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晴れ、時々予測不能





「逃げんなよ」
「逃げるに決まってんだろ」


狭い部屋の中で、ジリジリと御幸が近付いてくる。捕まったらその先の展開はわかってる。
逃げる事すら忘れてしまう思考を奪うようなキスをされ、その後は御幸の思い通りに進む。

「判ってて来たんだろ?」

もちろん判ってはいた。
翌日がオフとか朝練がない時で御幸が「部屋誰もいないから来いよ」と言う時は大概そうだ。
正確には誰もいない、ではなく話をつけて追い出した、だろう。でも。

「話があるって言ってたじゃねぇか」
「話も、ある」
「じゃ話が先だろ」

間合いを取りながら狭い所をグルグル回る。

「どっちが先でもいいじゃねーか」
「アンタってホント、雄の匂いがプンプンすんな」
「雄だもん。ギンギンに盛ってる雄だもん」
「可愛く言っても内容に可愛いげねーし」

唇の端を吊り上げ獲物を捕らえるのを愉しむような顔で近付いて来る。獲物のつもりはないけれど。

「なあ、マジで気になるから先に話せよ」
「話ね、解決したからいいんだよね」
「嘘かよ」
「違うって、ホント解決」
「じゃあその解決部分まで聞かせろよ」
「……わかったよ」

頑なな態度に諦めたのか、御幸が溜息をつきその場にドカッと座った。それに倣う。

「ここんとこお前とろくに話してないし、二人にもなってないし、なった時は思いっきり拒絶してくるし」
「ったりめーじゃん!アンタが部活の休憩中とか休み時間の廊下とかでくっついてくるからだろ!」
「でも他の奴らとはすげえ笑顔で話してたりじゃれついてたりするじゃん?」
「う…まぁ、それは…」

何と言えばいいのか解らず口ごもる。
例えばクラスメイトとじゃれついていても照れたり赤くなったりはしない。
同じ事を御幸がやると途端に違う意味になるのだ。
たとえ御幸が純粋にじゃれついたとしても自分自身が純粋に受け取れない。
触れ合う部分が、熱を持つ。
こんな事を伝えられはしない。考えただけで頬が熱くなる。

「そんで俺、柄にもなくちょっとセンチメンタルになっちゃったりして」
「ホント柄にもねえな」
「ま、ね。でも俺じゃない奴に向けられたお前の最高の笑顔とか見ると考えてみたり」
「…何を」
「例えば沢村が俺から離れたいと思ってるとして、俺は身を引けるのか」
「ちょ、何言って…」
「まぁまぁ。そこでさらに考えた。どんな野郎になら沢村を託せるか?」

遮られたが色々とツッコミたい所が満載である。たとえ架空の話だとしても。

「野郎っておかしくね?俺、次の相手も男な訳?しかも託すなよ」
「んー?別にそこはスルーでいいだろ」

よかねーよ、と言おうとしたが御幸がお構いなしに先を続けたので虚しく口を閉じた。

「お前は意地っ張りで頑固者だから包容力があってじっと見守れるような奴じゃないとダメだな、と」
「………」
「構い過ぎると怒るけど構ってないと拗ねたりするから適度に傍にいてさ、」

そんな風に見られているのかと聞いているのが辛くなってきた。
部屋の中が暑い気がしたが、自分の頬が熱いのだと気付く。
御幸の顔を直視出来ずに机やらベッドやらに視線をさ迷わせた。

「こうと思ったら突き進んじまうからそれとなく軌道修正出来て、」
「なぁもう止め…」
「これ以上ないっつー位お前の事好きで大事に出来て」
「もういいって」
「ついでに頭脳明晰、将来有望、容姿端麗、眉目秀麗な奴なら」

何を言っているのかと頭を抱えて顔を隠す。晒されている赤い耳を見られるのはもう諦めた。
まるで父親が娘を嫁にやる条件のようなものだ。そんな奴がいたら世の女性達が取り合うだろう。

「て考えたんだけど、それってまるっきり俺じゃん?」
「………は?」

思わず抱え込んでいた顔を上げた。

「お前何真っ赤になってんの?ま、そんな訳でお前に似合うのは俺しかいないっつー結論で解決したわけ」
「……何だそれ」

呆れて言葉が見つからない。馬鹿馬鹿しいとしか言いようがない。
本当に、何の話かと少し心配したのだ。

「だから覚悟しといてね。お前が終わりにしようとしても俺が終わらせねぇから」
「………」
「お前は俺のモンって事でヨロシク」

ニヤリと笑った顔が目の前に近付いて来る。この自信家の男でもそういう事を考えるのかと意外に思った。
だからつい、口に出た。

「…別に、とっくにアンタのモンじゃねぇか」

ちらりと見たら御幸が目を見開いて口もポカンと半開きだった。少し、してやったりと気分がよかった。

「…沢村ー、お前ホントに予測つかないよね」

御幸は俯いた額を手で支え溜息をついた。そのまま少し上目遣いで見詰めてくる。

「もう我慢出来ねーわ。話も終わったしな」
「…また雄の匂いプンプンさせやがって」
「いいじゃん、お前にだけだろ」
「当然」

御幸のように口端を上げて笑って見せた。
本家の不敵さには及ばないが、二人して似たような表情で見つめ合って可笑しくなった。
座る自分を包むように御幸が近付きそのまま口付けた。
最初から激しくて、口腔内を全部掻っ攫われそうなキスだった。

「…は、」

唇が離れた時に思わず漏れた吐息が御幸の顎をくすぐり、それを合図に首筋を唇でなぞられた。
ゾクリ、と背筋が震え声が出そうになったが思考を奪われる前に胸を押しやり御幸の顔を見た。

「…何?」

組んで輪にした手を訝しげな表情を浮かべる御幸の頭上から被せ肩に乗せた。

「忘れんなよ」
「何を?」
「アンタだって俺のモンだ」
「…それこそ、当然だろーが」

笑んで見つめ合ったが互いの瞳は欲に濡れていた。

「お前ももう待てねぇみてぇだな」
「うっせ、アンタが熱くさせんだろ。…俺だって雄なんだよ」
「違いねぇ」

御幸が笑ってまた口付ける。
ゆっくりとスローモーションのように覆いかぶさってくるのを御幸の首の後ろで組んだままの手で引き寄せた。

「珍しい。明日は嵐だな」

唇が触れるか触れないかの距離で御幸が言う。
笑おうとしたがそのまま塞がれて吐息は御幸の中に消えた。

後で教えてやろうと思った。天気予報はさっき見た。

明日は、快晴だ。




end

6000hit とくめいさんへ  リクエスト→御沢(甘々) 
ご本人様のみご自由になさってくださいv リクエストありがとうございましたv





あきゅろす。
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