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縋りついて抱き締めて





静かな部屋に時計の秒針の音が響く。振り子付きのアンティークな時計は特にその音が空気を震わせた。定まった時間になると、時計は時間を知らせるのに大きな音を発する。その音に肩をビクつかせるこの部屋の主を何度か見たことがあった。

しかし、今この部屋に主はいない。時間を知らせる音がなっても驚く相手は無く、虚しく音は二回なって止まった。その音が知らせるのは二時。それも深夜だ。そろそろ主が戻る時間だろう。











また秒針の音しかしなくなった部屋に異なった音が混じり始めた。音は少しずつ、こちらに向かってくる。
いままで寄りかかっていた壁から背を離し扉から少し距離を取って正面に立った。




主のお戻りだ。










開かれた扉から主が姿を表した。
スーツにコートを羽織っており、歩く度にコートの裾がフワリと空気を撫でる。しかし今、そのコートは風邪に靡くこともなく主の肩に掛かっていた。それが意味することはただひとつ。


    濡れている




別に雨が降っていた訳ではない。今日は月が覗いている。





ならば何故か?









ただ血で濡れているだけだ。それもコートが揺れることが無いほど。

もちろん主の血ではない。











「…骸………?」



暗闇の中、主は己を見つけた。月明かりがうっすらと映し出したのだろう。




「骸っ…!!」



彼は嬉しそうに顔を綻ばせ血で重くなったコートを床に投げ捨てた。そして胸の中へと飛び込んでくる。
学生の頃よりあまり伸びなかった身長は、今でも平均より低い。それを受け止めるこの体は彼より頭一つ分と少しだけ高い。その為、腕を首まで持って行くのに背伸びをしなければならない。















まるで縋りついているようだ、と思った










「おかえりなさい、ボンゴレ」

「ただいま、骸っ!」




マフィアの頂点に立つドン・ボンゴレ10代目沢田綱吉はその年にしては童顔な顔で、その年にしてはあまりに純粋で無垢な笑顔を向けてくる。
彼の腰に手を添え支えてやりながらこちらも常に浮かべる笑顔で迎えてやる。


「今日は昨日よりたくさん殺せたよ!」

「そうですか。良い子ですね」


ふわふわの髪に指を入れ梳きながら頭を撫でてやる。純粋な笑顔で吐く言葉はとても純粋とは言い難いだろう。




しかし、これは紛れもなく純粋な言葉だ。

己に向けてくる純粋な恋情の言葉。




「骸…抱きしめて…?ぎゅってして…?」



「クフフ…いいですよ」





上目使いで見上げてくるボンゴレの腰に添えていた手を、背中を撫でるように滑らせ引き寄せる。こちらも前屈みになりボンゴレの耳元に唇を寄せた。


「約束ですからね…」


彼は幸せそうに胸に頬を寄せた。










彼の恋心には気付いていた。会う度に顔を綻ばせ話しかけてくる。山本武やあの忠犬、さらには雲雀恭弥にまで酷いことをした人間に恋情を抱くとは愚かなことこの上ない。




しかし、それは都合が良かった。











『綱吉君、』





『何、骸?』





『愛してあげても良いですよ?』





『え…………?』





『君が条件を飲むのなら、ですがね』





『条件…?何…?俺、なんでもするよ?骸が俺を見てくれるならなんでもする…!』





『クフフ…良いですよ、綱吉君。


僕が一番望んでいることをしてください
簡単でしょう?』





『骸が……望んでいること…………』





『分かりますか?』





『………マフィアの…纖滅…』





『君が出来ることをすれば良いです。ただそれだけですよ。出来たら僕も君が望んでいることをしてあげます』





『…ほんとに……?』





『はい。出来たら、ですよ?』





『うんっ…!俺、やるよ!だから、』
















彼は己の言いなりになった。毎夜、手当たり次第にマフィアを葬って行く。



なんて純粋で愚かな子なのだろうか。







いつか、彼が命よりも大事にしている自分のファミリーをも手に掛けなければならない日がくるだろう。









彼は、僕とファミリー、どちらを取るのだろうか?









笑いが込み上げた。自分の口角が上がるのが分かる。




きっと彼は僕を選ぶのだろう。










最後は、











綱吉君、











君ですよ?










君は、僕が『死ね』と言えば死ぬのでしょうね。






そして僕は僕の望みを叶え終える。

君の手によって。

皮肉な物ですね。一番嫌いな人間に一番望んでいることを叶えてもらうのですから。












「骸…………俺、明日も頑張るからね…」



「えぇ…期待してますよ」





僕の胸の中で寝息を立て始めた彼を抱え寝室に運ぶ。

ベッドに横たえ、額にキスを。




「クフフ…頑張ってくださいね?」














(あぁ  でも    綱吉君)
(君が死ぬ時)
(僕も一緒に死んであげても良いですよ?)


























ヤンデレか、これは?
どっちが病んでるか分からない話になっちった…
ていうか、骸がツンデレっぽい…


読んでくださってありがとうございます!

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