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◆そのままのキミでいて(A)
※試合後は完全オリジナルです








「おはよ」
「………あぁ」





朝、登校して昨日聞いた噂が本当だったと、

跡部の反応で確信した。








表情や態度には表われていないが、周りの空気がピリピリしているのが解る程に跡部の周囲は近寄りがたかった。


しかし名前の席は跡部の隣――
いやがおうでも跡部の周囲に踏み込まなければならない。

そして意を決して話し掛けた挨拶が先程の会話だったのだ。



気まずさを感じながら自分の席に腰を降ろすと、タイミング良く廊下からバタバタと騒がしく教室に入ってくる女子生徒に視線を移した。

「名前〜昼練どーする?」

話し掛けて来た彼女は女子テニス部の副部長。因みに私は部長だ。


「んー…昨日の疲れあるかもしれないしナシにしよっか」
「了解!あ、跡部君!昨日は
「友達!」

名前はチラリと跡部を盗み見る。
すると向こうもこちらの様子を見ていたようで目が合ったものの特に何の反応もなく視線を外していった。
名前は廊下に出ると回りには聞こえない声で友達に話し掛ける。

「バカッ!昨日のことは言っちゃダメだよ!」
「ご、ごめん…」

跡部は気にしていないかもしれない。しかしやはりこちらは跡部に気を使ってしまうのだ。








その後は本当に普通だった。
真面目に授業受けてたら跡部にからかわれて怒って先生に私だけ怒られて…



でもいつもと違うのは、


普通にしてるはずの跡部の回りの空気と

テニス部のメンバーが休み時間になっても跡部の所に来ないこと――。












いつもは活気ある男子テニス部も大会の次の日ということもあって今日は休みのようだ。
女子も同じ理由で休みである。





「練習熱心なんだな」

部活はないものの、練習中の技を習得するため打ち込みをしていると傍観席から聞こえてきた声。

「体動かしたくてね…」


別に嘘を言ったわけではない
ただ『全国大会に向けて頑張ってます』って言っていいのか…


跡部は一瞬目を見開き、フッと口端を上げいつもの見下したような視線で笑っていた…。

「…お前、表情に出てんだよ」
「……え?」
「朝からバレバレだ」


途端に赤くなる顔

そんな名前の姿を見て満足したのか、跡部はくるりと踵を返し階段を上がっていく。
その姿をぼーっと眺めていると、跡部は一度進めた足を止めて振り向き名前に向けて一言発した。


「あと10センチ腕上げて打ってみろ」
「え…?」





それは名前が練習していた技のヒントだったのだ――。












―― 一週間後



開催地特別枠として選ばれたのは氷帝学園。
男子テニス部は全国大会行きを決め、学園中が活気に溢れていた。


いつも以上の視線にやれやれと溜め息をつくしかない跡部は、自分の教室に入ったが相変わらず注目の的になってしまう。
しかし気にせず自分の席に着くといつもと変わらず隣の席には名前がいた。


「よぉ」
「あ、おはよ…」

携帯を見ていた名前に声をかけるとほんの一瞬表情が曇ったように見えた。しかしその理由を跡部はまだ解っていなかった…。



「跡部様!全国大会出場おめでとうございます!」
「頑張って下さい!」

席に着いてもキャアキャアと群がり騒ぎ立てる女子達に多少うんざりしながらも対応していると、その中の一人が口を開く。



「女子は残念でしたけど、男子は全国に行けて良かったですよね!」



…気付いた時には既に名前は席を立っていて授業に出ることはなかった――。












名前はサボる時に必ずいる場所がある。


「やっぱりここにいたのか…」

屋上の扉を開けるとフェンスに寄り掛かって校庭を眺めている名前の姿。


校庭には

テニスコート……



「あれ〜ダメじゃん生徒会長がサボっちゃ」
「俺はいいんだよ」
「オレサマー」
「うるせぇ」

名前の隣にフェンスを背に座り込むんだ跡部は「つまんねぇんだよ」と呟き顔を背けた。照れていることに気付いたのか名前はクスッと笑いを零す。





「跡部、全国頑張ってね!」
「……何だ今更」

もう聞き飽きた、と付け足すと名前は少し困ったように苦笑い。



無理矢理笑ってんじゃねぇよ…





「さてっと…午後は出よっかな」

そう言いながら体を伸ばし天を仰ぐ名前を見上げるとパチリと合った視線。
ニコリと微笑む名前の笑顔は僅かだが哀しさを含んでいる。

それに気付けるのはきっと名前をずっと見ていた自分だけだろう…





「勝ってね……私の分も…」





バタンと扉が閉まり

残った跡部は、



天を仰いだ――。








to be next…




あきゅろす。
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