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愛なら売ろう/はる様(跡部)



「跡部さんちの景吾くーん」


少し席の離れたそいつのもとまで行って、名前を呼ぶ。

なんだよテメー、と言った如何にも喧嘩を売ったような目つきは、とてもではないけれど友人に向けるべきものではない気がした。
そんな視線を軽くかわせば、そいつの目線に膝を落として。


「今日のお昼は何ですかー?」

「名前には関係ないだろ」

「ありますあります、おおありです」

「はあ?」


ますます憎しみの念がこもったような瞳にあたしが映りこむ。


「実はあたし、お弁当を忘れてしまったのです、今日」

「だからなんだよ。とっとと買いに行ったらどうだ」

「この貧乏名前ちゃんはそんなお金は持ち合わせていないのですが」

「だったら氷帝なんて来んな。
あ、そうだな、忍足の馬鹿に借りたらどうだ。あいつがメス猫の頼みを断るわけがないからな」


だからとっとと此処から立ち去ってくれとでも続けたさそうなそいつ。
あたしが嫌ですと否定したら、その顔を綺麗に歪ませて溜息をついた。


「だから俺様にどうしろって?」

「うん。お弁当を分けてください」

「それなら忍足の馬鹿に分けてもらえっつってんだド阿保」

「嫌です嫌です」

「だったら俺様以外の誰かを頼れ」

「駄目ですってば」


表情にも現れるほどの呆れを更に表面化した跡部のやつは、さっきよりも大きな溜息をついて、あたしを一瞥。
そうしてやっとのことで箱の蓋を開けたそいつの肩を軽く叩きながら、あたしは言った。


「だってほら、跡部さんちのお弁当がいちばんおいしそうですもん」


言った途端、そいつに今までに無いほど冷たい視線を向けられたけれど、気にしないことにした。


「駄目ですか?ねえ、ねえ」


二度あることは三度ある、ってやつで、きっと最後の溜息を漏らして、跡部はあたしをじっと見た。
そのあと何か考えたような表情ののち、あたしを指差しながら言った。


「優しくおおらかな俺様が貧困のお前から金をとろうなんてセコイまねはしねえ」

「あ、はい」

「だが、タダで俺様の弁当を名前なんぞにやるなんて、虫が良すぎるだろ」

「ああ、…はい」

「だからだ」


意味深げに言葉を切った。
そうしてそいつはにやりと笑って、最後にヒトコト。


「明日一日、俺様に付き合えよ。それでチャラにしてやる」



綺麗な瞳に、心臓の高鳴る声が聞こえた気がした。


愛なら売ろう
(あの、跡部さん。そんなんじゃお釣りがでちゃいますよ)
(うるせー黙って食えよ)


20081224




あきゅろす。
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