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カラフル





チリ、と胸が焦げる音がした気がする。

昼休み、食堂にやってきたら出入り口に程近い席で騒いでいる一年がいた。
誰かと見る前に感覚で沢村とわかる。そんな自分にももう慣れている。

「今回はマジすげーよ!」
「栄純くん頑張ったんだね」
「いや、金丸のおかげなんだけどさー」

そういえば小テストがあるとか言ってたか、と思いふと視線を沢村に移した。
点が良かったのか沢村が満面の笑みで得意気に立っていて、金丸が横で嫌そうな顔をしている。
金丸、またアイツが沢村の面倒みたのか。

「お前あれ位の点で威張るなよ」
「いやいや俺にしたら凄いんだって!」
「良かったね栄純くん、金丸くんは教えるの上手いんだね」
「そう!そうなんだよ、春っち!解りやすいんだよ。また頼むな金丸!」

沢村が金丸の肩に腕を廻して笑う。
金丸は欝陶しそうにその腕を払いながらも少し嬉しそうに見えるのは気のせいか。



「御幸、テメェ目から変な光線でてんぞ。気色ワリィ」
「…あ」

倉持に言われて自分が凝視していた事に気付いた。
ホントに光線が出ていたら金丸に狙いを定めてやったのに。

「言っとくけどメシがまずくなる話はすんなよ」
「わかってる。する気もねぇし」

言いながら沢村を見るとまだ騒いでいる。
ホントにうるさい奴だと思ったが、心の中ではそれすら建前でまたチリチリと音がしていた。


まったくどうかしてる。今まで誰と付き合ってもこんな事なかった。
沢村が色んな奴と仲がいいから何だというのか。
いや違う、解ってる。色んな奴と仲がいいから嫌なのだ。

「くだらねー…」

思わず口をついて出た。
俺ですら持て余すこんな感情、他の奴らはどう対処しているのか?
こんなの人間には必要ない感情じゃないのか。何をするにも効率が悪い。

…ほら、まただ。クラスの別の奴が沢村に絡んでいる。
からかわれているのか真っ赤になって拳を振り回して怒っている。
バカめ。皆お前のその反応が見たいからチョッカイかけるのに。
ちょっとはポーカーフェイスでかわしてみろ。

「御幸、くだらねーのはテメェだ。食ったならもう行くぞ」

倉持に急かされて食堂を後にした。
ちょうど扉の所で沢村に絡んでた奴にぶつかりそうになった。
だから、普通に睨んでやった。普通の事だ。

「…お前さぁ、試合以外でそんな目すんなよ」
「だって今の奴、前見ないと危ねーじゃん?」
「…ケッ」

倉持は呆れたようだが仕方ない。自分だって呆れているのだ。

沢村とこんな関係にならなければ生まれない感情だったのか。いや、やはり生まれただろう。
そもそも沢村に対する想いは絶対に抜きには考えられないから必然的にこの感情もついてくる。
……ああ厄介だ。
妬けてさらに焦げて最後は灰色になりそうだ。

こんな時は部活に打ち込んで汗を流すに限る。汗とともにこの厄介な感情を洗いざらい流してやる。


なのに。負の連鎖ってのは続くもので、今日の部活ですら沢村はいじりたおされてた。
野球に関する事でこういった感情を持つなんてまず無いのに。
それ以外の事でいじられてるからか?…とにかく胸クソ悪かった。

まだ足りないと一人残りひたすら汗を流す。じゃないと沢村を見た途端に押し倒しちまいそうだった。
ようやく満足してあがったのは陽も暮れた頃で。汗はたっぷり流したし、あの厄介な感情も取り敢えずはなくなったように思えた。

夕闇の中を部室に向かっていると、その景色のように目に映るものに色が無い気がした。
スッキリした訳ではなく妬き尽くしただけか。
馬鹿馬鹿しいと鼻で笑い部室の前に着くとドアの隙間から灯が漏れている。
…もう俺しかいない筈なのにと思いながらドアを開けると沢村がいた。

「あ、お疲れっス」
「何?お前結構前にあがったんじゃねぇの」
「うん、まぁね」

ベンチに座り読んでいた雑誌を横に置く沢村を見ると、着替えも終わっている。

「ちょっと気になった事あって」
「何だ?」
「…なんか、なんかさ。アンタ今日変じゃなかった?」

一瞬しまったと思った。一番気付かれたくない奴に。
こんなみっともない感情を見せてたまるか。

「そう?どこが」
「いや…どこって言われると困るんだけどさ」

沢村がモゴモゴと言いよどんでいるうちに背を向けて着替え始めた。

「とにかくいつもと違うんだよ」
「誰かに何か言われたのか」

倉持辺りの入れ知恵かと背を向けたまま答える。

「ちげーよ!…なんて言うか…アンタの事はわかるんだよ」

…今なんと言った?一体なんのプレゼントだ。俺誕生日だっけ。
ワイシャツのボタンに手をかけたまま振り向いた。

「なんか、やっぱいつものアンタとは違うんだって。そういうの気になるからさ」

近付いて来たと思ったらパチンと俺の両頬を叩いて挟み込んでジッと見つめて来た。

「なんでアンタが変なのかわかんねぇけど……キ、キス、してやる」

…思考が止まった。何?コイツ。わかんねぇって言いながら感覚で理解してんじゃん、俺が変な理由。
そうすれば俺が元に戻るって思ったんだろ。

「はっはっは!お前ホントにおもしれーな!」
「なっ何笑ってんだよ!人が…んむっ」

可愛くて耐えきれずに唇を奪った。
せっかくの沢村からのキスをこんな時にもらうのは勿体ない。
俺がもっと男前な時にいただく事にする。

すげーなお前、一瞬で俺を救い上げた。

沢村の黒髪、陽にやけた肌、白いシャツ、朱い頬、雑誌の青。
ほら、途端に色がつく。
灰色の世界に咲き乱れる、とりどりの鮮やかな色。

お前が俺に笑うだけで触れるだけで世界はこんなにも、カラフル。




end







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