昼下がりなコロツナ
赤い絨毯が引かれた廊下を堂々と(誰もいないのに『堂々』も何もないが)歩いている金髪碧眼の見目麗しい青年がいた。
その瞳には決意が宿っており、前を見据える鋭い眼孔は常人なら怯えてしまうだろう。幸いにもここには誰もいないが。
(今日こそはあいつに伝えるぜ、コラ!)
なにやら青年は覚悟を決めてきたらしい。『こそは』と言うことは幾度となく挑戦したことを意味している。
(いつもリボーンに邪魔されてきたからな…だが、今は出張してるはずだ。今のうちにツナにこ、こここ、告白をっ…!!)
…青年はツナと呼ばれる想い人に愛を告げたいらしい。しかし、どうやら青年は照れ屋のようだ。心の中でしゃべっているにも関わらず、どもっている。
赤い絨毯が終わりを見せる頃、ようやく目的の部屋についたのか、青年は扉の前で足を止め深呼吸をする。意を決したように拳を作り扉を叩く。些か力のこもったノックの音が廊下に響いた。
「ツナ、いるかコラ!」
返事を待つが返ってこない。少し寂しく感じる。
(居眠りしてんのか…?あいつ、リボーンがいないからここぞとばかりにだらけてやがんな…)
ノブに手を掛け音を立てないようにゆっくりと回し前に押す。徐々に部屋の中が見えてくると、まず机に目をやる。
誰も座っていない。
(…あいつどこに行きやがっ……)
ふと窓に目をやった青年は思考回路を凍らせた。
ばっちりと目が合う。
相手は動かない。
青年も動かない。
目に入ったのは窓に足を掛け今にも飛び出そうとするボンゴレボスだった。
「なにやってんだコラアアアァアァアア!!!
自殺か!?自殺してぇのかコラァんなわけねぇだろ逃げようとしただけだろうがぁっ!!」
「なんで一人でノリツッコミしてんのコロネロ?」
ボンゴレボス・沢田綱吉ことツナはそのままの体勢でため息をついた。見つかってしまったことが残念なようだ。
「せっかく自由になろうとしたのに…」
「『自由』と言う名の『逃亡』だろうが!!」
「自由を求めて何が悪い!!」
「悪ぃに決まってんだろゴルァア!!」
青年はいったい何をしに来たのだろうか。まさか怒鳴りに来たわけではあるまい。しかし怒鳴らずにいられるだろうか。せっかく来たのに扉を叩いても返事がない。恐らく居留守を使おうとしたのだろう。しかし扉が開けられたので見つかる前に逃げ出そうとしたのだ。もし青年が窓から飛び出そうとする所を見つけなかったらツナは逃亡に成功していただろう。会いに来たのに逃げ出されてしまうのはあまりにも悲しい。
「そういえばコロネロは何か用事でもあったの?」
「あっ…あぁ…!」
漸く本来の目的を思い出した(思い出させてもらった)青年は咳払いを一つしたあと、深呼吸を一回行った。
「…ツ、…ツナ…………今日は、言いたいことが、あって来た…」
ことりと首を傾げて青年を見上げるツナ。上目使いが堪らなく可愛い。二十代も後半に差し掛かったとは思えぬ程の童顔が青年を見つめている。うるさく鳴りだした心臓が、熱くなる顔が、なかなか言葉を発せない喉が、煩わしくてたまらない。
それでも伝えなければいけないのだ。
この感情を
「俺は…、ツナ…………が、………好きだぜコラァ!!!」
なんでか喧嘩越しのような告白になってしまったが、これが青年の精一杯なのだ。
目をそらして青年は返事を待つ。顔なんて見ていられるはずがなかった。ドクドクと体中の血管が波打っているような感覚に捕らわれる。
「……俺も好きだよ」
長い沈黙を破ったのは嬉しい言葉だった。
青年は目を見開きツナを凝視する。
(まさか、そんな、両想い…?)
「ほ、本当か…?本当に、好きなのか…?」
「うん、好き…」
するりとツナは青年の頬に手のひらを滑らせた。
ドキリ、とまた心臓が高鳴る。
ツナの瞳はとろりとした甘さを含み、青年の理性を崩さんとするばかりだ。
「コロネロ…」
「ツナ…」
「好きだよだから見逃してね」
「は?」
気付いた時にはツナは遥か下の地面に降り立ち走り出していた。
実はツナ、話している最中も窓に足を掛けたままだったのだ。逃げる気満々だったのだ。
「…今の……全部演技かコラアアアアァアアァア!!!」
青年の叫びは屋敷内に響き渡ったという。
END
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