慢出来なくなった時に出てくる台詞。初めて聞いた時御幸は衝撃で硬直した。
(ったく。聞いただけでイッちまいそうだったっつーの)
それ以来その台詞を言わせる事が御幸の密かなノルマになった。今の所全戦全勝である。
御幸は思い出すとまたムクムクと沸き起こる邪な思いを振り払うように頭を軽く振った。
沢村の髪を撫でながら時折指に絡ませる。同室者が戻るまでもう暫くこうしていたかった。
世界中で御幸しか知り得ない沢村の秘密の口癖。御幸は静かに微笑んで沢村の頬にくちづけた。
当の本人にすら教えてやるつもりは、ない。
end
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