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表現の自由





ここ何日か御幸がおかしい。やたらと俺にかまってくる気がする。一体何なんだ?正直かなり欝陶しい。


いつものように風呂に入りサッパリしてご機嫌で出ると御幸に会った。

「おぅ沢村、今出たのか」
「ゲ」
「ゲじゃねーだろ。何だお前、ちゃんと頭拭いてんのか?」
「わっ」

御幸が俺の肩のタオルを取ってゴシゴシと拭いてきた。

「いいって、自分でやるから」
「自分じゃやんねーから俺がやってんだろー」
「誰かに見られたらヤダっつってんの」
「照れんなよ」
「照れてんじゃねぇ」
「じゃ、見られたくないなら俺の部屋来い」
「何で!ちょっと…」

腕を引かれて御幸の部屋に連れて来られた。同室の人は誰もいない。だからか。

「座れ、ドライヤーかけるから」
「えー面倒くせぇ」
「だからやってやる」

御幸がドライヤーを出してきて右手で俺の髪に温風をかける。
左手は髪の中に手を入れて何かワシャワシャしている。…これ気持ちいいな。
ドライヤーのうるさい音の向こうから御幸の鼻歌が聞こえた。何でご機嫌?

「まだ?」
「もう少しな」
「早くしてくれ…眠くなってきた」

ドライヤーの温かさが眠気を誘う。御幸の指が優しく髪の毛を触るせいでもある。
……ヤバイ。もう目が開けられない。覚えているのはそこまでだった。



「…ん…」
「お、起きたか」

目が覚めるとそこは御幸の腕の中だった。膝の上に俺を抱き込んで座っている。慌ててどいた。

「ゴ、ゴメン、俺寝ちまったんだ。起こしてくれりゃよかったのに」
「だって気持ち良さそうに寝てたし」
「だからって…俺どのくらい寝てた?」
「平気平気、ほんの20分位」
「あ、そう」

ホッとした。同室の先輩もまだ帰ってない。こんなとこ見られたら何て思われるか。
でも御幸は寝た俺を抱えて20分じっとしてたのか…。

「なぁ、ゴメンな。重かったっしょ」
「全然?沢村なら一晩でも抱っこ出来るし。可愛い寝顔堪能しちゃったしね」
「…むしろアンタ謝るようなことを寝てる俺にしてねぇだろうな」
「うん、ホッペにチューしただけ」
「したのかよ!」
「いいじゃん今日はそれだけだから」
「もう戻る!おやすみ!髪の毛サンキュー」

ドアを閉めるまで御幸の笑い声が聞こえていた。


翌日は軽いアクシデントがあった。
教室移動で一階の渡り廊下を金丸達と歩いていたら、前から騒いで走ってきた集団がいた。
俺も金丸の方見てたから反応が遅れ、避けきれずにぶつかって尻餅をついてしまった。
一階の外廊下だった為に床がコンクリで、ついた右手を擦りむいた。

「だっせー」
「うるせっ!笑うな」
「ほらよ」

金丸が手を差し延べた。珍しい事もあるものだとその手を取ろうとした所で急に体が浮いた。
一瞬何が起きたのかと思ったが脇の下に後ろから手が差し込まれ立たされたのだった。
金丸の発した言葉で振り向く前に誰かを知る。

「あ、どうも。御幸先輩」
「おう。大丈夫か沢村」
「うん、はい」

振り向いたら御幸が少し息を切らしていた。…走って来たのかよ。

「アンタどこから?」
「ん?ああ、向こうの廊下から」

指さした方を見ると今渡って来た方の校舎の廊下の窓から倉持先輩らしき人影が見える。
ちょうど階段の辺りの窓だから教室に戻ろうとしてたらしい。あそこからここまで一瞬で…すげーな。

「窓からお前が跳ね飛ばされたのが見えたから。…ったくあのガキ共」

ガキって同い年だし。アンタも俺も世間一般から見たらガキだよ。

「あ、お前右手ケガしてんじゃねーか」
「擦りむいただけだよ」
「いいから来い。保健室行くぞ」
「いいって」
「金丸、先生に言っとけ」
「は、はい」

また手を引かれて歩きながら何なんだと思う。こんな感じで何かと御幸が構ってくる日はもう二日か三日になる。
御幸の後姿を見ながら保健室に入ると無人だった。

「誰もいねーな」
「だからいいって」
「よくねーよ。座れ、消毒しとこうぜ」

右手を取られ親指の付け根辺りの擦りむいた所に御幸が消毒液にひたした脱脂綿を当てていく。

「しみるか?」
「全然。こんくらい平気だ」
「お前投手なんだからさ、手大事にしろよ」
「何だよ、してるよ」

御幸はフフッと笑って俺の右手を握りしめ、そして持ち上げて指にキスをした。
こんな所で何をするか。手を慌てて払う。

「もう、授業始まってっから行こうぜ。サンキューな」

御幸は笑顔で俺の背中に手を添えて保健室から出るよう促した。
…ホントにおかしい。毎回このパターンだし。
ただ、もう止めて欲しいと御幸に言いに行く決心をしたのは金丸の言葉に赤くなってしまったからだ。

「御幸先輩、お前が投手だからか?何か…過保護すぎじゃね?」



部活後、話しがあるから夕食の後御幸の部屋に行っていいかと聞いたらオッケー同室の奴ら追い出しとく、と笑顔で言われた。
“話し“ってちゃんと言ったよな俺。まあいない方がいいけどさ。


「失礼します」
「おう」

風呂も食事も済ませ御幸の部屋に行くとホントに誰もいない。

「話しって何?」
「あぁ、あのさ、ここ何日かアンタがやたらと俺を構うじゃん?もう止めて欲しいんだけど」
「…あー、やっぱりそろそろ言われるかなーと思った」
「何なの?自覚あんの、つーかわざと?」

段々イライラしてきて詰め寄った。御幸は少し困ったような顔して笑った。

「俺さぁ、沢村」
「何」
「お前の事めちゃめちゃに可愛がってデロンデロンに甘やかして抱っこしていい子いい子してチュッチュしてたい気分なんだよ」

………………は?は、恥ずかしい!!何言ってんのこの人!!頭がパニックになった。

「な、な何言って…」
「うん、俺なりに考えてみた結果」
「な何を?」
「何でこんな気分なのか。…俺、野球に関してお前に超厳しいじゃん?」
「うん。でも野球で優しくされんのなんてゴメンだ」
「俺もね。でも現実俺は沢村が好きで好きでたまらないじゃん?」
「…知るか!」
「最近二人きりになれなくて厳しくしてばかりだからその反動?とか思った訳よ」
「………」

それを言われたからって俺はどうしたらいいのか。ただ止めて欲しいだけなのに。

「沢村、明日から普通に戻るからさ」
「マジ?」
「うん。だからちょっと膝においで」
「何でだよ!」
「お前をめちゃめちゃに可愛がってデロンデロンに甘やかして抱っこしていい子いい子してチュッチュさせて」
「…バッカじゃねぇの!?嫌に決まってんだろ!」
「じゃ明日からも治んねーな」

……くそ!足元見やがって!

「わかったよもう。ちょっとだけだからな!」

御幸が満面の笑みで両手を広げ近付く俺を抱き留める。あぐらの中に座り後ろから抱き込まれる形になった。
手が優しく頭を撫でて唇が後ろから髪やこめかみに触れる。

「沢村にとって悲しいお知らせがあります」
「なっ何だ」
「この気分、定期的に波が来そうです」
「はあっ!?冗談じゃねぇよ!」
「仕方ねぇな。これが俺の愛情表現とでも思ってくれ」

頭の後ろで御幸の含み笑いが聞こえる。まったくしょうがねぇよ、この人。

「…じゃあ、次の波が来たらまたこんな風に膝に乗ってやるよ。そしたらすぐ治まるんだろ」
「沢村っ。何お前!何でそんな可愛い事言うかなー」

後ろから無理矢理、ホントにチュッチュと音をたててキスしてくる。

「お前の愛情表現、可愛い過ぎるから」
「別に愛情じゃねぇっ!今回みたいに長く構われたくないだけだっての」
「はいはい」

御幸が腕に力を込めてギュウギュウしながら言う。

「あんま可愛いから今度はいじめて啼かせたくなっちまったなー」
「ふざけた事を言うな」


さっさと構う時間を終わらせて欲しいからと言った理由の他にもう一つある。
段々と構われて甘やかされるのに慣れてきそうで嫌だった。
俺の手を引いて保健室に急ぐアンタの後ろ姿が何だかカッコよく見えたんだよ。
そんな事ばっかされてるとダメになっちまいそうだろ?俺はちゃんとアンタと肩を並べて行きたいんだ。

アンタの言葉を借りて言うならそれが俺の愛情表現ってヤツかもね。





end


2000hit 賢城さんへ  リクエスト→沢村が戸惑う程面倒を見る(甘やかす)御幸 
ご本人様のみご自由になさってください。リクエストありがとうございましたv






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