◆すれ違った想い(A)
クラスメートでもなく友達でもなく
ただの部活仲間
それが今の私と跡部の関係
人は恋をすると綺麗になるらしい――
『テメェよか綺麗な女なんざ、そこら中にいるぜ』
女は恋をしてオンナになるらしい――
『お前本当に女か?』
好きな人が出来たら、という話を友達としていたら――
『お前に好かれた奴は気の毒だな』
そんな気の毒な奴は今日も私の気持ちに気付かない…。
*
「なら告っちゃえば?」
「えっ!?」
椅子がガタンと倒れた。
あまりの大声にクラス中から視線を集めるが、友達は「見世物じゃないわよ!」と睨みつける。シッシッと手を払うとクラスメート達は恐れ多くて何も見ていない振りをするのだった。
「無理だよ。向こうは友達としか…寧ろ友達とも思ってないかも…」
「そんなことないでしょ」
「だっていつもバカにされてるよ?しかも私じゃ釣り合わないし…」
名前の頭をよしよしと撫でた友達は、あまり弱いところを見せない名前の姿に心を打たれおもいっきり抱きしめる。
そんな時にタイミングよく横から来客者が現れた。
「オイ…昼のミーティング忘れてんじゃねぇよ」
突然の跡部の登場に友達は邪魔すんな、とばかりに睨みつけている。対して名前は苦笑していた。
「何だ?」
「…話、聞いてた?」
「…いや」
眉間に深く皺を刻む跡部。
内容が内容だけに名前は聞こえていなかったことに安堵していた。
「ミーティングは?」
「さっき終わった」
「ごめん…」
決して怒っているわけではないのに何故かいつもより低音の跡部の声…。
顔をチラリと伺うが、いつもと変わらず不機嫌なままだった…。
*
本日の練習内容は、レギュラー同士の練習試合
マネージャーの名前は試合のスコアを付けていた。
休憩時間はドリンクとタオルを配らないとならないので意外と忙しい身なのだ。
部室に戻りレギュラー全員分のドリンクを手にした時、扉を開く音が聞こえ振り返ると試合を終えた忍足と跡部がいた。流れる汗を拭きながら同時に一言。
『ドリンク』
単語しか言わない二人に少しイラつきながら忍足にボトルを投げ付けた。しかし忍足は難無く受け取りゴクリと一口。
「投げへんでもえぇやん」
「受け取ったじゃん」
「まぁ、天才やからな」
「はいはい」
忍足の発言に溜息をつき、ふと跡部を見ると既にボトルを持ち部室から出ていた。
「行かなくてえぇの?」
「へっ!?ななななんで!?」
「吃りすぎやろ…解りすぎや」
「う〜…」
ケラケラと笑いながら出て行った忍足。静かになった部室で顔を真っ赤にしながらその場にしゃがみ込むんだ。
そういえば跡部どうしたんだろ…
普段なら「ちゃんと仕事してんだろうなぁ?」等の厭味の一つや二つ言ってくるはずの跡部が、何も言わずに出て行った…。
何故か気になった名前は跡部の元へと向かった。
テニスコートよりも少し離れた木陰で跡部は休んでいた。よくジローが寝床にしている場所だ。
駆け寄る名前の気配に気付いたのか、跡部は姿を見ずに問い掛けた。
「…なんだ?」
「試合のスコア、見るでしょ?」
「名前か…悪いな」
チラリとこちらを見るがすぐに視線を戻してしまう跡部に、疑問を感じる…。
その反応がどうしても気になった名前はスコア表を開いて見ている跡部の隣へ座った。
「…何か用か?」
隣に座ってしまったのだから今更「何も用はありません」と逃げることもできない。
考えに考えた末、話題にした内容は名前の首をこれでもかと締め付けるものだった…。
「あ、跡部は…好きな人…いる?」
「…アン?」
通常よりも低い声。
顔は見えないが多分不機嫌な顔をしているんだろう。
「…な、何でもない!」
マズイ話題を振ってしまったと後悔するが、時既に遅し。いたたまれなさに急いで腰を上げ立ち去ろうとした…が、
「……お前は」
「え?」
手首を掴まれてしまい逃げれない――
「お前はいるのかよ?好きな奴…」
真剣な眼差しで真っ直ぐ見つめてくる蒼碧い双眼から目を離せない…
風に靡く髪を抑えようにも体が動かない、頭も働かない。
「………る」
「…あ?」
「わ、私のことなんかいいじゃん!跡部はどうなの?」
強引に矛先を跡部に向けた名前だが、今だに一歩も動けない。
「俺は…」
ゴクリと名前の喉が鳴る。
「いるぜ」
跡部の言葉は名前の胸に深く突き刺ささった。
「ッ…そっか、頑張ってね!」
言葉とは裏腹に切ない今にも泣きそうな表情を向け、名前は跡部の手を払いのけ走って行ってしまった…。
通常ならば名前の足になどすぐに追いつける跡部だが、この時ばかりは追いかけるどころか立ち上がることさえ出来なかった――。
ああ…
言い逃げなんてするんじゃなかった…
「明日からどうしよう…顔合わせらんないよ…」
部活を放棄してしまった名前は自室のベッドに寝転がりながら思い悩んでいた。
「聞くんじゃなかった…」
自己嫌悪。
そう思うと立ち上がる気力さえ失せてしまい、バックの中で鳴っている携帯の音にも気付かなかったのだ――。
ピンポーン
家の中には自分一人しかいない。動く気のない重い体を起こし、相手には悪いがゆっくりと玄関へ向かった。扉を開くとそこには…
「あんた部活サボったんだって?」
「友達!?」
部室に置きっぱなしだった名前の鞄を抱えた友達が不機嫌面で立っていた。
「…ごめんなさい」
「よし」
「でも何で友達が?」
友達は放送部。
たまに一緒に帰ることはあるのだが、今日はその予定ではなかったはずだ。
「跡部に頼まれたの」
「え…?」
「部活が長引いちゃってね、名前と一緒に帰ろうと思ったら跡部が…さ」
「そか…」
跡部の名前を出した途端名前の顔色が変わり、その様子を見た友達は何故か踵を返し玄関の階段を降りていった。
「友達?」
「後はお二人でどーぞ」
「え?」
友達に腕を引っ張られながら現れたのは、
「よぉ…」
照れ臭そうにしている跡部だった。
しかし跡部と目が合った瞬間、気まずさから目を下に向けてしまった…。今見えているのは自分の靴と、
名前の前に立った跡部の靴だ。
「名前」
「……?」
「俺が言ったのはお前のことだ」
「…は?」
「好きだ」
何を言っているのか解らず顔を上げると、跡部の右手が左頬を撫で状況が理解出来ない名前はただ呆然と立っているだけだ。
「お前は?」
そう言いながら普段は見せない微笑みを向けてくるから、
涙が止まらないよ
「何で泣くんだよ」
頬を伝う涙を掬ってくれるその
指がとても温かくて
余計に涙が出て来ちゃうんだよ
「…大好き」
最高の笑顔でそう言い跡部の胸へ飛び込んだ。
すれ違った想い
けれど伝えなければ交わらない想い――
(教室で話してた告白ってのは他の奴じゃねぇだろうな?)
(き、聞いてたの!?)
(…聞こえただけだ)
(あ!だから機嫌悪かったの?)
(うるせぇ…)
(…イイ雰囲気のところ悪いんだけどさ)
(友達!)
(邪魔すんじゃねぇよ、とっとと帰れ!)
――――――――――
22000hit 実成様へ
ツンデレ跡部可愛い♪
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