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20091205〜愛皇ver.〜



 煌びやかなシャンデリア。

 様々な光沢を放つ装飾品や、パーティードレス。

 老若男女、皆がその身を誇張するように、場内を行き交っている。

 今日のパーティーの主役である皇子――ルルーシュは、金で装飾された堅苦しい椅子の上で強張った身体をほぐそうと、軽く息を吐いた。

「――殿下? どうかなされましたか?」

 つもりだったのだけれど、ことのほか大きくため息が溢れてしまったらしい。
 ルルーシュのすぐ傍に控えていた彼の騎士――スザクが、気遣わしそうに主の顔を覗き込んできた。

 大きくて、感情が一目でわかるようなその翠の瞳と視線を合わせたルルーシュは、眉尻をわずかに下げて困ったように笑った。

「いや…、少し疲れただけだ」

 今日のパーティーは、ルルーシュの生誕を祝うものだ。
 この国で貴族と呼ばれる者は皆招待されたものの、良い機会だとばかりに、次期皇帝候補と噂されるルルーシュに取り入ろうとしてくる。

 先ほどから媚びへつらうような世辞ばかりを耳にして、さすがにルルーシュも困憊していた。

 目の前では、人々が優雅な曲に合わせ、場内を所狭しとステップを踏んでいる。

(こんなパーティー、早く終わればいいのに……)

 日々の政務の疲労に輪をかけるようなこの催し物に、だんだんと嫌気がさしてきた。

 それを紛らすように、先ほどボーイから受け取った白いぶどう酒を、一気に胃の中へと流しむ。
 そして空になったグラスを、ぐい、とスザクの目の前に差し出した。

「おい、もう一杯貰ってこい」
「駄目です。今のでもう三杯目ですよ」

 スザクは無駄のない手つきでそのグラスを受けとると、やんわりとルルーシュを宥めた。
 見るからに酔いが回ったような火照った顔に、スザクはわずかに苦笑する。

 そういえば、この人は昔からパーティーなんて仰々しいものが苦手だったな、などと今さらながらに思い出した。

「…一度、会場を出ましょうか?」
「え?」
「一通り挨拶も終えたことですし、少し休憩を取られてはいかがかと」

 スザクのその提案に、ルルーシュはわずかに逡巡する素振りを見せた。

 幸いにも、次にルルーシュが出番となるのは、このパーティーの終盤だ。
 招待客は皆それぞれがこの場を楽しんでいるため、たとえ今自分が抜け出そうと、それを気にとめるものはいないだろうし、特に問題はないと踏む。

 ルルーシュはスザクと視線を交えると、意味深な微笑みを浮かべて「そうする」と頷いた。


     □



「で…殿下? こっちは……、」

 戸惑ったようなスザクの声を背中で受けながら、ルルーシュはどんどん先を歩いていく。

 時折、ちらりとこちらに振り返っては弧を描く唇を目にして、スザクは頭に疑問符を浮かべた。

 てっきり風のあたる城外へ出ると思っていたのに、今歩いている通路からして、目の前の主の行く先は明らかにプライベートルームだと思われる。

 すぐにでも横になりたいほどに疲れさせてしまったのだろうか、と思案していると、程なくして予想通りの場所へと行き着いた。

 重厚な造りのドアを押し開き、すんなりと中へ入るルルーシュに対し、スザクは部屋の入口で立ち尽くす。
 いくら専任騎士とはいえ、主の部屋に無遠慮に踏み入るのは気が引けた。

「? 何をしてる。入れ」
「えっ、あ、はい!」

 しかし、そんな逡巡も虚しく、訝しげな口調でそう言われてしまっては、スザクも素直に中へ入るしかない。

 後ろ手で静かにドアを閉めると、室内に漏れていた通路の明かりが完全に遮断された。
 それでも、窓から差す月明かりのおかげで、ぼんやりとお互いの姿が確認できる。

 ルルーシュは軽くため息を吐くと、肩の留め具を外して、重たいマントを一人掛けのソファの端にかけた。

「まったく……ただ座って客の相手をするだけってのも疲れるな」
「今日は殿下のお誕生日ですからね。人々は皆、殿下にお祝いの言葉を述べたいのですよ」
「それにしたって、あの人数相手じゃ骨が折れる」

 再度、ルルーシュのため息を耳にしながら、スザクは部屋の明かりを点けようと壁に手を這わせる。

「っ、待てスザク!」
「え――、っわ!?」

 目敏くその動きに反応したルルーシュは、その手に自分のそれを重ねることで制止した。
 点された明かりは一瞬で、二人はまた薄闇の中に閉ざされる。

「……で、殿下?」
「違うな」
「え?」

「二人のときは、名前で呼べって言っただろ?」

 そう言って三日月形に美しく弛んだ唇に、思わず一瞬見惚れると、ぐいと襟元を掴まれて引き寄せられた。
 そして同時に合わせられた唇の熱に、スザクは驚いて目を瞠った。

 数年前からこういうことをする仲だとはいえ、ルルーシュのほうからキスをしてきたことなんて、数える程度しかない。

 立ったままの不安定な状態でのキスに、ルルーシュの脚がわずかに揺れた。
 スザクは二人分の体重を壁に凭れて支えながら、その口づけを受けいれる。

 間近でふるふると震える睫毛を見る限り、ルルーシュもかなり精一杯なようだ。

 だんだんと深くなる口づけの途中で、ルルーシュが恐る恐る舌を伸ばしてきたので、スザクはそれを軽く吸いあげる。

「ん、ん…っ、」

 鼻から抜けるような小さな声とともに、ルルーシュの身体から力が抜けた。

 細い腰を両手で支えて唇を離すと、紫色の瞳が艶っぽく細められる。
 機嫌が良いのか、くすくすと笑みを溢しながら、スザクの髪をくしゃりと撫でつけた。

「……酔ってるんですか?」
「ああ、酔ってる」

 ルルーシュはそう言うけれど、この暗がりでは見た目にはよくわからない。
 ただ、シラフだと絶対にしないだろうということばかり仕掛けられているのはわかった。

(……やっぱり、酔ってる、んだろうな)

「誕生日だからな。いいだろ、たまには」

 スザクの心を読んだような言葉とともに、ルルーシュはまた唇を寄せる。

 啄むように小さく何度も口づけられ、スザクは一瞬の理性との戦いののち、素早くルルーシュの身体を抱きあげた。
 そして、その細くて軽い身体を、労りつつベッドに横たえた。

「なんだ、積極的だな」
「……誘ったのは貴方ですよ」

 「そうかな」なんて言って、ルルーシュはとぼけたように薄笑いを浮かべる。

 スザクがルルーシュの上に覆い被さると、白い手のひらがスザクの頬に触れた。
 見下ろすルルーシュの姿態は、月明かりに照らされて、思わずため息が溢れるくらい美しい。

「やっぱり、お前といるのが一番落ち着く」

 そう言うと、ルルーシュはふわりと柔らかく微笑んだ。

「っ、ルルーシュ…!」

 堪えきれずに、愛しいその名を紡いだ唇で、ルルーシュのそれを塞ぐ。
 普段呼ばないその名を口にするのは、なんだか少しだけくすぐったい。

 それでも、ルルーシュは自分の名前をスザクに呼ばれると、いつも嬉しそうに笑っていた。

 先ほどよりも深い交わりを解くと、やっぱりルルーシュはどこか嬉しそうに口許を綻ばせる。

 それにつられるように目許を弛ませたスザクは、ルルーシュの手を恭しく掬いあげると、甲にひとつキスを落とした。

「誕生日、おめでとう。ルルーシュ」

 囁くように優しくそう言うと、ルルーシュの頬が照れたようにほんのりと染まった。

「まったく……お前の一言には敵わないな」
「え?」

 スザクが思わず聞き返すも、するりと首に巻きついた腕に力をこめられてはぐらかされる。

「早く終わらせないと、客が不思議がるぞ」
「……それって早くして欲しいって意味?」

 「まあ、そういうことにしておく」と言って、ルルーシュはまたいたずらっぽく微笑んだ。



End





まず企画者様、参加者様、皆さんお疲れさまでした!
私はぎりぎりまで迷惑かけてしまったのですが、こういう形でルル誕を祝えて大満足です。
ありがとうございました。

今回の設定は私の趣味で書かせていただいたのですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
最後に、ここまでお目通ししてくださったあなた様に感謝!

20091205 イソラ





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