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必須栄養素





本当にもう、どうしてくれようか。何がって沢村の可愛さである。

今も食堂で飯を食ってる沢村を眺めてる。俺は食い終わってて少しの雑談に付き合いながら肘をついて盗み見ていた。
通路を挟んで斜め向かいに座ってるアイツはリスの頬袋のように膨らんだほっぺに飯粒をつけてる。
気付かずに降谷や小湊としゃべっている。あ、口から飯粒飛んだ。
降谷が眉間に皺を寄せて「もう汚いなぁ」などと文句を言っている。ほっぺの飯粒はスルーかよ。
あぁしゃしゃり出てヒョイパクってしたい。飯粒ごとほっぺに食らい付くのもいいね。

見つめてたら視線を感じたのか沢村がこっちを見た。頬袋はまだ膨らんでいる。
俺は無言で自分の右頬の真ん中をチョンチョンと指さした。
沢村が気付いたのか茶碗を置いて自分の右頬を触る。ハッと目を見開いて飯粒を取った。
軽く会釈した後バツが悪そうにそっぽを向くが膨らんだほっぺが赤くなってる。可愛いねぇ。

沢村達一年が食堂を出た後ダラダラ話してた俺達もようやく出る。
コーヒーでも買おうと自販機に向かうと、沢村が壁に寄り掛かって立っていた。
ポケットに手を突っ込んで口をへの字に結んでいる。

「…っス」
「機嫌が悪そうだな、少年」
「ガキじゃねえ。アンタはきっとここに来ると思って」
「何待ち伏せ?きゃーそんなに好きぃ?」
「ふざけんなバカ!一言言っときてぇの!」

沢村にバカって言われた。

「何をー?」
「ニヤケたツラで俺の事見んな!」
「いつニヤケてた?俺」
「いっつもだよ!さっきの食堂でも!」
「あー、あれはお前が可愛いのが悪い」
「はぁ!?何その理不尽な意見!つーか可愛いって何だよっ」

だって可愛いじゃん、今だって文句に夢中で俺が壁に手をついて退路を絶ったのに気付いてない。

チュッ

吠え続ける鼻先にキスした。そしてその瞬間の沢村の顔に俺はたまらず吹き出した。

「はっはっは!お前今寄り目になってやんの!何!?超可愛いんだけど!」

腹を抱えて笑ってたら沢村が真っ赤な顔でワナワナしてた。だからそういうのが可愛いんだって。

「もうアッタマきた!アンタなんか知らねぇ!金輪際話しかけんな!」

ズンズンと漫画みたいに歩いて行くアイツの後ろ姿を見ながらしばらく笑いが止まらなかった。



翌日、休み時間に目敏く沢村を見付けた俺は意気揚々と呼びかけた。

「沢村ー、どこ行くの」

沢村はこちらを一瞥してフイっと顔を逸らした。…アレ?
一緒にいた金丸が答えてきた。

「ちはッス、先生に頼まれて教材取りに行くんですよ」
「ああ、そう」
「じゃ失礼します」

その間沢村は不自然な程そっぽを向いて俺を見ようとしなかった。
…ヤベ。かなり怒ってる。え?でも昨日のあんだけで?首を傾げて二人を見送った。
倉持にゲームに誘われたので晩飯の後で五号室に遊びに行く。
ついでに沢村の様子を探るつもりだ。
返事も聞かずにドアを開ける、意味のないノックをして上がり込むと予想に反して沢村がいない。

「増子さんは素振りとしても沢村は?」
「あーアイツ何か金丸に教えて欲しい問題があるとかで」
「あ、そうなの」
「明日当たるらしいぜ」

うわぁガッカリ。様子探る為とか言って、ただ会いたいだけだった自分発見。
しばらくゲームしてたけど、倉持が貸してるゲームがあるとかで取りに行くと部屋を出た。
入れ代わりに沢村が帰って来た。

「戻りやしたー」
「お帰りぃー」
「…な!?何で御幸が…ってゲームか」
「そーそー倉持もすぐ戻るよ」

笑顔で伝えてもまたフイッとそっぽを向く。そろそろ謝るか。
沢村ー、と話しかけたら急にこっちを向いた。
あぐらをかいて座る俺の前に膝立ちで肩に手を置いてきた。…何だ?と思った所に、

チュッ

鼻先に唇が触れた。あまりの事に呆然としていたが沢村の笑い声で我に返った。

「わははは!御幸も今寄り目になったぞ!」

俺を指さして笑っている。

「アンタだって超可愛いぞ!ザマーミロ!復讐だっ」

………あぁ、神様。押し倒していいですか。いいですよね、ハイ。

「わああっ」

俺に圧し掛かられた沢村が必死にもがくが、抱きしめて離さない。
今日のおかしな様子はどうやら復讐の機会を虎視眈々と狙っていたかららしい。なんて可愛い復讐だよ。
心地良い体温と沢村の柔らかい匂いが俺の体に染み込んでいく。

「離せよっ」
「離さない。補給中だから」
「何をっ!?」
「俺が日々生きて行く為の必須栄養素を」

少し顔を離して沢村を見たらまた真っ赤な顔でワナワナしてた。
辛抱たまらんかったが、倉持が帰って来たらさすがにマズイ。
だから唇から栄養補給するだけで我慢した。
少しばかり長すぎて激しすぎて、翌日沢村にまた口聞いてもらえなくなった。
しかし同じ復讐は返ってこなかった。残念。




end






あきゅろす。
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