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rule(倉沢)





寮の食堂のおばさんが一人辞める事になった。旦那さんの転勤について行くらしい。
寮住まいの部員達の胃袋の面倒を一手に引き受けてくれてた人だから皆が惜しんだ。
メインに作ってくれてた人で美味しいと評判だったのだ。
寮の部員達でささやかながらお礼にプレゼントをしようという事になり夜の食堂で話し合っている。

「おばさんのメンチカツがもう食えないなんて」
「やっぱカレーが絶品だったよ」

各々好物を挙げておばさんの料理を惜しむ。主張こそしなかったが倉持はひそかに八宝菜が気に入っていた。
そんな中、三年がまとめていく。

「で、一人二百円でいいのかよ」
「充分じゃない?」
「寒い地域に行くらしいからやっぱマフラーとか手袋とか」
「もう春だよ」
「次の冬に使えばいいじゃねーか」

適当と言える程にあっさりと決まっていく。
しかし話が役割分担に至ると皆が目を逸らし始める。

「じゃあ勝手に決めるよ。会計は金丸、買いに行くのは春市と沢村」
「「は、はい」」

「色紙に寄せ書き、とかは?」

誰かが口を挟んだ。皆があるあると賛成する。

「じゃあ色紙も買おう。名前は?真ん中に“おばさんへ“じゃヒドイだろう」
「名札してねーし名前なんて知らねーよ」
「田所さん、ですよ」

突然口を開いたのは倉持だった。皆が一斉に倉持を見る。

「へぇ、よく知ってたね」
「いえ」
「じゃあ倉持に任せるから沢村と行って来てよ」

ちょっと失敗したと倉持は思った。余計な仕事が増えた。
ふと気付くと沢村が口をキュッとへの字に結び少し頬を赤らめて自分を見ている。

(…あのバカ)

解散になり部屋に戻ろうとさっさと食堂を出た。
後ろから追ってくる足音が聞こえる。誰かなんて振り向かなくてもわかってしまう。

「倉持先輩っ」
「んだよ、うっせーな」
「凄いっスね!俺おばさんの名前知りませんでしたよ」
「全然凄くねーよ。ついてくんな」
「ひでぇっ!一緒の部屋に戻るのに」
「増子さんは?」
「このまま素振り行くそうっス!」

5号室に到着すると倉持が鍵をかけた。

「え?何で…まさか」
「うっせぇ!変な誤解すんな。何もしねぇよ」
「ぎゃっ!蹴る事ないじゃないスか!」
「テメェに言っとく事がある」
「…なんスか?」

床にドカッと座った倉持の向かいに神妙な顔つきで沢村が正座する。

「大勢の人間の前で、あんな顔で俺の事見んな」
「…あんな顔とは…?」
「食堂で赤い顔して俺の事見てただろ」
「…あ、あれは」
「変に勘繰られたら面倒くせぇだろうが」
「すいやせん…なんかおばさんの名前知ってた倉持先輩がすげぇ、らしいなって思って…」

沢村がまた少し頬を赤らめて照れながら話す。

「あと、倉持先輩と二人で出掛けんのかなとか思って」

照れました、と頭を掻きながらニカッと笑い倉持を見た。

(あぁ欝陶しい)

何が欝陶しいかと言うと、こういう沢村を見て可愛いと思う自分自身だ。
何もしないと言った手前、それは守るつもりだが早まったと思った。

「とにかくああいう顔で俺を見ない、外でベタベタしない、わかったな」
「はい…すいやせん」

途端にシュンとする。相変わらず喜怒哀楽が百パーセント顔に出る。だから危なっかしいのだ。
誰かに突つかれるときっとすぐにバレて厄介な事になる。そうなると二人の関係を続けるのも微妙になるかも知れない。
とにかく沢村は可愛いがられているのだ。

(ったく、しょうがねぇな)

俯いた沢村の頬に手を添え乱暴に上向かせくちづけた。一瞬目を見開いたがすぐにキュッと閉じた。
しばらく堪能したあと唇を離し、デコピンした。

「いてっ」
「金丸が集金したらすぐに買いに行こうぜ。もうマフラーなんか売ってねぇよ」
「はいっ!」

もう哀から楽に変わった。くるくる変わる表情も本当は可愛いと思っている。
だがそんな事、口にするようなキャラじゃない。


金丸の仕事は早く、翌日には集金が終了した。
買いに行くのは次の日曜、その日は朝練しかないので好都合だ。
沢村にはああ言ったが倉持なりに楽しみではあった。学校や部活以外で外で会うのは初めてだった。
少しくらい優しくしてやろう、そう思っていた。

なのに当日、沢村と5号室を出ると玄関にニヤけた顔の面々が待っていた。

「俺らも付き合ってやるよ」
「沢村のセンスは信用できねぇしな」
「何か楽しそう…」
「栄純君手伝うからね!」

伊佐敷、御幸、降谷、春市だった。
途端にイラついて眉間に皺が寄るが悟られたくないので平常心平常心と心で呟いた。
沢村はというと案外楽しそうだった。それがまた面白くない。

ハシゴしてようやく見つけた季節外れのマフラーと手袋を購入し、色紙を揃え買い物は完璧。
あっという間に腹が減る高校生男子達は小腹を満たそうとファーストフード店に入った。
何とか六人が座れる席を確保したものの、一番遠い対角線上に沢村が座った。
正確には座らせられた、か。隣は御幸、向かいは伊佐敷。倉持は向かいに降谷、隣に春市だ。

(……何だそりゃ)

向こうを見ればギャーギャー騒いでいる。
解っている、自分が言った事だ。赤い顔で自分を見るな、ベタベタするな。
沢村はそれを忠実に守っているだけだ。しかし。

(だからって他の奴らとベタベタしろなんて言ってねーんだよ)

店を出ての帰り道も沢村は御幸や伊佐敷にからかわれチョッカイをかけられて大騒ぎだった。

その夜食堂で皆で寄せ書きを書いた。
色々なメッセージが並ぶ中、倉持は"ありがとうございました お元気で"とだけ書いた。
ふと沢村のを見るとメッセージの最後に“八宝菜が最高でした!“と書いてあり思わず笑みが漏れる。
突然その沢村の声が響いた。

「あの、お兄さん!」
「何?沢村」
「明日田所さんにプレゼント渡すの、倉持先輩がいいと思うんスけど!」
「あぁそうだね。倉持頼むね」
「あ、はい」

解散になり食堂をさっさと出る。相変わらず後ろから追ってくる足音が聞こえる。
しかし途中で色々な部員から声がかかり、からかわれいじられて今日は追い付く事が出来なかったようだ。
ドアの前で少し待つ。小走りで帰って来た沢村に尋ねた。

「増子さんは?」
「あ、また素振りっス」

入った後また鍵をかけた。

「また何か説教すか…」
「それだけじゃねぇよ。さっさと来い。一時間後には増子さん帰んぞ」
「…え?あ」

察したのか赤くなる沢村に座りもせず伝える。

「テメェに言っとく事がもう一個増えた」
「は、はい」
「誰がテメェを構おうがテメェが誰とジャレようが関係ねぇ。ただ」

倉持は人差し指を下に向けて自分の隣の床を指した。

「必ずここに戻ってきやがれ」
「あ…は、はいっ」

さらに赤い顔で律儀に返事をする沢村の胸ぐらを掴んで引き寄せキスをした。

明日田所さんにプレゼントを渡す時、“八宝菜が本当に美味かった“と伝える事にした。




end



3333hit 賢城さんへ  リクエスト→倉沢(倉持の嫉妬)
ご本人様のみご自由になさってくださいv リクエストありがとうございましたv






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