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#5 ツッコミ所が違うから!








一ヶ月後



撮影当日になっちゃったわけです。








仕事内容は跡部景吾のニューシングルのジャケットとPV撮影


…本当にこんな大仕事引き受けて良かったのでしょうか?

そんなことを思いながらスタジオに入るとスタッフさん達からの視線を一気に浴びた。
もちろん仕事上そんなことには慣れているが、何せここのスタッフさん達は跡部側の人達だ。多少の緊張感はある。…多少ね。


「おはよーございます、苗字名前で…す…」



シンと静まり返っている中、挨拶だけはしっかりしなさい!という社長の教えは頭からすっぽり抜けて恐る恐る挨拶をすると

金髪天パが目の前に現れた。



「すっげー!ホントに名前ちゃんだC〜!」
「は、はい…」



………C?
可愛い、けど何だこのヒト








「ジロー…こういう時ばっかり起きてんじゃねぇよ」

出たやがったな
至上最悪最低俺様セクハラ男!


背中に温かみを感じた瞬間に状況を理解したが、…少し遅かった。

「今日は黒かよ、誘ってんのか?」
「ッ…!?」

腕を回すな!
服を覗くな!
耳元で話し掛けるなあああ!


「ひッ、人前で何してんですか!」
「…人前じゃなきゃ良いんだな?」
「そーゆー問題じゃないですっ!」

跡部の手を振り払い目の前にいるジローと呼ばれた人物の後ろへ隠れると、ククッと笑いながら控室の方へ歩いていってしまった…。
ただセクハラしに来ただけなのか?


「ところでアナタは…?」
「あ!俺、芥川ジロー!よろしく〜」
「よろしくお願いします…」

あの跡部景吾と知り合いなのか
気になるところではあるが、あの男になるべく関わらないほうが良いと直感的に感じるので聞くのはやめておこう。





「名前ちゃん、手出して〜」


手を差し出せばいろんな味の飴がどっさり

くれるの…かな?

関わらないでおこう、なんて酷いこと考えちゃったなぁと思いながら顔を上げると、天使のような微笑みでジロー君は言った。





「それ撮影に使うから食べないでね」


……なら何故渡した



それから数分間、飴を手に持ったまま放置されていたところを跡部が発見し、早く着替えろ!と怒られ楽屋に放り込まれたのだった。


















『衣装チェックしますので着てみて下さいね』

そう言われたのが1分前





「なんだこれ…」

置いてあったのは何とも過激なセクスィィィドレス
上半身は布がVの字型に肩から下ろされているのみ。足首まであるロングスカートはスリッドが足の付け根まで入っている。

一着だけとは聞いていたが、コレというのは…どうなんだろう



「でも仕事だし…頑張ろ!」

諦めて衣装を手に持つが…着る勇気が出ない。似合うのかコレ。
あ、そういえば下着ってこのままで良いのかな。ギリで自前パンツ見えちゃう気がするんですけど…


「終ったか?」
「…!」

この真後ろからの語りかけも大分慣れてきた……気がするのにまだ体が硬直してしまう。
睨みつけようと振り向こうとしたのだが、跡部さんの顔が一向に離れないのでそのままスルーで。近くでなんか見れません!



しかし…ね、


「着替え中なので入って来ないで下さい」
「遅ぇから様子を見に来た」
「わざわざ入って来ないで下さいっ」

鍵どうやって開けたの?
内鍵しかないし、ちゃんと鍵かけたよ?



「俺様に不可能はねぇんだよ」
「あんたマジシャンか」
















それから2時間後、


メイクと着替えを終えスタジオに入ると初めに目に入ったのは不覚にも跡部景吾であった。
撮影用のソファーに堂々と座り優雅にコーヒーを飲む様は誰もが見惚れるだろう。



こちらに気付き視線を向けた跡部はゆっくりと立ち上がり、視線を逸らさず真っ直ぐ歩いてきた。目の前に。あれ、すっごい至近距離…

見上げようと顔を上に向ける前に既に跡部によって上を向かされていた。


「似合うじゃねーの」
「え、あ、ありがとう…ございます…」

「……急にしおらしくなったな」
「きき緊張してるんですっ!」



よくスタッフや共演者に「緊張しているようには見えない」と思われることが多いが、カメラが向いていても実際は心臓バクバクだ。





「唇震えてるぜ」
「え…?」








ほんの一瞬

瞬きなんてする間もなく








遠くでメイクさんの「メイクやり直しじゃないですか!」という叫び声が聞こえた――。





ツッコミ所が違うから!

(跡部君!私の最高傑作だったのに何てことするの!)
(グロスくらいすぐ塗れるだろーが)

(こんな沢山の人前で…キスされた…)
(たまんねぇなコイツの感触)


――――――――――
跡部さんの変態化が加速しとる…



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