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 ↓<後編>

いつも通りの日常

でも、



笑えていない自分がいた…。





男子テニス部が全国に行けることは本当に嬉しいし心から祝福してるつもりだった。

しかし先に訪れたのは悔しさ――





自分達は全国に行けない

なのにどうしてあいつらは行けるの?





そんな思いを振り払うようにコートに立ち、無我夢中に打ち続けた。

打つたびに昨日の試合が甦る…


――どうしてあの時、

打てなかったんだろう――








結局名前は一日中授業には出て来なかった。
鞄は置いたままだし探しに行ってやるか、とまず向かった女子テニス部の部室。


聞こえてきたのはボールを強く叩くインパクト音





「荒っぽい音だな」

打っている人物は承知の上だ。



何十球と打ったボールはコート上に散らばっていたが、一部分だけ集中して打たれた痕が残っていた。しかし狙いは定まっていなかったのか痕は数ヵ所ある…。


名前はサーブを打とうとしていたのかボールを高く上げていた。しかし声に反応しビクッと肩を揺らしそのまま上げたボールなど忘れて跡部に向き直った。

「打つか避けるかしろよ、テメェは」
「跡部…」

名前の頭上に手を伸ばしボールを取った跡部はそのボールで名前の頭を小突く。



――跡部が何故来たのか。


自分を探しに来たのではないか、という期待。そんな考えを巡らせていると、跡部はいきなりラケットを奪い取ったのだ。

「ちょっ!返してよ!」
「もう打つな」


いつもの見下した感じではなく真面目な顔で呟かれた言葉…。
それは名前の行動を否定するもの。

「何よそれ…」
「自分でわかってんだろ?」



そう言いながら指を指されたのは、

右腕



否、右手首―――。





「腕貸せ」
「…ヤダ」

手首を掴んだ跡部の手を咄嗟に払う。


「腫れてんだろうがッ!!」



普段の跡部には有り得ない真剣に怒った表情、怒声。


「…ごめん」

そう呟いた名前は奪われたラケットを奪い返し腕の痛みに顔を歪ませながらボールを上げてサーブを打った。

「名前!」

跡部の静止の言葉も聞かず再びボールトスをした時だった…





「ッ…!!」

ラケットがカランと音をたて名前の手から滑り落ちる。
悲痛な表情を浮かべ手首を抑えながらまだ打とうとしている名前の腕を掴み停止させた。

「…もうやめろ」
「………」
「今日何かして昨日の試合結果が変わるのか?」


跡部の言っていることは最もだ


「今打てたら…何であの時は打てなかったんだって後悔するだろ!」
「跡部にはわかんないよ!!」


跡部の手を再び払いのけ、叫ぶ。



「跡部は…強いし、チームは負けたけど手塚君との試合には勝ったし、全国行けるし…!」


八つ当たりしたってしょうがないのに



「全国に行けるのは運だ」
「運も実力の内、でしょ?」


跡部の表情は相変わらず哀しそうで…


それは同情?友情?

それとも……?





「あたしには実力も運もなかったなぁ」

わざと明るく振る舞っても跡部にはきっとバレているだろう、そういう男だ。



「名前…」
「あ…と……べ?」

怪我をしていない方の腕を引っ張られたと思ったら


ゴツゴツした筋肉質な肩に顔が触れ、跡部に抱きしめられているという状況を理解する。香水のせいか反論する前に照れてしまった。



「我慢すんな」

見上げると真剣な眼差し
背中に回された腕が温かい。


「…してないよ」

あぁ、どうして私は素直じゃないんだろう



そんな想いも跡部には全てお見通しのようで…


「一人で泣くな…胸なら貸してやる」

力の込められた腕に抱きしめられながら
泣いた――。












――全国大会2回戦

氷帝 対 青学

S1
跡部 対 越前








タイブレーク中に倒れた跡部と越前――



最前列まで行き身を乗り出して必死に叫んだ。

「立って跡部ーー!!」

目に涙が溜まって跡部の姿がだんだん歪んでいるのに立ち上がる瞬間を見逃しまいと瞬きすらできない。
涙が零れ落ち地面に落ちたと同時に、


跡部が立ち上がる――。



「跡部ッ!!」





勝った、と

氷帝全員が思った…



しかし





跡部は立ったまま一歩も動くことはなかった…。



「跡部…」


名前の涙はとめどなく流れ続けた…。












タイブレークに突入後、あまりの試合時間の長さに意識を失った。
倒れてる間、意識はないのに何故かずっと同じ人物の声が耳に届く――。



『立って跡部ーー!!』





誰だなんて分かっている――



うるせぇよ

言われなくても立ってやる

お前が勝てって言ったんだろ?

勝ったら一目散にお前の所に行ってやるからな

覚悟しろよ?





名前、


俺は――…












*

目を開けると一面真っ白な天井。独特な薬の匂いで病院のベットにいることを把握した。
少し周りを見渡してみるとベット脇に寝息を立てながら眠る人物を見て自然と笑みが漏れる。


「名前…」

随分泣いたのだろう、痛々しいほど目の回りが腫れぼったく赤くなっていた。
涙の痕をなぞるように指で触れ…



「……ん」


起きちまったか…
もう少し見ていたかったけどな



目を覚ました名前は跡部の姿を見た瞬間、目を見開いて勢いよく体を起こした。

「あ…跡部っ…!」


懸命に叫んだのだろう
声が枯れていた…。





「俺は…負けたんだな…」

短くなった髪をギュッと握りしめ呟いた言葉を聞き名前の目から涙が溢れた。
止まることのない涙を手で拭いながら。

「なんでお前が泣くんだよ…」
「泣かないアンタの代わりに、じゃないの…?」
「減らず口叩ける余裕あるじゃねぇの」



数日前のように名前の腕を引き自分の腕の中に納めた。

「跡部…?」
「言っただろ?胸貸してやるって…」
「…ありがと」

微笑んだ名前の顔がとても綺麗で自分の為に泣いてくれているんだと思った瞬間、とても愛おしく思った――。

けれど、一年坊主に負ける程度の男を名前はどう思うだろうか…。珍しくネガティブな想いが先走る。





「俺は自分は強いと確信していた。けど…負けた」
「跡部は強いよ!どんだけ頑張って練習してたか知ってるもの!」

手をギュッとにぎりしめ必死に語る名前には申し訳ないが、何故だか自分を否定したくなった。

きっとこれが人の弱さだ――



「…けど俺は負けた」
「強い人が100%勝てるわけじゃないよ…運だって…」
「運も実力の内、だろ?」
「……」

テニスコートで言われた名前の言葉をそのまま返すと返答に困ったのか下を向いてしまった。





人の弱さを知った俺はまだまだ強くなれる



「次は絶対勝ってやるぜ、越前!」

窓の外の空をを見上げながらそう言った跡部を見つめ名前は微笑む。


「跡部はやっぱ強いよ」
「当たり前だろ?」
「さっきまでヘコんでたくせに」
「気のせいだろ」





フフンと見下しながら笑う姿が

1番キミらしいよ



だからいつまでも





そのままのキミでいて

(それにしてもその髪型違和感ないね…)
(アーン?俺様は何でも似合うんだよ)
(ジャッカルでも?)
(………)
(葵ちゃんでも?)
(……殺す)


――――――――――
ジャッカル&葵ちゃんファンの方すみません…
OVAの断髪も好きです!





あきゅろす。
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