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青く燃える黄色

七夕関連 メイン四人


 その日もいつもと何ら変わりない一日として終るはずだった。いつもの様に畑を耕し、晩飯用に魚を取りにいつもの水辺へ。松林を抜けると辺りが異様に明るい。思わず松の陰に隠れ、様子を窺うと、そこにはこの世のものとは思われない程美しい人の形をしたものが――人間とは思われない程恐ろしい顔をした者と殴り合いをしていた。

「いい加減にしやがれッ、このアホが!」
「ははは!どうだ、捕まえてみろッ豆腐男」
「待ちやがれ!」

どちらも真白な薄い着物を纏っているのだが、水で濡れて最早意味を為していない。
関口にはかなり激しく殴り合っているように見えるのだが、二者はどことなく楽しそうだ。
これが世間で言われている天人というものなのだろうか?しかし想像していたものと大きく違う。天人とはこんなに乱暴で凶暴なのか?
暫く呆然とその異様な光景を見ていたのだが、隠れていた松になにやらヒラヒラしたものが引っ掛かっているのに気付いた。
――紙?
とても軽く薄紅色のそれは、紙の様に薄く絹の様に滑らかで、光に透けて輝いていた。

「あっ!猿ダ!」

天人の声で我に帰る。色素の薄い鳶色の大きな瞳が真っ直ぐ関口を捉えている。
美しい異国の者の面立ちが酷く恐ろしく、逃げなければ、と思うのに身体が動かない。

「おい、修!変な猿がいるぞ!」
「あっおい礼二郎!」
「っひぃ!」

恐ろしい程の速さで天人が駈けて来る。その長い手足が白く輝いているのを見、関口は恐怖の余り、気絶した。



「―――ダ!で、―――が、―――猿―――ダロウ!―――羽衣を――」

ひんやりとしたものを感じ、目が覚めた。見知らぬ座敷だ。額に濡れた布のようなものが置かれている。それもやはり真白だった。
 あの天人の声が聞こえる。何かを説明しているようだ。

「善いだろう!京極堂」

涼しい風がふわりと舞い込む。リンッと風鈴の様な音がする。

「またですか、榎さん」

善く通る低音が聞こえた。これはあの恐い天人のものではない。此処は、何処だ?急に恐怖が戻ってきた。喉からヒュウッと息が漏れる。

「おや、気付いたのかね」
「オオ!猿のお目覚めダ!」

白い腕が伸びて来て引っ張り起こされる。引っ張っているのはあの美しい天人だ。呆れたような強面の天人もいる。そしてもう一人、真っ黒の服を着た仏頂面の男が座っていた。

「ハハハ!猿猿お猿、オオ、無駄に睫が長いな!」
「ヒッ」
「オイ止めろよ。怯えてんじゃねえか。今にも死にそうだ」
「それどうするんです、榎さん。此処を見られたんじゃそのまま帰す訳にもいかない。またあんたの家に連れていくつもりですか?」
「記憶消して帰しちまったらどうだ?てめえならできるだろ?京極」
「簡単に言わないで下さいよ、旦那。大体旦那も榎さんをちゃんと止めて下さい」
「仕方ねえだろう。俺ァ難しい術は使えねえんだよ。阿呆はあの通りだ。此処に連れてくるしかねえだろうが」
「僕はあんたたちの面倒処理係じゃないんですよ」
「何を言う!京極、お前は『テンテイ』なんだからそれが仕事だろうが!それにな、この猿はお前の屋敷に置こうかと思ってるんだ」
「あんたは何を言ってるんだ」
「お前の屋敷は広いのにお前一人しかいないじゃないか」
「石榴が居ますよ。それにそれは人間じゃないか」
「石榴は僕が来ると逃げる!これは猿に似ているから猿で善いだろう。のろそうだから丁度善い」
「結局あんたの都合じゃないか」

そう言って黒衣の男は溜息を吐いて関口を見た。関口は散々遊ばれてまた気絶している。

「仕方ないな。榎さん、こんなことはこれで最後にして下さいよ」
「よし、決まりだな!」

男は溜息を吐いて立ち上がる。恐らく湯の準備だろう。

「しかし京極の奴、よく承知したな。俺ァてっきり帰すと思ってたぜ」
「ふふふ」
「あん?てめえさては何か知ってやがったな」
「下駄男には秘密、ダ」
「気持ちわりい言い方するんじゃねえ」
「そうだ!あっちゃんにも教えてあげようじゃないか!」

天に新しく小さな青い星が出来た日、それは丁度七月七日でした。その日一年に一回の逢瀬を迎えた織姫と彦星は、織姫の兄の家にきた新しい住人の事で大いに盛り上がったそうな。



青く燃える黄色
(多分それほど不幸ではない筈だよ。多分)




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