雲雀誕生日
5月5日。子供の日。
例え休日であっても風紀の仕事が無くなる訳じゃない。風紀委員は交代で休暇を取り、並盛の治安維持に努めている。大型の連休はハメを外す愚か者が多く出るから狩りに忙しい。
そんな時に僕が休みを取るはずもない。草壁は『5日くらいは』と休むことを勧めてきたが、只でさえ人出が足りない所に僕が抜けたら大幅な戦力低下に他ならない。
「委員長、お休みになられてください。このままでは倒れます」
「大袈裟だよ、草壁」
椅子に腰掛け目の前の書類に目を通す。
住民の被害届や苦情、風紀委員の報告書が主な物だ。それらから群れの位置を推測し裏付けを取ってから駆除しに行く。他に二時間置きの見回りに加え夜は朝方まで群れの駆除。睡眠時間は多くて二時間あるかないかだ。それを金曜から行っているから四日間はまともに寝ていないことになる。
普段から睡眠時間はあまり多い方じゃないけど、ここまで寝ていないと流石に目が霞む。書類がぼやけて見えるのに少し苛々しながら文面を近づけた、その時だった。
バッタァァアアアン!!
「ひっばりさーん!!お誕生日おめでとうございまーす!」
「ちょっ、ドア…っ!!」
蹴破られた!!引き戸なのに開き戸のごとく蹴破られた!!
無惨にも蹴破った張本人である綱吉に下敷きにされたドアのガラスはひび割れている。
「あんまり寝てないって聞いてましたけど、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないよ
主にドアが」
上目使いで首を傾げられても可愛いなんて思わない。この可愛い顔でドアを蹴破るような子なんだから。別にドアなんてどうでも良いなんて思ってない。
その時だった。
がしゃあああああああぁぁぁん
ゴロゴロドカン
「ごふっ……た、誕生日っおめでとう御座いまずっ…!あまり、寝ていないと聞きましたが、大丈夫でずが?」
「大丈夫じゃないよ
主に君が」
屋上から綱を垂らしぶら下がって窓ガラスを蹴破り応接室に入ってきた骸は着地に失敗した。床を滑り目の前の机とソファに突っ込んで行った。スタントマン顔負けのアクションだったが、窓ガラスを蹴破った時に破片が頭に刺さり更に机とソファに強かに体を打ち付けた骸は全身血だらけだ。なんというスプラッタ。
窓ガラスの修理代は後で請求しよう。
「何しに来たの」
はっきり言って仕事の邪魔にしかならなさそうな二人に早く退室させようと入室した要件を聞いた。
すると揃ってニコリと笑い僕の手を掴んだ。
「迎えに来ました!」
「行きましょう!」
「は?どこに」
「雲雀さんの家ですよ!誕生日だから祝わないと!」
いきなり何を言い出すんだ、この小動物とミラクルパイナポーは。
ニッコリと微笑んでいる二人に手を引かれ、慌てて足に力をいれる。グッと肩にも力を入れ椅子から立ち上がらせようとした所を止めた。
「何言ってるの、僕には仕事があるんだ、行く訳ないでしょ!」
「雲雀さんが居ないと意味無いじゃないですか!こういうのをなんて言うか知ってますか!?『ほんまつてんとう』って言うんです!」
「そこに紙と鉛筆があるから『本末転倒』って書いてごらん!!書けたら行くから!!」
「ばかばかばか雲雀さんの意地悪!!」
「雲雀君、大人しく誕生日を祝われなさい!ケーキ作りに綱吉君は手伝わせてないので大丈夫ですから!!」
「何その俺が料理出来ないみたいな言い方!!」
「フレンチトーストを作る時、牛乳と間違えて飲むヨーグルトを入れたのはどこのどなたですか!?(※管理人です)」
だからあの時なんか酸っぱかったのか…
少し昔のことを思い出し、意識が遠退いた。その間二人は料理のことで言い争いをしている。
両腕に絡みつく二人を見ていると、休日に父親に遊びをせがむ子供のように思う。そんなに生易しいものじゃないけど。
ずるずると椅子から遠ざかりドアまで引きずられる。怪力な綱吉とそれなりに腕力のある骸に純粋な力勝負で勝てる筈がない。骸だけならまだしも、綱吉まで加わられては勝ち目なんて無い。
「草壁!」
副委員長を呼べば慌ててこちらを向いた。今まで二人の成り行きを見守っていたらしい。
ここは草壁に任せるに限る。優秀なこの男はやんわりと二人を追い返してくれるだろう。
「すみません、委員長は疲れているのでお引き取り願えますか?」
「大丈夫です、ちゃんと寝かせますから。誕生日会やるのは夜ですから!」
「それを見越して迎えに来てますよ」
このちょっと頭の足りない二人がちゃんと考えて行動してる。人間って本当に成長するんだ…
「そうですか」
穏やかに微笑んだ草壁は此方に向き直ると輝くような気持ち悪い笑顔で告げた。
「行ってらっしゃいませ委員長!!」
「死ねリーゼントフランスパン!!」
了承を貰った二人は嬉しそうにはしゃぐと更に力を込めてドアをくぐって行く。草壁に見送られ応接室を後にした。あとでリーゼントをむしって変わりにフランスパンを頭に差し込んでやる。
「ゆっくり寝ててくださいね?」
「なるべく音は立てないようにしますから」
家の寝室に寝かせると二人は部屋から出て行った。
寝室はしんとしていて眠気を誘う。寝不足も合わさってだんだんと瞼が視界を遮り始めた。微かに台所から声が聞こえる。何を言っているかは判別出来ないがきっと今晩の食事のメニューについて話しているんだろう。
他人に誕生日を祝われたことがなかった自分に祝われることを教えたのはあの二人だった。生まれたことを喜ばれる、そんな感情に興味はなかった筈なのにいつの間にか『嬉しい』と思うようになった。
意識を保つのにも限界がきた。
ふつりと黒の世界に引き込まれる。その世界が果たして本当に黒なのか分からない、そんなまどろみに身を委ねた。
がしゃーん!!
……………台所に行こう
浮上した意識に重たい体を動かして布団から起き上がり慌ただしい音がする方へと歩いていった。
end
大分過ぎましたが、誕生日おめでとうございます!
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