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離さない



俺は教室で一人
ある生徒の机を眼鏡越しに見下ろしていた

触れると彼と過ごした日々が蘇る
それに自然と笑みが零れた









離さない










出会いは入学式の日

友達と話しながら入学してくる多くの生徒の中に彼はいた

一人だけ無愛想で少し浮いていた彼
だけど
男にしては白い肌に漆黒の髪がよく似合っていて綺麗だった


それからだろうか
あまり人に興味を持たないこの俺が
彼の姿を目で追うようになったのは


そして
二年の春

彼は俺の生徒になった


その瞬間から
どうでも良いと思っていた学校の教師と言う仕事が何故だか楽しみになった

毎日毎日
彼の姿を見れて名前を呼んで目があって返事が返ってくる

そんな些細な事が堪らなく嬉しかった


“多串君。”

“先生、土方です。何時になったら覚えるんですか。”

“あー…分かった分かった。そんな事より一緒にプリント職員室に運んでくんね、多串君?”

“アンタ全然覚える気ねぇだろ!!”


こんな他愛もない話が楽しくて仕方無かった

俺の知り合いで彼の同級生である高杉からは「お前ぇが誰かに執着するなんて見物だな」っと笑われた


ある日
放課後の進路指導室
二人きりでプリントの整理をしていた時


“俺、お前が好きなんだけど…付き合わねぇ?”

“え?”


顔を赤くして走って去っていった彼の反応が今でも忘れられない

それから彼は俺を意識するようになった

だけど
なかなかそれから進展がなかったから
高杉に「押して駄目なら引いてみろ」と言われて、一時彼にあまり話しかけなかった

そしたら彼は俺の手を引いてあの告白した教室へと入った
黙ったまま俯いている彼に無愛想な言葉を投げ掛ければ
俺の白衣を強く握り締め怒鳴った


“俺の事が好きなんじゃねぇのかよ!!なんで、避けたりするんだよ…なんでこんな気持ちになるんだよ。”

“うん、ごめん…大好きだよ、土方。お前の返事聞かせて?”

“馬鹿教師…ずりぃん、だよ。”


俺の胸に頭を預け声を殺して泣いている彼
その揺れる肩を抱き締めれば
背中に手が回った


あれから俺等は付き合い始めた


「はは、懐かしいなぁー。」


彼は覚えているだろうか
俺は何一つ忘れる事なく覚えている
こんな時だから鮮明に蘇る思い出

開けっ放しの窓から
春になり掛けているのか温かい風が教室に入り、俺の髪を靡かせた


「土方…」


「何ですか、先生。」


「!?」


独り言で呟いた言葉のはずだった
聞き覚えの有りすぎる声で返事が返ってきた事に驚き振り返る

其処に立っていたのは
紛れもなく彼、土方だった


「え、え、何でお前ぇが此処にいんの?ゴリラ達とのお別れ会はどぉしたんだよ。」


「…行かなかった。」


「何で?遠くに行く友達とか会えなくなるかもしれねぇんだぞ。」


「…。」


無言で俯いた彼
嬉しい反面名残惜しくなる

なるべく冷静さを保ち話し掛けた


「ほら、何でも口に出して言葉にしねぇと分かんないよ?」


「…何で分かんねぇんだよ。」


「?」


小さな声で呟いた言葉は届かなくて
疑問符を浮かべると
彼は俺の元へ駆け寄って来た

自分の胸の中に顔を埋め
啜り泣く声が聞こえる
ゆっくりと頭を撫でると黒い綺麗な髪が指の間をすり抜けた


「俺はッ、アンタと離れる方がよっぽど辛いって、何で分かんねぇんだよ!!」


撫でていた手が止まる

彼がこんな事を言ったのは今までで初めてではないだろうか


「い、やだ…銀八ぃ、いやだ…よ。」


泣きながら離すまいと白衣を強く握りしめている彼


良いのだろうか

俺なんかを選んで
こんな駄目な人間を選んで
もっと俺は彼の隣にいて良いんだろうか
彼と共に時を過ごしても良いのだろうか

お前は俺の傍にいてくれるのか?


「なぁ、土方。」


「?」


「本当に俺で良いのか?お前はこれから大人になっていろんな世界を見るんだ。そして、いづれ良い人を見付けて結婚して子供が出来て家族を持つかもしれねぇ。そんな未来を捨てる事になるんだぞ?」


多分、今自分は情けない顔をしてるだろう

彼は胸に埋めていた顔を上げて、俺を真っ直ぐに見上げた


「それでも俺は、銀八と共に生きる事を選ぶ…アンタの事が好きなんだ。」


その言葉を聞いた瞬間
彼の唇を奪った


「俺も愛してるよ、十四郎。」


顔を赤くしている彼の片手を掴み広げさせる
其処に小さく冷たい物を置いた

彼は手の中に収まったそれを見て目を見開く


「もう、離さないから。」


今度は彼から二度目の口付け




手には小さな銀色の鍵を握り締めていた










★FIN★





もう一つの卒業ネタぁ。
こっちは先生と生徒で(笑
鍵はもうお分かりでしょうが
銀八先生の家の合鍵です!!
同居とか良いなぁ…←


By.黒蝶 紗紅桜



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