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◆ボクらの記念日(A)








「アンタなんか跡部様に遊ばれてるのよ!」








一ヶ月前、跡部景吾と付き合い始めた。
当時の跡部は所謂プレイボーイで(多分今もそうだろう)あまり良い噂は無かった。しかしそんな奴に惚れてしまったのだから仕方がない、とヤケクソで告白するとすんなりOK。
「好きにしろよ」という返事は記憶に新しい。

それから毎日呼び出されては「跡部様に近づくな」だの「たいして可愛くもないくせに」だの文句を言われている。

しかし、反論はしない。

口論になるのは嫌だし、しかもそれが原因で暴力沙汰なんて願い下げだ。
勿論景吾に迷惑をかけたくないので言っていないのだが、もし言ったら心配してくれるのだろうか…と思う。










そんな考えを巡らしてると、リーダーらしき人物が名前の肩をおもいっきり押す。案の定、尻餅をつきお尻の痛さに堪えながら文句の一つ言ってやろうかと顔をあげると…



すでに室内に人はいなかった。



ガシャ



室内に響いた音に名前は目を見開いた。

鍵を閉められたのだ――。

ガチャガチャとドアノブを回すが動くことはなく、部屋に窓はあるが人が通れる程の大きさではない。
とりあえず窓を目一杯開けて外の様子を見るが人が通る気配は無い。しかも空が薄暗くなっている為残っている生徒は部活をやっている人のみとなる。

(う〜ん…どうしよ…)




その場に座り込み頭に浮かんだのは脱出方法ではなく先程の言葉だった…。


『遊ばれている』


確かにそうかもしれない

『好き』だと伝えても向こうからの返答は無し。
嫌いな人間と付き合うような奴ではないので一緒にいること自体は嫌ではないのだろう。

しかし不安というものは一度生まれてしまうと次第に大きくなっていくものだ――。













部活が終わり跡部は名前を待たせている教室に走って向かっていた。しかし教室には明かりがついていない。

どこをさがしても名前の姿は見ないが、何故か鞄は置いたまま。

「ったく、教室で待ってろって…!」



校舎内、グランド、体育館、テニスコート
校内を走り回り全て捜したが何処にもいない。
携帯は繋がらない。


「名前!」


時間が経つにつれ嫌な想像ばかりしてしまう。クソッ…と声を漏らした跡部は自分らしくないその行動に苦笑した。



名前の告白をあんな返事で返してしまった自分の弱さ。
付き合ってから今日まで自分の気持ちを隠してきたが、名前には伝わっているのだろうか…。












気付いたらもう日が落ちていて窓から少しだけ月が見えた。

「…景吾」

呟いた声の反響にビクッと体が震える…



誰もいない



暗い…




恐いよ…




…景吾ッ…!




口を開こうとした瞬間、
勢いよく扉が開いた。

その衝撃に驚いた名前はビクッと一瞬体が強張るが、恐る恐る扉の方を向くと……





「名前!」





汗だくになって息を切らせた跡部がいた――。


急いで駆け寄り痛いくらいに名前の体を抱きしめる。

「景吾…」

小さく震えている名前の体。
跡部は力を緩め名前の背中を摩る。すると安心したのか段々と震えは治まり、跡部は安堵の表情を浮かべる。

そして「良かった…」と溜め息混じりに小さく呟いた。








「何があった…?」

空気が一変し、跡部の声が部屋に響く。

「……」
「名前、話せ」

顔を上に向かせ問い詰めると観念したのか、閉じ込められた経緯をポツリポツリと語り出した。


「悪かったな…」
「…景吾のせいじゃないよ」
「いや、俺がアイツらに言い聞かせるべきだった」


跡部の『アイツら』という言葉を聞き、思い出すのは閉じ込められる前に言われた言葉…




「景吾に遊ばれてる…って言われちゃった」
「なッ…!?」
「しょうがないよね…可愛くないし閉じ込められちゃうほどドジだし馬鹿だし…」
「んなことねぇよ!」


綺麗なアイスブルーの双眼が名前を真っ直ぐ見つめる




「景吾は私のこと好き?」


数秒の静寂。


「じゃなきゃ付き合わねぇだろ?」
「ちゃんと言葉で言ってくれないとわかんないよ…」

白い頬に流れた涙。



あぁ…
どうして今まで気付かなかったんだろう

名前をこんなに不安にさせていたのは、



俺自身だったんだと――







抱き寄せて呟く言葉は



『キミヲアイシテル』
そんなひとことが
飾らずに言えたなら
どんなに楽なんだろう
もう二度とキミを
泣かせたくないから
何気ない今日と云う日が

ボクらの記念日

 『Anniversary』
 Song by KinKi Kids


――――――――――
ありがちネタですみません…



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